雲一つなく晴れ渡った空。
太陽が輝き、惜しみなく慈しみを生きるもの全てに与える。
それを糧にして生きる俺達は、この世界にとって良い存在なのか、悪い存在なのか…。
世界は何も言わないが…
に重い運命を枷せているのだから、俺達は世界にとって良い存在ではないのだろう。
「今日も快晴だわね」
にこやかに輝くの表情を見て、俺の心は軽くなった。
こいつはどんなに重い運命を背負っていても、諦めない。
だからいつでもこんなに明るいのだろう。
…この頑固さが時に、もどかしいものに変わったりもするがな。
「ああ。
その服、着たんだな。…似合っている」
「ワルターったら…」
数日前にが自ら作り上げた服を見、恥ずかしげもなく言ってのけた。
一度同じような言葉を言ったことがあるならば、まあ…再度言うことはたやすい。
「あー、そこのお二人さん。というか、ワルターさん。抜け駆け禁止ですよ」
「そうじゃぞ!ワの字のくせに似合わんこと言うのう」
「あなたにも似合いませんよ、モーゼスさん」
「なんじゃと!」
仲がいいのか仲が悪いのかわからん二人が言い合いを始めた。
は黙って笑っているが、俺からすればうざいことこの上ない。
「行くぞ」
「え?ええ」
そのままこいつらと他の奴らを置いて、の手を掴んで進んでいった。
森林がちょうどよく太陽の光りを遮り、里に続く道は涼しかった。
の手を掴んだ部分だけが熱を持って、熱い気がする。
「……世界って、きれいね」
ずんずん歩く俺の足を止めるように、そんな言葉を発した。
きっとそういうつもりはなかっただろうが、俺の歩みを止めるには十分だった。
振り向くと、は空を見上げていた。
俺もつられて見上げると、幾重にも重なる葉の間から俺達へ射す木漏れ日が美しかった。
その向こうに、青々と広がっているだろう空が恋しい。
俺はしばらく見上げたあと、はっとしてを見た。
彼女は、優しい眼差しで俺を見つめている。
「空ばかり見ていると、足元が疎かになる」
「ええ」
「転ぶぞ」
「ええ」
微笑みが眩しくて、その顔をよく見れなかった。
しかし、これだけはわかる。
『転んでも、ワルターが助けてくれるのでしょう?』
本当だったら腹が立つ言葉だ。
しかし、が思うと考えたけでこんなにも違う。
頼られる事がこんなにも嬉しいと感じるようになったのは、いつからだろうか。
俺は、こんなにもに感化されたのか。
「ワルター?」
「…大丈夫だ」
俺は離しそうになっていた手を掴み直すと、無言で歩き出した。
里はいつでも他とは違った美しさがある。
それは俺も気付いているつもりだった。
だが、と見るとやはり違っている。
きっと、一人で見るものとと共に見るものは違うのだろう。
「賑やかだ…」
「本当。こう言ってはなんだけれど、珍しいわね」
「確かにな」
数日ぶりに来た里の中は一変していた。
おかしなくらい、飾られて派手派手しくなっている。
俺もも圧倒されると、里の中を見渡した。
キラキラと光るリースを飾り付ける子供達。不思議な舞台を用意する大人達。
舞台の前には、たくさんの椅子が用意されている。
「祭って、どんな祭なんだ?」
俺達に追い付いてきたセネルは、俺との手を離すように間に入って来た。
そしてあからさまにに聞く。
「私もお祭りとしか聞いてないの。ワルターはわかる?」
「いや…」
「なんだ、水の民のくせにわかんないのか?」
「なんだと!」
セネルの言いようにキレそうになった時、前方からマウリッツが歩いてきた。
飾り付けやなんやらをしていた水の民達は、彼に会釈すると仕事に戻っていく。
…何か、おかしくはないか?
マウリッツの陰謀のようなものを感じる。思い過ごしだといいが。
「君達、よく来てくれた」
「お招きにあずかり、光栄です」
が即座にお辞儀した。するとセネル達も小さく礼を言う。
「いやいやさすがさんだ。素晴らしい挨拶で。
どうかな、この飾り付けは。気に入って頂けただろうか」
「ええ。今までとは違った雰囲気で、とてもわくわくしますね」
「そうだろう。
今日は大イベントがあるのだ。楽しみにしておいてくれたまえ」
「はい!」
マウリッツはと一通り話し終わると、次はセネルへと移っていった。
今日はなんだかんだと、全員と話すつもりらしい。
俺は里を見回して思う。
何か起きるのではないかと。しかし、何が起きるかなんて想像も出来ない。
「ワルター、せっかくだから里帰りを堪能してね」
「…ああ」
の言葉に頷く。
よく帰ってきてた分、里帰りも何もないんだがな。
祭は夜まで盛り上がり、酒が出されてからは皆、大いに楽しんでいるようだった。
無礼講とはこのことか、水の民と陸の民の分け隔てなく語り合っている。
ある女が踊り出せば、男達はそれに合わせるように太鼓と笛を鳴らし盛り上がる。
水の民達のこんな姿は、俺が小さい頃に一度見たきりだ。
そして、最後には水の民全員で練習しただろうテルクェスの花火。
隣にいたは、それを見て感動していた。
それには参加しなかった俺も誇らしくなり、ニヤリと笑ってジェイとモーゼスという奴らに突っ込まれる始末だった。
宴もたけなわというところで、はセネルとどこかに行ってしまった。
探しに行こうか考えた時、そわそわしたメルネスの顔が視界に入る。
そうか。俺と、同じ事を考えているんだ。
そう思うと、メルネスに(元々同族だが)同族意識が芽生えた。
俺はそのまま彼女の横に移動すると、ありったけの優しさ…?を含めて肩に手を乗せる。
「大丈夫か、メルネス」
「ワルターさん…」
メルネスは驚いた顔で俺を見ると、すぐにほっと力を抜いた。
そして笑顔を作り、俺に向ける。
「無理をするんじゃない」
「あ…」
俺の言葉のせいかメルネスは涙を落としそうになると、すぐに手で覆ってなかった事にした。
夜空に光る星が、彼女の白い肌を照らす。瞳に浮かんだその雫は、光りを帯びて悲しく輝く。
それは、とても美しいと思った。
しかし、同時に焦燥感をもたらす。
俺も、同じ気持ちだからだろう。
「大丈夫です。
ごめんなさい、心配を掛けてしまって。私……」
「シャーリィ!ワルター!」
突然、メルネスの言葉を遮るようにマウリッツの声が響き渡った。
はっと周囲を見ると、この場にいる全員がメルネスと俺を見る。
俺は思わずメルネスの肩から手を外した。するとメルネスも驚いて周囲を見る。
「舞台の上に来なさい」
マウリッツは有無を言わせぬ態度でそう言った。
俺達は周囲の目があるので否とも言えず、静かに席を立つと連れだって舞台に向かう。
「一体、なんでしょう…」
「……わからん」
俺達が舞台に上がると、水の民は盛大な拍手をもたらせた。
しかし陸の民であるやつらは、キョトンとマウリッツと俺達を交互に見ている。
「では、ここで重大な発表をする」
マウリッツは言った。それを聞いて水の民は未だ拍手を続けている。
変だ。おかしい。
そんな言葉ばかりが頭に浮かんでくる。
そして、次に俺達が…俺達水の民にとって前代未聞のことを、マウリッツは言ってのけた。
「メルネスことシャーリィ・フェンネス、その親衛隊長ことワルター・デルクェスの二人を、ここに婚約した事を発表する!!」
「な!」
「えっ…」
俺の頭はこの話についていけなかった。
(いや、ついていくことを拒んだのだと思う)
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重大発表(マウリッツ談)でした(笑)
最近はエセワルターの気持ちが多いですね〜。
とか言いながら、次もワルター視点のお話になります^^
お付き合いくださいませ☆
2008/06/18
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