一体、何が起こったんだ!?
どうして、こんな結果になっているのか。ワルターは頭がついていかなかった。
メルネスと俺が婚約?
メルネスと俺が?
大体、彼らはお互いそんな気持ちを持ったこともなく、水舞いの儀式もしていない。
……感じたマウリッツの陰謀は、これだったのか。
まさか、こんな事になるなど……。
頭をスッキリさせて舞台下を見た。とセネルの姿はない。
聞かれなくてホッとした。
そんな思いが頭を過ぎった。
だったら嘘だと気付いてくれただろうか…。
いや、彼女はメルネスを好いていると勘違いしているから気付かないかもしれない。
しかし、驚きを隠せない陸の民達とは正反対な水の民達の喜び讃えるような眼差し。
これはやはり、全員でグルだということか。
「そ、そんな勝手に!」
シャーリィがマウリッツに詰め寄ろうとした。
しかしこの場ではマズイだろう。そんなことをするにも、観客が多すぎる。
「やめろ、メルネス」
「ワルターさん、でも!」
泣きそうな顔で見つめられ、思わず目を逸らす。
「今はマズイだろう…」
チラリと見遣る水の民の眼差しに、メルネスも気付いたのか、それ以上は何も言わなかった。
「それでは、この素晴らしい発表を最後に、本日の祭は解散とする。陸の民の皆さんは今日は是非里に留まって下さると嬉しい」
ウィルが頷くのが見えた。しかし腑に落ちないという表情だ。
最もだと思う。
なぜならば、本人であるワルターもシャーリィもわけがわからないからだ。
彼らは全員部屋に案内されたが、やはりセネルとは帰って来ていなかった。
この事を知られるのは嫌だが、一体セネルと二人で何をしに行ったのかが気になる。
しかしそんな間もなくマウリッツに呼ばれると、ワルターはシャーリィと家に入っていった。
暗くて冷たい雰囲気の円卓は、昔の会議風景を思わせた。
長の家には必ず円卓があり、里の男達が集まってはメルネスについて話し合ったものだった。
その話しは常に陸の民を蔑むもので、今考えればどろどろしたものだった。
そんな事を思い出すと、自分がと住んでいるなど夢のような話だ。
「来たか」
マウリッツはそう言うと、自分の席から立ち上がった。そしていつものようなゆったりとした歩き方で彼らの元に来る。
シャーリィはずっとそわそわしたままだった。
早く反論したい。そんなことを許せないと言っているようだった。
マウリッツと対峙すると、シャーリィはやっとだと口を開く。
「これは、どういうことなんですか!」
「これは決まった事なのだ。」
「そんな勝手なことを認められん。」
「そうです!」
「…君達が、お互い誰を好いているかをとやかく言うつもりはない。しかし…」
マウリッツは知っているのだ。
メルネスだけではなく、自分の思う相手さえも。
「所詮、水の民と陸の民が相容れることはない。
そんなことは一度もない。
今までも、これからも――」
こんなにも強い口調できっぱりと否定されるなど、考えられなかった。
先の戦いで、マウリッツも陸の民を学んだはずだ。なのに、こんなことを言い出したりするなど…
「そんな…!!!」
シャーリィが瞳に涙を溜めてマウリッツを睨んだ。そしてその雫を散らしながら部屋を出ていってしまう。
ワルターはそれを追いかけようと足を踏み出した。しかしマウリッツに呼び止められてしまう。
「まだ、何か用か?」
ワルターはシャーリィと異なって、マウリッツの言葉で内心はらわたが煮え繰り返りそうになっていた。
しかしその心を出したとしても何にもならない。寧ろ、付け込まれるだけだ。
いつもより異様な冷たさを放ったワルターの言葉に、マウリッツは「いや」と呟いただけだった。
ワルターはそれを背中で聞き流すと、シャーリィを追って部屋を出た。
一体どうしてこんな事になったのか。水の民の陸の民嫌いは今に始まったことではない。
それどころか、何千年という積年の恨みがあっての嫌いなのだ。
しかし最近は少しずつ回復して、陸の民を受け入れるようになったはずだったのに。
「これも、黒い霧の影響なのだろうか」
ふと思う。
しかし、これがそうだとも考えにくい。
積年の恨みが、今になって他の形で爆発したのかもしれないのだ。
「っはあ、メルネス…」
シャーリィを見つけたワルターは、息が切れていた。
いつもならばテルクェスを出して飛ぶところを、考え事をして飛んで捜すことも忘れてしまったのだ。
「ワルターさん…走って?」
シャーリィもその点について疑問に思ったようだった。
もしかしたら、呼ぶときに息が切れていたから気付いたのかもしれないと思う。
最近は戦うこともなく、平和な毎日を過ごしていたからな。体が鈍っているのだ。
訓練しなければ。
「珍しいですね。でも、いつもその方がいいと思います」
「…?」
シャーリィは泣きべそのままクスリと笑う。ワルターは不思議そうな表情で見返した。
「だって女の子は、男の子にいつでも自分のために必死になって欲しいんです」
くすくすと笑うシャーリィを、ワルターは呆れた表情で見た。
しかしシャーリィはそれに気付くと、
「さんは、違うかもしれませんけど」
こう言った。
途端、ワルターは目を見開く。
「さんは、いつも一生懸命だから」
シャーリィはボソリと言った。
ワルターはシャーリィの肩に手を乗せると、ぽんぽんと叩く。
「メルネスも、だろう」
ワルターは、自分の持てる優しさ全てを込めて言った。
「私は…」
シャーリィはワルターを見上げるとキラキラと光る明るい海色の瞳で見つめ返した。
「さんは凄い。ワルターさんをこんなに変えちゃうんだもん」
「…変える?」
「そうですよ!
ワルターさんはこんなに優しくないし、微かに笑うなんて考えられませんでした!」
息を巻いて言う姿に圧倒される。自分は優しく言うだけではなく、微かに笑ったらしい。
顔が赤くなる。
「照れてはダメですよ!ワルターさんはこっちの方がいいです!こっちの方が、断然カッコイイです!!」
「!」
メルネスの言葉に再び照れてしまう自分がいることに驚きを覚える。
普段、こんなことを言われても照れたりはしない。
きっと『メルネス』に言われたからだ。
「あっ…ごめんなさい」
顔を赤くしている自分を見て、シャーリィも真っ赤になって目を逸らす。
何か、変な気分だった。
「その…なんだ…、自分の持っている気持ちは、変わらないんじゃないか?他人に、何かを強制されたとしても」
「…そうですね、ワルターさんの言う通りです。こんなところで泣きべそかくなんて恥ずかし……
あっ…」
シャーリィの言葉が途中で切れ、その瞳がこれでもかというくらい開かれるのが見えた。
不思議に思って彼女の視線を辿る。
すると、小川の向こうで楽しそうに話しているセネルとが見えた。
「チッ…」
ワルターは舌打ちすると、シャーリィを見た。
彼女は震える唇を手で隠し、瞬きも忘れたくらいにじっと二人を見ている。
何としてもここからシャーリィを連れ出さなければいけないということはわかった。
しかし、あの二人が気になって自分も動けないのだ。
「……」
ワルターもシャーリィも食い入る様にセネルとを見つめた。
セネルとは彼らの視線に気付くことなく、その場に座り込んで夜空を見上げた。
そのまま数分話した後、セネルが何かを言った。すると、が驚いて彼を見つめる。
そして満面の笑みを浮かべると、そのまま抱き着いた。
「あっ…」
シャーリィが声を漏らした。
ワルターは彼女の肩に手を置くと、落ち着く様に背を撫でた。
本当は自分こそ落ち着かせたかった。内心はハラハラと気持ちが追い込まれていくのがわかった。
鼓動が高まり、胸が苦しかった。しかし、体は氷の様に冷たく固まってしまった。
本当は飛んでいって奪い返したいと思ったが、体は動かないのだ。
セネルはを抱きしめ返すと、優しく微笑む。
そこで盗み見は終わった。シャーリィが走って行ってしまったのだ。
ワルターは二人の逢瀬に後ろ髪を引かれながら、シャーリィを追って行った。
ほどなく彼女の腕を掴みこちらを向かせると、シャーリィの顔は涙でぐしょぐしょになっていた。
ワルターはに持たされたハンカチを何も言わずに渡す。
「私っ……こんなの嫌ですっ……見たくなかった…」
シャーリィはハンカチで顔を覆うと、思い切り泣き出した。
ワルターはそんなシャーリィを、彼女の部屋に連れていく。
「ワルターさん、私、私…」
シャーリィは未だに大泣きしていて、落ち着くにはまだ時間がいるようだ。
ワルターは部屋のドアを開けてやると、中に入るように促した。
「ごめんなさい、もう少しだけ…一緒にいてください…」
「わかった」
ワルターは中に入ると、シャーリィをベッドに座らせて自分は床から彼女を見上げるように膝を着く。
そしてシャーリィが泣き止むのを、何十分も待っていた。
「ワルターさんは、強いです。私は本当にだめだ…、もう……こんな自分がいや」
「メルネス…」
「消えてしまいたい…!!!」
シャーリィの言葉にワルターは咄嗟に両手を出すと、そのまま抱きしめた。
「大丈夫だ、メルネス。大丈夫だ…」
本当は、こう言っている自分が何が大丈夫なのか聞きたいくらいだった。
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ワルター君が勝手に動いてくれてます(笑)
でもこんなにゾッコンだったとは、ほしのきも初めて知りました*^^*
水の民の人たちって、結構早とちりだったり思い込みが激しかったりするとこがある気がします。
たぶん民族的なものなのかも知れませんね。
シャーリィとワルターって、なんかセネルよりもお兄ちゃんと妹な気がするのは私だけでしょうか…?
2008/07/28
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