「……今、の声が聞こえたような」
















ワルターは読んでいた本を閉じるとベッドからおりた。そのまま窓際まで歩くとカーテンを開ける。
外はもう日が沈んでいた。
















「もうこんな時間か……、となるとの帰りが遅いな」
















心配になって窓を開け、外を見たがの気配は感じられない。
もう少し待ってみようと彼はのベッドに座った。
















は昨日、混乱していた。大方俺の気持ちを断るためにセネルをも断ち切ったのだろうがそれも出来なかったしな…」
















はどうするのだろう?
















ワルターは考えた。
セネルがいなくなり自分が戻ってきた。しかし容易に自分の告白に頷くことはしないだろう。
なぜならばセネルへの気持ちがあるからだ。
















ここでセネルに負けるのか……いや、俺にはセネル以上の繋がりがある。
過去だけではない。今までの全てが俺との繋がりだ。
それを信じて待つしかない。
















「待つ……?」
















待つという言葉に異常に反応した彼はもう一度思いを巡らせた。
一体がいつ答えを出すのか。今だろうか?今ならすでに帰宅して何らかの話があっただろう。
それならばいつ答えを出す?明日か、明後日か、それ以降か。
















「いや……、は今その問題よりも大きな問題に直面している。世界が関わっていることだ…」
















それならば自分の問題は後に置いておき、大きな問題から片づけにかかるだろう。
そうなるとどうする?
















「!」
















どうして忘れていたのか。大事なことだったではないか!
ワルターは自分を責めた。なんのために水の民の資料を漁っていたというのだ。
の持つ大きな問題に少しでも役に立てるようにと思っていたその時に、自分は黒い霧に付け込まれたのだ。
それに彼女は狙われていてもおかしくない立場だ。そのためセネルへ預けたのに、戻ってきた彼女を今度は自分が一人にさせてしまった。
















「今はセネルに頼れん。すると他の仲間も頼りに出来ん。あいつがそういう時にとる行動は一つだ…!!!」
















ワルターは治りきっていない体に鞭打って素早くマントを羽織る。
そしてドアを開け、隣の部屋のドアを強く叩いた。















ドンドンドンドン!















数回叩いたが誰も応答しない。
舌打ちをして踵を返したところで中から声が聞こえた。
















「夕食はもっと後でいいってば〜」
















そう言いながら出てきたノーマにワルターは掴みかかった。
















「おい!を見なかったか!?」

「うおぉ!ワルちん気が付いたの!?心配したよ〜!!!」
















ノーマは驚いた後に突然抱きついてきた。
彼女に相当心配をかけていたことは分かったが、今はそれどころではない。
彼はノーマを引きはがすと、肩をガッチリ掴んで睨みを利かせた。
















を見なかったかと聞いている!」

「あっえ、ちゃんは見てないけど……どしたの?」
















使えない奴だと思い唇を噛み締める。
しかし今の状況を自分で打破出来る自信がないため、伝えるしかなかった。
















こいつらに手伝ってもらわなければは救えない。
















が一人で行ってしまった!他の奴らにも知らせてくれ!!!」

「一人でどこ……ええぇっ!!!ちょ、それヤバいよ!ちゃんて狙われてるんでしょ?ウィルっちに知らせなきゃ!」
















ノーマはすぐに支度して外へ出た。それにワルターは体を引きずって着いていく。
心配そうにチラチラ後ろを向いてくる彼女に睨みを利かせながら、ワルターは考えた。
















は一体どこへいったんだ?
一人で向かうとしたら誰にも行先は告げないだろう。
ノーマは俺が気が付いたことを知らなかった。他の仲間にも言っていないのは明らかだ。
何も手掛かりはない。どうすれば居場所がわかる…?
















「ワルターさん」
















後ろから声を掛けられて振り向くと、そこにはチャバがいた。
彼はワルターがいることに驚きつつも、尋常ではない雰囲気に気付いて声を掛けてきたようだ。
















「なんだ?」

「気が付いたんですね、良かった。今朝、ちゃんはそのこと言わなかったから…」

「貴様、と会ったのか!!!」
















ワルターはチャバに掴みかかると前後に揺らす。
揺さぶられながらも、チャバはしっかりと答えた。
















「艦橋に行くって…オイラがついて行こうとしたんですけど」

「貴様が行っても役に立たん」

「ワルちんてば言い過ぎ!」
















手の付けようがない程怒り狂ったワルターは、暴言を吐くとデルクェスを出し空へと飛びあがった。
















「ちょっと!そんな体で行く方が役に立たないよ!」

「うるさい!貴様らは仲間に知らせろ、俺は先に艦橋に行く!!!」
















ワルターは街の外へ向かうと、ダクトに乗って消えてしまった。
残ったノーマとチャバは溜め息を吐いて顔を見合わせる。
















ちゃんに何かあったんですか?」

「なんか、ちゃん一人で全部解決しようと行っちゃったらしくて」
















詳しいことはわからない。
しかし今の状況がワルターが狂乱するほどのものだということを理解したチャバは一歩を踏み出した。
















「おいら、アニキ達に知らせてきます!!!」

「うん!あたしはウィルっちのとこに行くから!」
















彼らは二手に分かれると、仲間たちへ知らせに走った。































             *































ーッ!どこだー!」
















ワルターは艦橋の隅々を飛んで廻った。歩くよりも早い、それも魔物と戦う必要がないのだ。
しかしどこを探してもの姿は見えずチャバの言葉を疑う。
















今朝会ってここに来ると告げたのなら絶対にいるはずだ。
あの男は他の仲間とは違う雰囲気を纏っている。うっかりとが行先を告げてもおかしくない。
ワルターは内心チャバに感謝していた。彼が会わなければ、行先は見当もつかなかった。
















しかし礼を言うのはが無事に見つかってからだ!!!
















ワルターは軋む体を抑えてふらふらと進んでいく。
そろそろ限界だった。まだ体が回復しきっていない。
















の奴、俺がついていけない今だから行動したな…」
















これでは助けに向かうのも一苦労ではないか!
ワルターは何回も舌打ちした後、周囲をよく見てあることを思い出した。
















「……ここは確か、あいつが自分の兄を葬ったところだ」
















シャーリィとステラが捕まって滄我砲を発射された場所。
それならば、はあそこにいるのでは…?
ワルターは艦橋の最奥、がヴァーツラフを葬った場所に目標を絞った。
そこにいなければ他の奴らが来るまで待たなければならない。
もう体力が持ちそうにない。
















「そこにいてくれ、…!」
















ワルターは力を振り絞ってその場所へ向かった。
















ウイィィン
















ドアが開くとそこはあの時のままだった。
ヴァーツラフの血だまりは床に固まり、壁や機械には戦いの跡が色濃く残っていた。
魔物の気配がないので床に降り立ち、周囲を見ながら進む。
自分がこの場所に来たとき、は兄の遺体の下敷きになっていた。
それを引っ張り出して立たせ、他の奴らを見る。すると奴らの目はを蔑んでいた。
正しいことをしたはずのが非難され、仲間の信頼を失っていた。



しかし何故だか俺は、信じることが出来た。だからここまで絆を作り上げられたのだ。



あの頃を思い出しながら歩く。
数か月しか経っていないはずなのに、との絆は深くなっていった。
















俺たちは離れることは出来ないだろう
















彼は問いかけた。
ワルターは彼女の姿を必死に探した。すると目を凝らした先、奥の床に銀色の髪の毛が流れているのが見えた。
















!!!」
















素早く駆け寄り膝をつく。
そして気を失っているの体を抱き上げ、頬を叩くが反応はない。
















「起きろ、!」
















息をし外傷もない。しかし全く反応がない。
ワルターはに何が起こっているのかわからず、体を揺さぶることしか出来なかった。
















、一体何があったんだ!?起きろ、起きてくれ!!!」
















彼女は苦しそうに顔を歪めたまま反応を示さない。
















「お願いだ、起きてくれ!お前を失いたくない…」
















何をしても起きることのないを見つめ、ワルターは悔しそうに顔を歪めると彼女に口づけを落とした。
そして強く抱きしめデルクェスを出して飛び上がる。
もう力は残されていなかった。しかしをこのままここに置いていくことは出来ない。



仲間の元へ連れ帰らねば。
たとえ気が付くことがなくとも皆のところへ連れて行かなければ。



彼は最後の力を振り絞ってウェルテスの街へ向かった。
















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チャバっていいポジションにいると思います。
ワルターもそれをわかってるはず(笑

はどうなってしまったんでしょう!?


2010/02/20







169話