こんなに暗い空は心を淀ませるわ。
その気になって出たとしても、途中で引き返したくなるくらい。
心がもやもやして足が重くなる。


























「一雨来そうですね」

「ああ。これも黒い霧の影響か…」























見上げて目を細めるジェイの言葉にウィルが頷く。
私達は水の民の里まで使えなくなっていたダクトに溜め息を吐き、徒歩で向かっていた。
ダクトが使えなくなるなんてことはなかった。こんなことは初めてだったから、
みんなも一層不安になる。


























「リッちゃんとワルちん、大丈夫かな〜」

「大丈夫よぉ!シャーリィちゃんもワルターちゃんも、しっかりしてるもの!」

「しっかりし過ぎてるのが心配なんだ」

「クー、あんたが言うか!」




























グリューネとクロエとノーマのやりとりにみんなの笑顔が戻る。
よかった。雰囲気が元に戻ったわ。






























「とにかく里に着いてからだな。まだ何も起こっていなければいいのだが…」




























































里に着くと、ウィルの呟きは現実のものとなっていた。
再び張られていた結界は既にないどころか、里はもぬけの殻。
水の民達は一体どこに消えたのでしょう。




























「これは……!

、水の民は一体どこに向かっただろう?」


























クロエの問いに私は首を捻らせた。



水の民が行く場所……





























「……海だわ!」



























海しか考えられなかった。
みんなして陸を捨てて海に帰るつもりなんだわ!!






























「そうか!海か…水の民の故郷だもんな」































セネルはそう言うと、里に背を向けた。他の仲間達もそうする中、ノーマだけは目を凝らして何かを見ている。
それに気付いた時、彼女はあっと口を開けた。


























ちゃん!あそこに誰か倒れてるよ!」

「本当!?」




























ノーマが言う場所に駆け付けてみるとそこには、ユリウスが倒れていた。



























「ユリウス!」

「この子がユリウスなんですか」



























抱き起こすと彼は小さく唸り、かくんと首を落とす。
ジェイがそれを元に戻して頬を叩くけれど気付く気配がない。





























「ジェージェー、ちょっとどいて。

リザレクション」
































ノーマがジェイをどかして爪術をかけてくれる。
すると、ユリウスの顔色はみるみるうちに赤身が刺してよくなった。

































「これで大丈夫だと思うんだけどー…」































私と一緒に心配そうに覗き込むノーマが心強い。
他の仲間達も一緒になってユリウスが気付くのを見守った。




























「……ん、姉ちゃん…?」




























しばらく経つと、指がぴくりと動き唇が微かに震える。そしてほっそりと目が開いた。
私は彼をぎゅううと強く抱きしめ、ぷっくりした頬っぺたにキスを落とす。






























「わっ、姉ちゃん!恥ずかしい!!!」

「あら、ごめんなさい」

「い、いいけど…////」



























顔を真っ赤にして俯くユリウスを見てノーマがニヤニヤ笑う。


























「こいつ、いっちょ前に赤くなってる〜」
























するとユリウスはキッとノーマを睨み上げ、フンと鼻を鳴らした。

























「お前みたいな奴にやられたんじゃ、吐き気をもよおすけどな」

「なんだと〜このガキ〜!」

























彼の暴言にノーマは怒り心頭すると、彼の肩を掴んで前後に振った。



























「ちょっとノーマ!

ユリウスもあなたを回復させてくれたお姉さんになんて口きくの!」
























やっとのことで二人を引きはがしユリウスを諭す。

























「うっ……」

























彼は一言唸ると、俯いてしまった。
その背中をぽんぽんと叩いてやり、お礼を促す。



























「あ…ありがとうございます」

「ほ〜、なかなか見所あんじゃん!スキンヘッドなだけあるね〜」





























ノーマは茶化すと、ユリウスの頭をベチベチと叩く。
それに怒ってノーマを追い掛けまわし始めたので、ウィルは彼の首根っこを掴み持ち上げ、ノーマにげんこつを喰らわせた。





























「ユリウス、水の民はどこに行ったんだ?」

「あっ、そうだった!

大変なんだ!みんなして海に帰るって言ってあっちの方に歩いていっちゃったんだ……」

「ありがとうユリウス。

よし、行くぞみんな!!!」

































「「「「おーっ」」」」

























セネルの掛け声で私達は走り出した。
私は頑張って着いてこようとするユリウスの手を握って一緒に走る。

彼の手が震えてるのに気付きぎゅっと強く握ると、ユリウスも強く握り返す。
そして私に問う。






















「みんな元に戻るかな」

「大丈夫よ。私たちがみんなを連れ戻すわ」

「本当?信じてるよ、姉ちゃん」

「ええ。でも、ユリウスも手伝ってね。あなたにはきっと水の民と陸の民に共通する強い力があるわ。

だから、私たちに手を貸して」

「うん!!!」






















ユリウスはにっこり笑ってくれた。
その笑顔に癒されると、私はまた無言で走り出す。



一体どうすれば前みたいになるだろう。
原因は、何なんだろう。



そんな事を考えていると、海が見えてきた。
そこはいつもの穏やかな景色ではなく、ぽつぽつと何かが漂うような異様な景色。
近くなってくると段々それが何か見えてきて目を見張る。






























「あれは、水の民?」

「そのようだ。一人ずつ海に入っていく……」


































私の呟きにウィルが答え、息を飲んだ。
異様な景色であるはずなのに、何故か神秘的にも見えてしまう。

同じ姿かたちをした人が、あんな風に何気なく海に向かって歩いていくのは不思議。
私たち陸の民からしたら、自殺しにいっているようにも見えるわね。



もっと近づくと、海の中に無数の水の民の頭が見えた。
最後の一人が海に入るのを、みんなして見守っている。




























「マウリッツさん!!!」






























セネルが叫んだ。
海に入る最後の一人だったマウリッツさんは振り向きながらも後ずさる。































「来たか……しかし、もう遅い。我々は海に帰るのだ」

「そんなこと!この前まであんなにうまくやってたはずなのに、何故いきなり海に帰るなんて!!!」

「そんなわかりきったことを!

その娘の存在のせいだ!」






























マウリッツさんは私を指差し、睨みつける。
私の存在が水の民を追いやったっていうの?
































は何もしてないだろ!!!なんでいつも、ばっかりなんだ!」

「セネル君、君は陸の民だからわかるまい。しかしその娘の存在は水の民にとっては脅威なのだ」

「そんなことない!は何もしない。何で水の民とか陸の民とか関係あるんだ!が誰かを犠牲にするはずがないだろ!!!」
































セネルの言葉は嬉しかった。
涙が出そうになって顔を覆い、私は胸がドキドキするのを感じた。




セネル、ありがとう。

































「『全ての運命を決める者selecter、それは神が定めた地に住まう者。世界を見守り、導く者。未知なる力を用い、全てを決定する』」

「?」

「君のことだ、君」

「私のこと……?」

「陸の民の信仰は君を崇めて一つになり、やがては水の民を滅ぼすこととなろう。私は水の民をそれから守らなければならない」

「そんなこと!!!がそんなことをするはずが…!!!」

「くどい!!!」







































バアァァァァァァァァンッ











































「セネル!!!」


















































私たちより前に出てマウリッツさんと話していたセネルに、水の民のテルクェスが当てられてしまう。
マウリッツさんの怒りは、きっと水の民全員の攻撃に繋がるのでしょう。






















砂煙が激しくてセネルの姿が見えなかった。
どうなってしまったかもわからない。























動悸が激しくなる。
そんな、セネルが……いや!






























「セネル!!!」































私がそこに向かおうとするのを、モーゼスとジェイが体を掴んで止める。
どうしてなの?セネルが、セネルが……!!!!!!



























「っ……」


























その時、砂煙の向こうに微かに彼の声が聞こえた。
何かを叫んでいる。

よかった。
ホッと胸を撫で下ろしたとき、セネルの叫びが言葉になって聞こえた。




































「シャーリィ!!!」







































その叫びが、私の胸を貫く。
体が固まってしまったようで、どうしたらいいかわからなった。






シャーリィ?






何か、あったの?
シャーリィが、どうかしたの?


私の胸は激しくざわついた。
そう、シャーリィが心配なの。そうよ。早くセネルのとこに行かなきゃ。

私はそう言い聞かせて、モーゼスとジェイの手を振り払った。






































そう、言い聞かせなければ胸のざわつきを押さえられなかったの。




































****************

運命はどんどん廻っていきます。


2008/12/06










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