「作り物じゃなくて本物のお花を見てみたいの。この花飾りはママがずっと大切にしてたものだから。」














彼女は大事そうに花飾りを見る。
その目はとても暖かくて、思い出を大切にしているようだった。


シャーリィはそんな彼女に優しく微笑みかけると、手を見た。






そこには一輪の蕾。















「手に持ってるのは花の蕾?」

「このお花だけ咲いてなかったの。だから持ってきたんだけど。ハティの知らないお花なのよ。セネル君かシャーリィ、知らない?」


「悪いけど、花のことは知らない。」

「ごめん、ハティ。私も…」

















セネルとシャーリィが言うと、ハリエットは残念そうにため息をつく。















は?」

「私もわからないわ。ヴァイシスは?」













わからなくて、ヴァイシスに聞く。
彼は蕾を借りると、にらめっこし始めた。
















「…俺、この花図鑑で見たことある。」

『ええっ!?』
















セネルとシャーリィとハリエットが驚く。




















「…何で驚くんだよ。」

「いえ、ヴァイシスさんはそんな柄じゃないですし…」


















シャーリィが慌てて言うけれど逆効果。
だって、本音過ぎるもの。
















「どうせそうは見えないよ。」

「ヴァイシス君、いじけてないで教えてよ!」














ハリエットは彼の膝に攀じ登る。
そしてそのまま見上げた。




















「重いよ、ハリエット。」

「花の事わかったら、あの話考えてもいいわ。」

「本当か!?」

「う、うん。」

















あの話?
一体何の約束をしたのかしら、この子達。


















「…何か約束したの?」

には内緒だ。」

「そうそう。それで、ヴァイシス君。この花は?」
















ヴァイシスはうんうん唸ると、ニヘラと笑った。



















「残念、忘れた。」

「ええ〜っ!?」


















ハリエットのがっかりした顔。










これでした約束は果たされなさそうね。

きっとろくでもない約束でしょうから、ホッとしたわ。


















「なんで忘れるのよ!」

「いてっ…いたいよ、ハリエット。

ただ何と無くだけど、植物学的には割と最近見つかったってことと、なんとかトとかいう名前だったのは覚えてるんだよね。」



















ヴァイシスは一生懸命思い出そうと目を上に向けて考え込んでいる。



















「ウィルに聞けばいいじゃない?」

















私が提案すると、ハリエットは明らかに嫌そうな顔をする。




















「あいつに頼るなんてぜったい嫌!」

「ハリエット…」

「ハティを冷たくするのがあいつの楽しみなんだから!いつもいつもエラそうに、あれしろ、これしろ、あれはするな、これはするな。何様のつもりよ!」



















私は少し、悲しくなる。



ハリエットの気持ちがわからなくもないし、ウィルの気持ちもわからなくない。



でも頑固な私は、どっちかというとウィル寄りなのだと思う。





















「でもそれは、ハリエットの事を想って…」


















私の言葉に、彼女は唇を噛み締めた。




















もあいつの仲間なんでしょ!?」

「ちょっ…ハティ!」
















シャーリィが彼女を止める。
でもハリエットの目は、いつしかウィルを見る目と同じ目で、私を見ていた。


















「ハリエット、ウィルが街のために頑張っている姿を見ているでしょう?

あなたはそんなお父様を持って、誇らしくないの?」
















出来るだけハリエットの目を気にしないように、優しく、優しく語りかける。

彼女の頑なな心が少しでも和らぐように、願いを込めて。




















「そ…それは…」

「私だったら誇らしいと思うな?」
















シャーリィだ助け舟を出してくれる。
ハリエットは俯くと、泣きそうな声で呟いた。

















「だけど、ハティには冷たい!だから…だから…よくわからなくなっちゃう。」

「なら、自分で見極めてみるんだな。」

「自分で?」














セネルの言葉に、ハリエットはきょとんとした顔で彼を見る。
セネルは目を細めて優しい顔で語りかけた。


















「俺達が何を言っても、街の評判がどうであっても、ハリエットが納得しなければ意味が無い。」

「うん。」

「自分の目で今のウィルを見て、自分の頭で考えて、結論を出せばいい。」

「…わかった。そうする。」
















ハリエットは呟くと、私たちに背を向けた。
















「ハリエット?」

「今はもう寝る。」

「そうか、おやすみハリエット。」

「うん、おやすみ、ヴァイシス君。」

「おやすみ。」

「おやすみ、シャーリィ、、セネル君。」














そう言って、ハリエットは階段を上がっていった。

私たちは一息ついて顔を見合わせると、短い溜息をつく。
















「今日はなんとか大丈夫そうだったね。」

「ええ。セネルのお蔭だわ。」

「そうか?」














セネルは照れると頭をボリボリ掻いた。















「お互い意識しているから喧嘩になるのよね。きっと二人なら大丈夫でしょう。」

「そうだといいけど。」

「お兄ちゃんったら!」













私達は笑い合う。
今さっき上がって行ったハリエットには、聞こえないようにね。

















「ヴァイシス、どうしたんだ?」

「…あ、いや…自分の事を言われてるみたいで。」

「は?」

「!…な、何でもない。忘れてよ。」

「変な奴。さて、帰るか。も一緒に帰るか?」

「え、うん。」
















セネルと一緒に帰り支度をすると、二人に「おやすみ」を言ってお屋敷を出た。


















「ねぇ、セネル。」

「なんだ?」

「ハリエット、ウィルになんか言って飛び出したの?」
















彼は記憶を辿って私に話してくれる。
















「確か、父親なんていないとか、ママだけなんだとか言ってたな。」

「……。」


















途端、ハリエットよりウィルの方が心配になる。

だって、大切な娘からそんなこと言われたらとても悲しいわ。

















私も言った事ある。

父様にじゃなくて、兄様にだけれど……。





その時の兄様の顔、今でも覚えてる。




忘れられないもの。


















「私、ウィルのところに寄ってく。セネルは数時間帰ってきちゃ駄目。

なんなら私の部屋に居てもいいわ。」

「な!?ワルターがいるだろ!?」

「いるけど、とにかく数時間帰っちゃ駄目よ!!」

「おい、!!!

……どうしろっていうんだよ…。」




















私はセネルに我が儘を言うと、ウィルの家に走った。



















***************************


うわー、セネルはどうするんだろー(笑)
次回はウィルと二人で……です。

2006/09/29







15へ