「私、里に残りますから」

「俺も残る」













シャーリィとワルターは示し合わせたかのように言った。
するととセネルだけ驚き、他の仲間達はやっぱりそうかという顔つきで頷いた。
それを変に思ったが、は特に何も言わなかった。

シャーリィもワルターも水の民だ。いつかは里に帰ると言い出してもおかしくない。
きっと昨日の祭で、里を去りがたくなったのだろう。



しかし「里に残る」だけならまだしも、シャーリィの次の言葉に、は目を丸くしてしまった。




















さん、お兄ちゃんと一緒に住んでもらえますか?」

















「え?」や「何故?」という言葉を忘れたかの様に、目を丸くしてシャーリィを見つめるばかり。
それはセネルも同様で、彼も言葉を失っている。



















「ワルターさんも里に残りますから、さん一人じゃ危ないじゃないですか。だから、お兄ちゃんと一緒に住んで守ってもらってください」

「でも…」

















やっと言葉が出たと思い、ワルターを見る。
しかし彼の瞳は揺らぐ事なく自分を見つめていた。

















「そうした方がいい」

















彼から出た言葉は突き放すようなもので、ワルターがそう言うならと、は小さく頷くことしか出来なかった。

















「ちょっと待ってよ!宿にはあたしがいるじゃん!わざわざセネセネんとこいかなくても、あたしがちゃんを守るよ!」
















そんな中、ノーマが納得出来ない勢いで抗議する。
しかしシャーリィもワルターもそれを一瞥しただけで、
















「貴様では頼りにならん」















という彼の言葉に一掃された。


















「宿の荷物は後で取りに行く。自分の荷物だけ持ってセネルの部屋に移れ」

「ええ、わかったわ」

「おい、ワルター…」

「お兄ちゃん、さんを宜しくね」
















ワルターの言葉にただ頷くの横で、信じられないという表情で彼を呼び止めるセネル。
しかしワルターにとてつもない睨みを利かされたあと、シャーリィに遮られ、成す術もなく口をつぐんだ。

















「じゃあ…」

「気をつけて帰れ」
















なけなしの気持ちで別れの言葉を言うと、ワルターはいつもと変わらずの返事をくれる。
さりげないような深い心配。彼は全く変わらないようだった。














でもさっきは突き放された。

何故だろう、嫌われたみたいではないけれど。













何かに気付きそうでもどかしいのに、よくわからない。
は名残惜しく思いながらワルターのそばを離れた。

















「変だったよな。シャーリィもワルターも」

「少し変だったわね」

「………今日さ、部屋片付けとくよ。明日来ればいい」
















地面をじゃりと鳴らしながら歩く。その音が気になるわけではないが、はずっと下を向いたままだった。
しかし、それは先程のセネルの言葉に反応する。

















「え」

「来るんだろ?俺の家に」
















はにかみながら強く言う彼を見て、ああそうか。と思う。

私は、セネルと一緒に住むのだわ。
















「…」

?」















セネルと一緒に住む。
シャーリィがセネルを好いているのでそんなことを考えたこともなかったけれど、そういうことがあってもいいかもしれない。



セネルと一緒に住んだら、きっと私、楽しいわ。


















「ええ、お願いします。セネル」

「ああ!!」















目を細めて微笑うに、セネルは同じ様に目を細めて笑った。

これから新しい生活が始まるということに、胸の中に燻る気持ちを無視するように期待に満ち溢れさせていった。

















































楽しそうに話すセネルとの数メートル前を歩く仲間達は、悶々とした重い足取りでダクトに向かっていた。



セネルとがシャーリィとワルターの婚約事件を知らないのは見るも明らかだった。
知っていたら、あんなに楽しそうに引越しの話しはしないだろう。
シャーリィとワルターに「何故だ」と突っ掛かるに違いない。



だからと言って、自分達が口を挟むような事ではないのだ。
せめて昨日の婚約話がマウリッツの陰謀だとシャーリィかワルターが言ったならまだしも、二人とも肯定するような形で、自分達を里から追い出したのだから。

















「おかいしいよ〜、絶対おかしいよ〜!リッちゃんもワルちんもおかしいよ!」

「ああ、絶対に変だ。シャーリィもワルターも、お互いの想う相手だろうに、その気持ちの傷口に塩を塗るように一緒に住まわせて…。一体何を考えているんだ?」

















ノーマのおかしいコールにクロエが答える。するとその横でウィルが頷いた。
















「俺はてっきり、昨日の婚約発表はマウリッツさんの企みだと思っていた。あの時はシャーリィもワルターも驚いていたしな」

「あれ、ウィルさん。あんなに酔っていたのに覚えてるんですか?」

「俺は酔ったりしていない!」














からかうように言うジェイの言葉に、真っ向から反論するウィル。
ジェイは苦笑すると自分の考えを言う。















「あの二人なんて、有り得ないですよ。百歩譲ってワルターさんの眼中にシャーリィさんがいたとしても、シャーリィさんの眼中にはワルターさんはいませんよ」

「それはどうかしらぁ。シャーリィちゃんも可愛いし、ワルターちゃんもカッコイイじゃないのぉ。二人とも何かきっかけがあって、お互いを意識するようになったかもしれないわぁ」















グリューネが頬に手をついてにっこり笑う。
















「グリューネさんは、婚約発表がきっかけだと思うのか?」

「う〜ん、そぉねぇ…。違うとも言い切れないでしょうけど、もうちょっとあの二人を追い込むような事があったんじゃないかしらねぇ」

「追い込む…?」














グリューネの言葉に首を捻るウィルの後ろで、ノーマとクロエが顔を突き合わせたが誰も気付かない。



ジェイもウィルと同じように首を捻らせながら、隣のモーゼスが何も言わないのに気付く。
が関わっているというのに、彼が何も言わないのはおかしい。
















「モーゼスさん、静かですね。そんな何かを考えられるような頭はしてないでしょう?」

「…」

「モーゼスさん?」















ジェイはきょとんとして彼を見上げた。
モーゼスはその時々垣間見せる彼の無防備な表情に気付く事なく地団太踏みだす。

















「ウガーッ!なんでワイでなく、セの字なんじゃーッ!!!」

「……今さらそこですか」

「なんじゃと!だいたいのぉ、セの字一人でを守りきれるとは思えん!!!ワイの野営地に来れば、子分たちがうじゃうじゃ…」

「そこが危ないっての!!!」
















ギャーギャー騒ぐモーゼスの鼻面に、ノーマが人差し指を当てる。
するとモーゼスはうっとした表情で静まった。

















「モーすけんとこなんて、ふかふかベッドもないし、男ばっかだし…。もしちゃんになんかあったら困るっしょ!」

「子分達がにやらしいことをするわけないじゃろっ!!!」





























シン……





























モーゼスの言葉に、全員が固まってしまう。彼だけが何故周囲が固まったのかわからずにキョロキョロしている始末だ。
ノーマはニヤリと笑ってモーゼスに顔を近づけた。



















「さっすが野生の血だねぇ〜。あたし、別にやらしいことなんて一言も言ってないんだけど?モーすけってば、自分がやらしいんじゃないのぉ〜?」

「ぬぉっ!?」

「本当ですよ。ほらほらクロエさん、言ってやって下さいよ」

「シャンドル、最低だ!!!」

















みるみるうちに顔を青くして後ずさるモーゼスにノーマを先頭にしたジェイとクロエは迫っていく。
モーゼスは何も言い返すことが出来ず、口をもごもごさせていた。

















「まぁまぁ、モーゼスちゃんったらかわいそうだからお姉さんが加勢してあげるわねぇ〜」
















そんなモーゼスの横に、グリューネが腰をふりふりやってきて、彼の腕にしがみついた。
途端、モーゼスの顔が真っ赤になる。

















「このぐらいの歳の男の子は、いっつもヤラシイことを考えてるのよぉ。女の子と一つ屋根の下で過ごしたら襲いかねないのよぉ〜〜〜」

「そっ、そうじゃ!!!その通りじゃ!」
















モーゼスの開き直りぶりには、ノーマもジェイもクロエもからかう気持ちも覚めてしまい、これ以上モーゼスとの会話に関わらないようにしようと背を向ける。
しかし気分がよくなったグリューネは、その会話の続きをウィルに求めた。
















「ね、ウィルちゃん。そうだったでしょぉ?」

「!!!」















さすがのウィルも、このグリューネの言葉には絶句してしまい(というか、その頃子供を授かった自分には到底答えられるような質問ではなかったため)、ノーコメントを決め込んだようだった。

















「一つ屋根の下か…」

「どーしたの?クー」

「いや……」
















クロエは後ろを振り返って、楽しそうに喋っているセネルとを見た。
そして溜め息を吐くと、顔をくしゃりと歪ませる。
















「ワルターは、あんな奴じゃなかった。をほっぽらかすような奴じゃなかった」

「うん。ちゃんが好きで好きで、大切で……一つ屋根の下にいるのに大事に守って手も出さないような奴だもんね」

「ノ、ノーマッ!!!」

















顔を真っ赤に染めるクロエにぺロリと舌を出して、ノーマも彼女と同じようにセネルとを見た。

















「それは、僕も思いますよ。ワルターさんは中途半端な人じゃないのに。その想いに、責任に、命を懸けるような人です」

「ジェージェー……」

さんを大切にするその想い、悔しいですが、僕は認めていたのに」

















ジェイは二人から目を離すと、ノーマとクロエを置いてスタスタとダクトに乗り込む。
ノーマとクロエは顔を見合わせて苦笑すると、ジェイを追ってダクトへと走った。















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すれ違う二人。(というか四人)
仲間達の会話って、会話数が多くて誰が誰かわからなかったらごめんなさい。
さてさて、セネルとの生活が始まります^^


2008/09/08








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