「ユリウスが捕まったって…」
「そうなんだ。ジェイが調べて来た。水の民の動きが本格的になってきてる」
帰宅したセネルがにもたらした情報は到底信じられるものではなかった。
水の民が同じ水の民を捕らえるなど、気が違ったとしか考えられない。
「そんな…!何を考えているの、シャーリィ…」
は両手で顔を覆うと、すぐにぴしゃりと叩いた。
セネルは驚いて目を見開く。
「?」
「なんとしても止めなければ。セネル、ウィルのところに行きましょう!」
「ああ」
二人は急いで家を出た。
ウィルの家に着いてみると、そわそわと他の仲間達も集まっている。
「やっと来たよー!」
「遅いぞ、セネル、」
「どーせイチャついておったんじゃろ」
「イチャついては余計だぞ、モーゼス」
セネルはつかつかとモーゼスの元へ行き、ポカリと頭を殴った。
殴られた場所を摩るモーゼスの横を抜け、がジェイに詰め寄る。
「ユリウスが捕まったって本当なの?」
「ええ、ワルターさんが命令したようですよ」
「ワルターが…?」
は信じられないという表情でジェイを見た。
しかし彼は眉一つ動かさずに自分を見返したので、真実だと確信する。
「そう…本当なのね」
「水の民をどうにか止めなければ!今はミュゼットさんが遺跡船から情報が洩れないようにしているが、いつ他国が知ってもおかしくない。
そうしたら今度こそ戦争が勃発してしまう!」
クロエの肩がブルリと震えた。
はそれを見てとると、駆け寄って彼女を抱きしめる。
「絶対に私達で止めましょう」
仲間達はの言葉に頷くと、それぞれの武器を掴んだ。
「ワルターさん」
「なんだ、シャーリィ」
部屋で考えごとをしていると、シャーリィが入ってきた。
彼女はゆっくりとした足取りでワルターの後ろに立つと、そのまま抱き着いた。
「!」
「お願いします、私のそばにいて下さい」
「何を言っている…俺はそばに…」
シャーリィの腕の力が強くなった。ワルターはふと後ろを見、シャーリィの眉が寄せられているのに気付く。
まさか…
「シャーリィ、まさか」
「違います!私には……ワルターさんしかいません」
「……」
ワルターはシャーリィの手を握り、肩を落とす。
俺達はいつもすれ違いだ。
きっと俺の中の気持ちに気付いてしまったのだろう。そして自分の気持ちにも。
必死に俺を見ようとしていたが、本当はセネルへの気持ちの蓋でしかなかったのだ。
それが溢れ出た今は…
「シャーリィ」
「嫌です!」
「…シャーリィ」
「絶対に…嫌です…」
「…嫌と言うことは、俺が言いたいことはわかっているのだな」
「……」
彼女の腕が自分の体から離れ、ぱたりと落とされたのに気付く。
やはりシャーリィはわかっているのだ。
「決めるのは自分だ」
これが答えだと思っていた。
どうしたいか、どうするか決めるのは自分でしかない。
だからこそ自分は、シャーリィと生きる道を選んだ。
「……そうやって、私を突き放すんですね」
シャーリィは床を見つめ呟く。
その平坦な声に違和感を感じ、ワルターは屈んで彼女の瞳を見上げた。
その瞳は妖しく光り、本当のシャーリィでもメルネスでさえもなかく見えた。
「シャー…リィ?一体、何が…」
言いかけたワルターの唇に、妖しい瞳のシャーリィは自分の唇を当てた。驚いた
彼を見てニヤリと笑う。
「あなたは私のものです。
あなたが黒い霧を連れて来たから、水の民全てがこうなることになったんですから」
くすくすと笑うシャーリィには元の面影もなく、ワルターはただただ目を見開くだけだった。
絶句した彼の肩に、彼女は腕を巻き付けて再び唇を奪う。
「こんなにそばにいて欲しいのに、親衛隊長のあなたが私を捨てるわけがないですよね」
「……」
「あなたの元にさんは帰ってきませんよ?だって、お兄ちゃんを選んだのだから」
シャーリィの冷たい言い様に、ワルターはあの夜の声を思い出した。
『あの娘は他の者を選ぶ』
そうか。
俺はもう………
途端、ワルターの体は崩れ落ちた。
「うふふ、わかってるじゃないですか。本当はそうやって強がっていただけだったくせに…」
シャーリィはワルターの頬を撫で、その上半身を起こすと強く抱きしめた。
「私と一緒に…いてください。
あなたと私は似てるんですから」
いつの間にかその瞳から妖しい光は消え、水晶のようにキラキラ輝く涙が溢れていた。
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過ちは繰り返される。
2008/11/28
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