「口が回る、よく困らせる…そういうところは、君にそっくりだよアメリア……」
ねえ、先生?私…私ね。この場所が好きです。大好きです。
この子が生まれたら、3人一緒にね?
私たちの子供だもの。ここを好きになってくれるよね?
「ハリエットは、あの場所が好きなようだぞ…」
あ、そうだ!先生、名前考えてくれた?
この子の名前は、先生に考えて欲しいんです。
だから、お願いします。一生のお願いです。
だめ……ですか?
「あれは、何度目の一生のお願いだったか……。」
絶対の約束ですからね!
「ああ。アメリア…」
約束破ったら、針千本ですからね!
「努力している…」
先生、大好き!
「……」
約束は、約束です。
「ああ、わかっている……」
ガタン…
物音がする。
セネルが帰って来たのか…。
俺は現実に戻ると、あの言葉を思い出す。
「ハティに父親なんかいないんだから!ママだけなんだから!」
そうか。
…そうだったな。
頭の中に刻み込まれる言葉。
父親らしことなんて、何一つしなかった。
言われても仕方のない事だ。
しかし、何故こんなに落ち込む?
遺跡船に流されたとき、全てを覚悟したはずだろう?
しばらくすると、階段を上がる音が聞こえてきた。
トントンと軽快に鳴る音は、セネルではないことを示している。
でも、一体誰が?
身を固くして、俺はその人物の来訪を待った。
時間がどんなに長く感じられたろうか。数秒の間に、何回の夜を過ごしたかのようだった。
トントン…
気弱にドアを叩くその人物が誰か、本当はわかっていたのかもしれない。
最初から、それを心待ちにしていたのかもしれない。
が来るのを。
「ウィル…入っていいですか?」
「……。ああ。」
彼女はドアを開け、目の前に現れる。
身に纏うオーラは哀しみを湛え、顔は不安げに俺を見上げていた。
「どうした?」
「いえ…。」
彼女は吃ると、唇を引き締めて俯く。
その姿が何故ここに来たかを理由付けていた。
「ハリエットに会ったのか?」
「…はい。」
優しい君は、俺を心配して来てくれたんだろう。
「すまないな、迷惑をかけて。」
「めっ…迷惑なんて…」
少し潤んだ瞳が揺れて、朝露の様だ。
その朝露は暗い部屋を映す鏡であり、俺の中にある恐れ、苦しみ、悲しみ、全てを写し出してしまうかと思う。
「…私も昔、同じ事をやったのです。」
「同じ事…?」
「はい。」
はそう言うと、悲しそうに微笑んだ。
そして、それを思い出すかに目を瞑る。
「ハリエットと同じくらいの歳の頃、ヴァーツラフ兄様に言ってしまったのです。
『私の兄様はヴァル兄様とヴェティ兄様だけだわ!』
と…。」
そして一筋流す涙が、きらりと光る。
「兄様はあの時、見たこともないくらい哀しそうで、苦しそうな顔をされました。
その時わかったのです。私は言ってはいけない事を言ったのだと。」
「そうか…。」
今にも壊れそうな肩に手を掛け、ベッドに座るよう促す。
は小さく頷くと、よたよたとベッドに座った。
「私、ウィルの様子を見に来た筈ですのに、自分が泣いてどうするんですかね。」
「その通りだ。」
「ふふ…」
はハリエットと同じ歳で、顔を見ただけでその人の気持ちを察する事が出来た。
ハリエットとは違う。
その年齢から掛け離れた大人びた何かは、確実に彼女を蝕んでいる。
その原因が何かはわからない。
しかし、救いの手を差し延べることは出来るだろう。
俺は手を出すと、の手を握る。
「ウィル…?」
「大丈夫だ。俺は大丈夫だから。」
「……はい。」
今のは俺の心を写す鏡と化している。
ハリエットに幼い日の自分を重ね、俺にヴァーツラフを重ねているのだろう。
「その時、どう解決したんだ?」
「えっ…それが、記憶になくて。」
「……そうか。」
「ごめんなさいっ…。」
「いや」
その方法を聞いても俺達の問題は解決出来ないだろう。
そもそもの根本が違う。
「ヴァーツラフが恋しいか?」
思わず口にした言葉。
の顔を見て、しまったと思う。
彼女は目を見開いて、……そして、
哀しそうに笑った。
「はい…!自分が葬ったとは思えないほどに…」
「……!!」
思わず抱きしめてしまう。
小さな体は、本当に脆く崩れてしまいそうだ。
「ウィルっ?」
「スマン…。」
俺は一言謝罪すると、抱きしめる力を強くした。
「なあ、…」
「はい?」
「遺跡船にいる間は、俺を兄だと思え。」
「えっ……あ、それは…」
「そのくらいじゃヴァーツラフも怒らんだろう。」
根拠はないが。
そう言うと、彼女は笑う。
「そうですね。」
このぐらいの嘘なら、お前を溺愛したヴァーツラフも怒らないはずだ。
「ありがとうございます、ウィル。
励ましに来たはずが、逆に励まされてしまいました。」
は立ち上がると、深々とお辞儀した。
「私、これ以上迷惑を掛けないうちに帰りますね。」
「そうか…。外まで見送ろう。」
「いえ、ここで大丈夫です。」
はドアノブに手をかけると、振り向いて笑う。
「おやすみなさい、ウィル。」
「おやすみ、。」
彼女は静かに出ると、戸を閉めた。
これでいいんだ。
君が笑うなら、兄にでもなろう。
…と、…何を思ってるんだ、俺は?
なあ、アメリア。
彼女を守ってやってくれないか。
ハリエットと同じくらいに。
もーっ、先生ったら、わがままなんですから。
君には勝てないよ。
ふふ、意地悪ですねっ。
しょうがないから……
アメリア…。
私は、何をしに行ったのだろう?
ウィルを励ましに行ったはずよね?でも、逆に励まされてしまったわ。
そして、兄様の事を思い出してこんなにも泣いてる。
とめどなく溢れる涙を拭いながら、私はウィルの家を出て宿屋に向かう。
道に人があるいていないような時間でよかった。
誰にも私の顔を見られないですむもの。
でも、部屋に着く前に泣き止まなきゃ。
ワルターに心配かけてしまう。
「はあっ……」
ウィルとハリエットが苦しんでるのに、何も出来ない自分がもどかしい。
それどころか、苦しんでいるウィルに私は慰められてしまった。
遺跡船では、兄になってくれると。
ウィルはとても優しくて、暖かくて、頼ってしまいそうになります。
そんなの、いけないのに。
私、自分で頑張りますから。
私は頬をパンパンと叩くと、宿屋の自分の部屋に戻る。
キイィと開けると、もう既に暗い部屋。
やっぱりセネルは来なかったみたいね。
ワルターは寝たのかと思って、静かに自分のベッドに潜り込む。
「遅かったな。」
「!」
ワルターはむくりと起き上がった。
「え…ええ。色々あって…。」
「そうか。明日からは俺も行動を共にする。」
「……わかったわ。おやすみなさい、ワルター。」
「……ああ。」
彼はそれ以上何も言わなかった。
頭の中はぐるぐる考えることがたくさんあったのだけれど、何故かすぐ睡魔に襲われてそのまま眠りについた。
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ウィルといい感じに?
心配して行ったはずが逆に慰められてしまったヒロイン。
明日からはワルターも参加して、たくさんの仲間だらけに(笑)
2006/09/30
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