ウェルテスの街に低く橙色の光が差込み日も暮れかかった頃、俺の元にジェイがやってきた。
ジェイの表情は穏やかで、それが探し物が見つかったのだと悟らせる。






















「ワルターが見つかったのか!?」

「はい!」





















ここまで来ると、のことよりもワルターが見つかった事が嬉しく感じた。
それほど毎日の捜索はキツかったんだ。

と一緒に食べようと思っていた作りかけのスープの火を止めて、ジェイの後に続く。
そうか、これでまた元通りだ。そう思うと気が休まった気がした。

でも、着いたのはあの宿屋の一室。
とワルターが一緒に暮らしていたあの部屋だ。
何故そこだけが空いていたのかわからないが、そのことが俺を動揺させた。
どうして水の民の里のワルターの部屋じゃないんだ?これじゃあまるで…





















「来たか、クーリッジ!!!」

「クロエ…」





















部屋の前で立ち竦んでいたクロエが、俺に気付いて振り向いた。
クロエの表情もジェイと同じ穏やかさが見えたが、予断を許さない雰囲気があった。
きっと、ワルターの容態は思わしくないのだろう。





















「今、レイナードとノーマとシャーリィが爪術をかけている。けれど効かないだろうな」

「……」

「外傷がなかったんだ。あとは精神的なものだから、爪術では……」

はどこだ?」





















クロエの言葉を遮って彼女の居場所を問う。
すると一瞬ムッとしたが、律儀に応えてくれた。





















は部屋の中にいる」

「わかった」





















ガチャリとノブを回し、乱暴とも言える手つきでドアを開けた。
部屋の中には話し合うウィルとノーマとシャーリィ、隣のベッドで眠りこけているモーゼス、そして、





















「ワルター…目を覚まして」





















ベッドに横たわったワルターの顔をじっと見つめ、その手を握り締めているの姿があった。

途端、胸にずしりと重いものが乗っかって息苦しくなる。
とワルターのその世界を見ただけで、嫉妬の炎が燃え上がった。
けれど、病人を目の前にして何を言えるわけでもない。
俺は、俺らしく仲間を思わなければ。





















「ワルターは、どうなんだ?」

「セネル…!」





















はワルターの元を離れ、俺のそばに駆けて来た。
ホッと胸を撫で下ろし、彼女の肩を抱く。





















「意識が戻らないの。どうしよう、このまま気がつかなかったら」

「大丈夫だ、。意識は戻るよ。ただ、休ませてやろう」

「……ええ」





















は俺に軽く抱きついた後、また背を向けてさっきの場所に戻ってしまった。
仕方がない。病人には勝てない。
言い聞かせてウィルの方を見ると、こっちに来いと目線が言っていた。
そこにはシャーリィが居て気まずい。あの日から話していないからだ。

















このまま部屋を出て行くのはさすがに出来ないな…
















そう思うと、仕方なくウィルの方へ歩いていった。





















「どうなんだ?」

「ワルター次第だ」

「そうか…。クロエが言っていた、精神的なものだって」

「それに近いな。ワルターの中に何かあったのだろう…」





















ウィルはチラリとワルターの寝顔を見た。
元々白い肌が、もっと青白くなっていて病人なのだと思わせる。





















「ワルターに何があったんだ……?」

「……

さんのことだよ!」





















俺の呟きに、シャーリィが鋭い言い様で答えた。
俺達は(も含めて)彼女を見ると、言葉を失ってしまった。

シャーリィは、泣いてたんだ。





















ちゃんのことって……リッちゃん?」





















恐る恐るノーマが聞く。
すると、シャーリィはキッとした目線をに向けた。





















「ワルターさんはさんと一緒に居たかったのに、さんがお兄ちゃんを選んだから…!」





















その言葉にはびっくりして立ち上がった。
俺も驚いた。だって、それじゃ順番が逆じゃないか。





















「シャーリィ、何を言ってるんだ。俺達のことは、お前達が里に残った後に……」

「違うよ!!!」





















シャーリィはつかつかと俺の前に歩いてきて、ぐっと涙を堪えて俺を見上げる。
その瞳には黒い影がちらついているかに見えた。

もしかして黒い霧かと思ったが、シャーリィは正気だ。
だから話を聞いてやらなければ真実が見えないかもしれない。





















「あの里でのお祭の夜、お兄ちゃん達は何してた!?

二人で、どこか行っちゃってたじゃない。それでお祭が終わった後、二人で川のほとりにいたでしょ!」





















俺はを振り返った。彼女も俺を見ていて、驚きを隠せないようだ。
二人で今度はノーマを見るけど、ノーマも驚いていてシャーリィにそのことを話した様子はない。
あとそのことを知っているのはクロエだが、彼女が話すということはないだろう。
そうしたら、あおの時本当に俺達を見たのかもしれない。





















「いたわ……シャーリィの言うとおりよ」





















が静かに答えると、シャーリィの喉がゴクリと鳴った。
唇はぶるぶると震え、耐え忍ぶようだ。





















「その時の二人は、恋人だったんだよ!私達に入る隙間を与えなかったの!

そんな姿見せ付けられたら、勝てるわけないよ……。だから私、マウリッツさんの婚約話を了承したんだもの」





















最後は消え入るような声で呟く。
シャーリィはまた涙を流し始めた。





















「恋人……?その時はまだ俺の片思いだった。って、『私達』ってことは、ワルターと一緒に見たのか?」

「うん、そうだよ」





















そうか。だから二人で里に残ったのか。
クロエやノーマが知っている真実を聞いたのなら、こんなことにはならなかったってことか。
皮肉だな。このことがあったお蔭で、俺はと両思いになれたんだから。





















「それは勘違いよ、シャーリィ。私がセネルの気持ちに答えたのはもう少し後だもの」

「……知ってます。ワルターさんが見たその場面を、メルネスの力を使って見ましたから」

「えっ……」





















は恥ずかしさのあまりか黙ってしまった。
確かに、あれをワルターにもシャーリィにも見られたなんてな。





















「勘違いって言うのはな、シャーリィ。川のほとりで俺はにクルザンドで昔、会った事があるって言ったんだ」

「え?」

「俺達は昔、クルザンドで一緒に過ごしたことがあるんだよ。がそれを忘れてたから、驚かしてやったんだ」

「セネル、本当かそれは」

「ああ、本当だウィル」

「わー、セネセネとちゃんて知り合いだったんだ!」





















言葉を失うシャーリィを誤魔化すように、ウィルとノーマが口々に言った。
俺は頷くと、の隣に歩いていく。





















「その時はクルザンドの話をしてたんだ。俺達の故郷だからな。だから、入れる雰囲気じゃなかったんじゃないか?」

「ええ、そうね。あの時は里がクルザンドに感じたもの。懐かしかったわ」





















俺達は自然に手を繋ぐと、にっこりと微笑んだ。
心が休まる。いい気分だ。





















「そんな……私とワルターさんの勘違いなんだね。私達が、事態を混乱させちゃったんだ。

マウリッツさんの企みを、あの時跳ね除けることが出来たはずなのに!」





















シャーリィはわっと泣き出し、その場に座り込んでしまった。
その声に気がついたのか、クロエが心配そうな表情で部屋に入ってくる。





















「どうしたんだ?」

「何でこんなことになったのかわかったんだ。だから大丈夫だ、心配するな」

「ああ…」





















俺がそう言うと、クロエは不思議そうに頷いた。

こうなると、後はワルターだな。
あの時俺がを取られたくなくて言ったことも、こういう状況に繋がっているんだろうな。
だから、俺にも責任があるわけだ。



それならば俺が……





















「セネル、私当分ここに住むわ。ワルターを介抱したいの」

「!」



















ワルターのことをどう看病するか提案しようとした時、は言った。
あの時と同じように、自分がここに一緒に住むと。















なんで、そういうことになるんだよ!
せっかく真実もわかって穏便に終わろうとしていたのに。
俺とが、また一緒に暮らせるだろうに!!!

そう叫んでやりたかったけど、シャーリィは泣いたままだしどうしようもない。





















「……、どうしてだ?」

「ワルターがこうなったのは、私のせいなの」

「なっ!それは違うって……」





















俺が言い返そうとすると、は強い瞳で俺を見た。
そう、これは頑固者の証だ。





















「違わないの。私、何でワルターがこうなってるかの理由も知ってるの!」





















きっぱり言う彼女の言葉に、頭にガツンと衝撃を受けた。
あんなにも鈍い彼女が、理由を知っている。ということは……





















「……ワルターに告われたのか?」





















俺の声はどんなに低く平坦だったか。
の怯えた表情を見ればわかった。





















「ええ」





















でもは屈せず、凛とした声で頷いたんだ。





















「いつ言われたんだ?」

「ワルターを迎えに行った時に、彼の意識は戻ったの。その時に…」

「なっ……、くっ……

……そうか、じゃあ勝手にすればいいだろ」





















何か言ってやりたい。でも、言えなかった。
その場が俺を留めさせたわけじゃない。俺の気持ちが一気に冷え切ったようだった。

何も考えられずに俺は、テーブルにぶつかりながらドアの前にいたクロエを突き飛ばして部屋を出た。






















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164話ってば話の凹凸が激しいな〜(笑
でもノリノリで書きました♪セネルの心情。
さん、あなたはかなりヒドイおなごです…ホロリ。
こんな事になったら、オトコノコはなかなか立ち直れません…(汗


2009/01/12








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