朝、早めに起きてキッチンに立ち、カワイイエプロンを着けて食事の仕度をする。




新鮮な卵を使った、きみがトロトロの目玉焼き。焦げる直前までカリカリに焼いたベーコン。
香ばしく焼きなおしたパンが冷めないうちにバターを塗って、甘い香りが部屋を漂う。

冷蔵庫から冷たいミルクを出してこぽこぽとグラスに注ぎ、他の食べ物と一緒にテーブルに並べて、90パーセントの準備が出来たら彼を起しにいく。












階段をトントンと軽い足取りで上がると、ベッドから落ちて私の布団で寝るセネル。
彼は小さな寝息を立てながら幸せそうに眠っている。





目が覚めたら隣に寝ていたのに驚いたのは始めの二日だけ。顔が近くて、唇が触れそうだったのよ。
でも三日目からはこれが普通なんだって思えるようになってしまったの。慣れてしまったのね。ふふ。





無防備な寝顔を見ていると、私まで幸せな気持ちになるの。
自然と笑みが零れてしまって、彼のために頑張って朝食を作るぞ!って気になっちゃう。



きっと、セネルにはそんな力があるのだわ。















周囲を力づけて、幸せにしてしまう力が。




































「セネル、起きて」

「う〜ん、あと少しだけ」

「だめよ、あと少しなんて言っていつまでも寝てるんだから」

「…まだ眠いんだ…」

「わかってるわ。でも、朝食が出来てしまったの。冷めてしまうわ」

「う〜〜〜ん、腹は減った。でも、眠い……」

「もう、布団を引っぺがしちゃうわよ」

「いやだ…」

「じゃあ、どうすれば起きてくれるの?」




























「………」

「セネル?」



































彼はガバと起き上がって私を見る。
その顔は心なしか赤い。また、何を考えていたのかしらね。





















「うふふ、どうしてほしかったの?」

「う……」




















意地悪しちゃうと、彼はもっと赤くなった。
でも、意を決したようにじっと私を見つめる。






















「セネル……?」

「キス、してくれれば起きる」

「…もう起きてるじゃないの」

「………あ」




















こういうちょっと抜けてるところが好きよ。
その熱くなるとこも、真っ直ぐなところも、人を惹き付ける心も。



全部好きよ。
















でも、私はあなたの気持ちに応えられない立場にいるの。
わかってくれてるんだってわかってる。



だからこそ……






















「しょうがないわね」






















ちゅっと頬にキスとすると、セネルはびっくりしたように私を見て肩を落とした。
あら、私ったら何か間違えちゃったのかしら。





















「……まだまだか」

「?」





















拗ねるように口をすぼめ、落とした肩を竦める。
セネルは私に背中を向けて布団を片付けだした。





















「すぐ下に行くから」

「ええ、待ってるわ」





















彼を二階に置いて階段を下りる。
早くしなきゃ。朝食の最終段階がまだなの。セネルはすぐに下りてきちゃうわ。



トントンと早足で下りきってキッチンに向かい、スープに火をかける。

昨日内緒で作っておいたコーンスープ。
ちゃんとコーンを茹でて、擂ってトロトロにしたの。それにつぶつぶのコーンを加えた本格的なもの。



家にキッチンがあるってのは夢のようね。
だって、こんな本格的な料理が出来るんだもの。料理好きには幸せなことだわ。



















このスープ、ワルターにも…























「あっ…」




















だめよ。ワルターはシャーリィと結ばれたんだもの。やっと想いがかなったのよ。
二人があの日に婚約したって聞いたけど、まさかシャーリィも乗り気になったなんて最初は信じられなかった。
でも、あの後水の民の里を訪れたウィルやジェイが、二人は仲睦まじくずっといっしょに居たって言ってたもの。



シャーリィの心も、ワルターに移ったのだわ。

















だから、私はワルターを応援しなければいけないの。
ワルターの想いが叶ったのだから。

























、どうした?」

「あ、ごめんなさい。スープがあるの、ちょっと待ってて」

「本当か?座って待ってるよ」

「ええ!」























セネルはニコニコしてソファーに座る。
目の前のテーブルには他の食べ物がずらりと並んで、これでスープを置けば完璧だわ。



私はマグカップにスープをよそると、キッチンを出てテーブルにことりと置いた。























「いただきます!」

「めしあがれ」






















顔の前でパンッと両手を合わせて「いただきます」を言ってくれるセネル。
やっぱり彼を見てると自然に笑みが零れる。






















こんなにも、愛しいって………






















「っ……」





















顔が赤くなる。
思わず左手を口元に当てて自分の気持ちを思い返す。






















あら……あら?あら?

私ってば、何を思ったの?

























「うまいっ!!!!!」

「ほんと?ありがとう」

「あれ、、何で顔を赤くしてるんだ?」

「えっ?気のせいよ。赤くなんてないわ」

「そうか?」























彼は気に留めることなく、スープを置いてパンを齧った。
本当に幸せそう。やっぱり、こっちまで幸せになっちゃうわ。























はいいお嫁さんになれるな」

「えっ……」























カアァァァァァァァ……






















やだ、私ったら。何で顔が赤くなっちゃうの?
























「え、…?」

「ご、ごめんなさい。顔、冷やしてくるわ」

「ちょっと、待って」






















左手はまだ口元に当てたまま。右手をソファーから離して立ち上がろうとした時、セネルはあろうことかその腕を掴んだの。
反動でバランスが崩れ、私はそのままセネルの腕の中に倒れこんだ。





















「っっっ!!!」




















いや、だ…なんで、こんなに顔が熱いの?
心臓がばっくんばっくん言って、セネルに聞こえちゃう。



どうしてこんなに意識しちゃってるの。今までは大丈夫だったのに、今日になってどうして。

























「……」



「……何?」

「どうした?大丈夫か?」






















セネルは心配そうに私の額を触った。そして熱を確かめるように「う〜ん」と唸る。
そっか、普通に熱があるんじゃないかって心配してくれたんだよね。



いやだ、私ったら。本当にもう、だめね。























「大丈夫よ。熱はないわ」








































「……じゃあ」






















セネルの腕の力が強くなる。



いつの間にか私の目の前には彼の胸板があって、背中は優しくその腕に包まれてる。
力は強いはずなのに全然痛くなかった。

肩を掴むようにしている指からは、彼の心と同じくらい熱いものが伝わってきて蕩けてしまいそう。
そして、もう一度込められた力に誘われるまま彼のその胸に耳を当てると、私の胸の高まりと同じくらい早鐘を打つ心臓の音が聞こえた。


























「セ、セネルっ…」
































「……じゃあ、その顔が赤いのは、俺を意識してくれてるって思っていいのか?」

「あっ……わ、私…」

























やだ、また顔が赤くなる。意識してるってわかっちゃうじゃない。
だめなのに。セネルを私の運命に巻き込んじゃいけないってわかってるのに。






















……」






















腕の力が緩んだと思ったら、彼の顔が私の顔の近くまで来ていた。
その表情は真っ赤になってるけれど、嬉しそうで恥ずかしそうで……幸せそうだった。
























「セネル…」

「意識してくれてありがとな」

「えっ」

「それだけでも、俺は嬉しい」























はにかむように笑う顔を見て、私の胸はきゅんとしてしまう。
胸が掴まれたようで少し苦しくて、ふわりと息を吐く。



すると、セネルは唇を噛み締めて真剣な眼差しで私を見つめた。



















力強く、優しく、熱く……




逸らせない。

















そう思って私まで唇を噛み締めて彼を見つめてしまう。
セネルの眼差しは真っ直ぐで、裏表がない。それが本当の気持ちだって、彼の瞳が言ってる。

セネルは、その眼差しで私を見つめ、その腕と胸で私を抱きしめる。
全身で『好き』を表現されているようで、どうすればいいかわからなくなる。





また胸がきゅんとなる。
その苦しみに目を細めると、彼も同じ表情になってしまった。
















































、そんな切なそうに見るなよ。

俺…」

















































「セネ…ル…」


















































「ごめん、でも…俺は……」






















































視界が真っ暗になる。何も見えないと思ったら、緑色の光がちらりちらりと見えた。



ある部分が柔らかく当たった後、強く押し付けられる。
嫌じゃないって思ってたら、押し付けられたのは止んでまた柔らかく当たった。



















それは何十分、何時間にも思われて、心地よかった。


















本当は数秒だったの。だから、「もっと」と思った時にそれは離れてしまう。
離れがたくて顔を傾けてセネルを見上げてしまって、私は気持ちが現実に引き戻された。



















だめよ、追っちゃだめなの。私はそんな、色恋してたらだめなのよ。
誰も巻き込んじゃだめなの。




自分を叱咤して口を閉じたけれども、もう遅かった。

















































「っ…だから、そんな切なそうに見るなって…」














































セネルはもう一度唇を噛み締め私を切なそうに見下ろして、そのまま緑の瞳を隠すように目を瞑った。
そして私は、近づいてきたその顔を拒むことなく、自ら求めるように目を瞑ったの。




































私は、自ら彼に身を委ねてしまったの。



キスを求めたの。



































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キス止まりで(笑)

なんかすっごく少女マンガチックになっちゃってびっくり。
でもこんな書いてて楽しかったのは久々かもしれない…


2008/09/12








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