体面なんてどうでもよかった。そこを離れたかったんだ。
ただ、悔しかった。ワルターに負けた事じゃない。の気持ちの変化が悔しかった。
俺じゃ、繋ぎとめられなかった。
彼女の心を俺の元に留められなかったんだ。
「っ……なんでだよ!!!」
噴水広場まで来て、誰もいないのをいいことにベンチを蹴る。
ガン、と凄い音がしたがベンチは傷一つつかなかった。
虚しくなってそこに座り込むと、俺は空を見上げる。
「なんて、残酷なんだよ。離れてくなら、好きなんて言うなよ」
口をついて出る言葉。
心が痛い。こんな苦しいのに、そばにいて欲しい子は近くにいない。
「俺はっ……好きだったんだぞ。この身を挺しても守りたかったんだ。昔のように、一緒に笑って過ごしたかったのに」
唇を噛み締め、口内に鉄の味が広がる。強く噛み過ぎたらしい。
両手で顔を覆い、涙を耐える。
泣きたいくらい好きだったんだ。だから辛い。
「くそっ……」
暴言をまた吐くかというとこで、誰かの気配を察して横を見た。
そこには、泣き顔のまま息を切らせたシャーリィが立っていた。
内心舌打ちをしたかった。
どうしてこんな時に追ってくるのか気が知れない。
俺の恋路の結末を、やったと嬉しがってるのか。
「お兄ちゃん……」
「……」
「お兄ちゃん、あのね…」
「…来るな」
脅かすように低い声で言う。
今は一人にして欲しいに決まってるだろ?
どうして察してくれないんだよ。
「っ……あのね、お兄ち…」
「来るなよ!来られても優しくなんてしてやれない。辛く、当たるだけだぞ!!!」
シャーリィをこんな風に跳ね除けたことはなかったはずだ。
それほど気を遣って大事にしてた妹だ。でも今はそんな余裕がない。
シャーリィは怯むと立ち竦んだようだった。
そうだ、そのまま去ってくれればいい。
でも、シャーリィは立ち去らなかった。
無言でそこに居たんだ。
「なんでどっか行かないんだよ……、俺はこんな姿見られたくない」
「そんなこと…」
俺が弱音を吐くと、シャーリィはゆっくりと近づいてきた。
そして、ベンチでもたげる俺の頭を優しく抱きしめる。
泣きそうになった。
俺は一体、何をしてるんだ。
と両思いになれたのも、この恋が終結したのもシャーリィのせいでもあるだろ。
それなのに……
「お兄ちゃん、さんを信じようよ…」
シャーリィの言葉に愕然となる。
いきなり何を言い出すんだと思った。
「何言ってるんだシャーリィ。お前こそを疑ってただろ」
何故恋敵していたを信じろなんて言えるのか。それもこの状況で。
俺は彼女を突き放して睨みつけた。
「あ……」
「本当は内心喜んでるんじゃないのか?」
言ってはいけない言葉だってわかってた。でも止まらなかった。
シャーリィが俺を好きな事はずっと知ってたけど、見てみぬ振りをしてきたんだ。
告われても断った。なのに…
「…そう言われてもしょうがないことをしたってわかってるよ。この前も、今回も。
でもね、さんは信じようよ」
「……」
「お兄ちゃん、私は恨んでいいから……さんは信じてあげて」
「出来るかよ!!!」
勢い良く立ち上がってシャーリィを見る。
嘘は言ってないってわかる。ずっといっしょに過ごしてきた妹だ。
でも、今の俺にはそれを受け入れる余裕はない。
だから、逃げるようにその場を後にした。
*
「追わないのか、」
「……ええ」
私が追える立場ではないってことはわかってるの。
セネルのことが好きだって言ったのに、ワルターのためにここに残るのだから。
汚らわしいものでも見るかのような視線に気付くと、私はそちらを見た。
わかってるわ、シャーリィの視線よ。
私がセネルを傷つけたから、怒れないセネルの代わりに彼女が怒っているの。
「酷いです、さん」
「ええ、そうね」
「私は確かにワルターさんが待ってるとは言いましたけど……」
『お兄ちゃんを傷つけていいなんて言ってません』
シャーリィの心の声が飛んでくる。ううん、突き刺さる。
「、追わなくていいのか?これではクーリッジとの関係が…」
「…追えないのよクロエ。私は追えない」
先ほどのウィルの言葉より切羽詰った声で言うクロエに、私は言う。
今追わないとセネルが私から離れていってしまうのが手に取るようにわかる。
それがどんなに私の心をばらばらに引き裂くかもわかるわ。
でも、ワルターの気持ちに答えなければいけないの。
彼が一番に目を覚ました時に、答えたいのよ。
「ワの字の気持ちを断るためだけに、セの字を失うんか?」
はっとしてワルターが寝ていない方のベッドを見ると、モーゼスが私をじっと見つめていた。
モーゼスはおちゃらけたことを言うのに、こういうときは真実を突いてくるのよね。
「!」
シャーリィが驚いてモーゼスを見た。そして次に私を見る。
シャーリィ以外は私がしようとしていることをわかっているようだった。
誰も驚いていないもの。
「失うかもしれないけれど……、でもそうしなければいけないの」
「それで後悔するんじゃろ?そんなら、追っていってしっかり話さんといけん」
「言えないわ。今のセネルに何を言っても信じてくれないもの」
「そうかもしれんが……、話しておくのと話しておかないのは違……」
「違いますよ。でも、さんが正しいんです」
カチャリと窓が開いてジェイが入ってきた。
きっと、窓の外で話を聞いていたのね。
「ジェー坊!」
モーゼスは負けたと言わんばかりに言葉を引く。
ジェイには勝てないものね。
「セネルさんが後悔する回数が違います。
今のセネルさんに何を言っても信じないでしょう。そしてさんを好きになったことを後悔する。
言わなければそれだけで済みますが、言ってしまったらさんを信じなかった自分を彼は後悔しますよ」
「ジェイ……」
「あなたは残酷なくらい優しい」
ジェイは私に代わって心を痛めてくれている。その表情が物語ってるもの。
ジェイだけじゃない。みんなそうよ。
ガタン
その時、シャーリィがセネルを追うように走り出した。
きっと、本当に彼を追って行ったのだと思うわ。
「いいの、ちゃん。リッちゃんが話しちゃうかもよ?」
「シャーリィはセネルを思っているから話さないわ」
シャーリィが彼を追ってくれれば、それほど安心できる事はないわ。
ずっと一緒に過ごしてきた兄妹ですもの。私達の誰かが追うよりも効果的だわ。
あら、変ね。シャーリィは私の恋敵なはずなのにこんなこと思って……
「あっ……」
緊張の糸が切れてしまったのかほろりと涙が流れてしまう。
そうしたら全然止まらなくなってしまって、思わず両手で顔を覆った。
「…」
クロエの足音が聞こえ、程なく私はその腕に抱かれた。
そしてその後はノーマの細い腕に。
「ちゃん、セネセネが好きなんだね」
「……ええ、大好きよ。失いたくないもの」
「ワルちんより?」
「ノーマ!」
直球で聞いてくるノーマへ少し笑みを見せて私は言う。
「……ワルターの代わりなんかじゃなかったわ。セネルが、好きなの」
失いたくない。
でも、きっと失ってしまうでしょう。
気持ちが無くなってしまったら、もうその人は恋しくならないわ。
でも、セネルが私を信じてくれるなら……
その時はお願い、彼を私の元に―――
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セネルの心情(終)とヒロインの心情(始)ですかな。
ワルターの目覚めまでニヤニヤしながら話が進められそうです♪
恋に対してヒロインの思い込みもあるので、実際「そうじゃないだろ!」
って思われる部分もあると思いますが、それはこの作品の
さん一個人の考え方ってことでお願いします↓
もうちょっとセネルがシャーリィに辛く当たればイイ(ォィ)
なんて思いましたが、そこは自重しました〜。
これからも頑張るぞ!
2009/01/12
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