この暗い海の中で、水の民は何を見出だすというのだろうか。















何も感じず、ただ漂うだけなのか。
それとも、長い年月をかけて国を築いていく使命なのだろうか。



俺達が何を課されているのかわからない。














感じない…何も。

闇では何も見出だせない。













このまま、自分が海へと消えてしまうのだろうと思った。
















































水の民の足音が聞こえる。
ざばざばと海に向かって希望の一歩を踏み出している。
しかしそれは急に止まると、陸へ向けて大きな力を放った。



テルクェスだ。



それと大きくぶつかったのは一際大きな力。



メルネスだ。



多くの水の民の力とぶつかったために彼女の力は弱まり、消えかかるというところまでいく。



しかし水の民は動かなかった。
誰一人助けようともしなかったのだ。



メルネスを敬う民であるはずなのに、誰も助けに向かわないなど理由がわからない。

しかし、だからと言って俺も助けに行く事が出来ない。
海の底に固い鎖で繋がれているからだ。



いつのまにか強く、逃げれないように。



すぐ後にメルネスを守る、違う力が現れた。
それは彼女の姉によく似た温かな包容力。守りの力。強い光。
それに加えて幼い力も現れる。



これはきっとユリウスだろう。
あいつには俺達が持っていない不思議な力がある。
煌々と放つ、分け隔てない力。



陸も水も関係ない、新しい力だ。
それならば、あの温かな力の持ち主は…。























ズキン






















頭に痛みが走る。
その名を呼んではならないと、誰かが耳元で囁く。



しかし俺は呼びたい。
彼女の名を呼びたい。




力の戻ったメルネスと若い力が合わさった。
その強さは水の民全員に匹敵する程、
……いや、それ以上。




水の民だけではなく、生きるもの全てを思う気持ち。それを持つ力。
メルネスとユリウスのテルクェスは空を舞い、やがて海を覆う。




散り散りになった水の民のテルクェスを囲み消滅させ、彼らを纏う邪悪なものを剥がし消滅する。

そうして、海から水の民の気が消え去った。




























































暗い





















暗い暗い暗い





















海の底はこんなに暗かったのか。
どこを見渡しても何も見えない。一寸先の珊瑚も見えないのだ。
落ち着くようなこの場所で、俺の心はざわついていた。


















これでいいのか?
お前はこれでいいのか?と問われている気がした。




これでいい。




誰かが囁く。しかしすぐに




これではいけない




自分の心がそれを拒否する。
こんなにも静かだというのに、俺の中は葛藤でざわついていたんだ。























「もう時期全てなくなる」





















誰が呟いた?



…俺か。そうだ、俺しかいない。
皆どこに消えたのか……、それもわからない。

何もない。ここで海に抱かれて過ごすだけだ。
考えず、ただ…
























「考えず……」

























陸と縁を切り、元あったあった姿へと…。

























「全てを忘れ…

全てを」
























































途端、横切る銀の星。
美しく輝く希望の光。
















これは一体どういうことだ?
















思わず手を伸ばして捕まえようとする。しかし触ることも出来ない。























「その光が欲しい。

俺に、その光を」






















がむしゃらに両手を延ばして捕まえようとする。
しかし足が縛られていてうまく動けない。






















「光を」






















暗闇でもがく。






















「光を」





















鎖が足に食い込む。




















































「光を!!!

…お前の光を!!!」




















































パアァァァァァァンッ




















































鎖が弾け飛んで闇に放り出される。何もないそこに放り出されるなど、恐怖しない者はいるだろうか。



いや、いないだろう。
俺も万人に負けず恐怖した。

しかし、ある一点の光が見えたためにすぐ払拭される。

























「やっと、お前の名を呼べた」






















暗闇より光に向けて、俺は心を開いた。






















































「ワルター…」

「……」





















なんて表情をしているんだ。



それを見て、現実に引き戻された気がした。
そうだ、俺はお前を避けて自分の殻に閉じこもったのだった。
セネルとお前を見たくなくて。



















何故、お前を求めて出てきてしまったのだろうか。


















後悔に襲われる。
あの海の中に戻った方が良いのではないか。
それとも……




























、セネルはどうした?」

「セネルは…陸にいるわ。

シャーリィが怪我をしたから支えるように言ったの」

「それは気持ちの余裕か?

俺が、どんな気持ちで…」

























俺はこういう風に言う奴だったのか。を責める奴だったのか。
とたん、恥じ入るように顔に赤身がさした。

























「ワルター、何故怒るの?」

「っ…」

























ここまで来て、気付いていないことを突き付けられる。
お前は、何故一人で来たんだ。




こんな暗い海の底まで。




困っているを見て彼女が光輝いていないことに気付く。
あの光はなんだったのだろう?

























「ワルター…?」
























不思議そうに見上げるその顔。
困ったように胸に置かれる手。
美しくたなびくその髪は、海の中でも舞うようだ。

























欲しい。

が欲しい……



























紫色の瞳に見つめられ、そこに吸い込まれそうになる。
意識が飛びそうになるのを押さえ込んで、彼女を見つめた。




誰かをこんなに欲したことはあっただろうか。
いや、ない。




メルネスの時は、メルネスではなく隊長という位置を守りたかった。セネルに奪われたくなかった。




でもは違う!
俺は、の全てを欲しい。

いつも、奪われるのはセネルにだ。
セネルには、勝てないというのか。




























「お前はセネルのものだろう?」

「セネルのもの…?私は私だわ。誰のものでもないの」

「しかし、お前はっ…」

「私はセネルのこと好きよ。セネルと一緒にいたい。これは真実よ」

「では、何故ここに一人で来た?

どうなるとも思わなかったのか!?」



























思ってもみない程の怒声をあげてしまい、俺はを見た。
彼女はビクリと肩を震わせ、恐る恐る俺を見上げる。
しかし、その口調は確固たるもので、

























「ワルターなら大丈夫ですもの」























そう言い切った。




俺なら大丈夫だと、誰が言ったんだ。俺ならお前を殺さないと誰が言ったんだ!?
全部お前が過信しているだけだということがわからないのか。


























「言い切れないだろう?」

「言い切れるわ。私…ワルターを………えっ」

























言い終えないうちに、その腕を強引に引っ張り体を引き寄せる。
そして強く抱きしめると、唇を奪ってやった。




噛み付くようにキスをした後、その柔らかな唇を舐めて口を開けさせる。
少しの怯みが最後、の口内に舌を侵入させた。
























「んっ…ふっ…」























驚きに目を見開いてされるがままにしている彼女をいいことに、俺は攻める。



















この唇はセネルのものか?
それなら、犯してやればいい。

俺のものにならないならば、汚してやればいい。
その過信を後悔してしまえ。


















汚い感情が渦を巻き心を支配する。
そのうちやっと抵抗しだす様に動き出した手を掴み、邪魔にならぬようふさぎ込む。





























「はっ…はぅ」
































苦しそうな息つぎが聞こえ唇を離すと、は肩を上下させて荒い呼吸をする。
そして真っ赤な顔で俺を見上げた。





























「ワルター…どうして」

































そんなこと、わかるだろう。










































「どうして」

「……」

「どうして」

「……」



































繰り返される問いの言葉。
本当に、わかっていないのか。




ふと頭が重くなって体の自由がきかなくなる。
きっと、あの鎖を断ち切って放り出されたからだろう。


俺はに寄り掛かるようにすると、その耳元で囁いた。



















































「お前が好きだ」




















































**************

濃厚キッスの後に好きだなんて言われたら一発で落ちそう♪
それも相手はワルターだし☆

さて、ワルター編は終わりました!
次はグリューネ編ですね!


2008/12/18









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