「ウィルっち、クー、あれワルちんじゃない!?」
「本当だ!を抱えている!!!」
「無事見つけたのか!行くぞ、二人とも」
ウィル、クロエ、ノーマは天井すれすれをふらふら飛んでいるワルターを見つけた。
彼らは一目散に走ると、二人の下で止まって大声で呼びかける。
「「ワルター!」」「ワルちん!」
ワルターは途切れそうな意識の片隅でそれを聞き取り見下ろす。
数は足りないがの仲間が数人いて胸を撫で下ろした。
ふらふらと降り立ち、を横たえようとしたが自分でも信じられないくらい強い力で抱きしめていたことに気付く。
なぜならば固まった手を解くのに時間がかかったからだった。
「ちゃんどうしたの?」
ノーマが心配そうにの顔を覗いた。
先ほどよりも安らかになったものの彼女は依然気を失ったまま、目を開けることがなかった。
「わからん。俺が着いた時は既に倒れていた」
「そう…なんだ。あ、皆を集めるには時間がかかるから、そこにいたウィルっちとクーだけ拾ってきたんだけど…」
「ああ、助かった」
さらりと言われた感謝にノーマと他の二人は目を見合わせた。そして再びワルターを見る。
しかし彼は三人の行動を気にしもしていなかった。
「リザレクション」
ノーマは嬉しそうにニヤニヤすると、ワルターに回復ブレスを唱える。
彼は少し体調が良くなったのか、虚ろな表情がいつものきりりとした睨みに戻っていた。
「は見たところ外傷はないみたいだが…」
「ああ。とりあえずブレスを唱えてみるぞ、ノーマ」
「あ〜い」
「ヒール」「リザレクション」
ウィルとノーマのブレスがに注がれる。
しかし怪我もなく気を失っている彼女には全く効力がなかった。
二人は肩を落とすとそっと彼女に触れた。
「温かい」
「ホント、体は大丈夫そうだけど。これは……」
「ワルターの時みたいだな」
続かなかったノーマの言葉をクロエが続ける。
ワルターはビクリと肩を震わせると彼女を見た。
「お前が助け出された時にこんな感じだったからつい…」
「いや、クロエの考えは合っている。これはワルターの症状と一緒だ」
「ってことは、精神的なものってこと?」
三人の話はどんどんと進んでいく。
自分が長い間眠っていたのは知っていたが、そのような状態だったのかと思う反面、納得も出来た。
セネルに奪われたが自分を追ってきた。そして救いの手を差し伸べてくれたのだ。
しかしセネルのものになったはずの彼女を奪い返せるのか、どうすればいいか葛藤していた。
このまま生きて戻ったらがセネルと共に生きるところを見守らなければならないかもしれない。
しかし自分の気持ちを知ってしまった今、愛する彼女と他の男が共に生きるのを耐えきれるはずがない。
俺たちはこんなにもお互いを必要としているはずなのに、そばにいられないなど考えられない。
このまま死ぬか、それとも生きるかの葛藤…
長い時間葛藤していた中、聞こえたのはの「起きて」という願いだった。
その時、永遠の別れよりも、たとえそばにいれなくとも同じ世界で共存する道を選んだ。
彼女が望むならば、俺は生きなければならないと思った。
愛する者が必要としてくれるならば、生きてその者の幸せを見届けなければ。
「…にとって、死んでしまってもいいと思えるくらいの事が起きたのかもしれない」
「「「え?」」」
ワルターの呟きに悩む三人は振り向いた。
「俺が生死の境目を彷徨っていた時、まさに生きるか死ぬかを葛藤していた。だからもそうなのかもしれない」
「ちゃんが?」
「は強い、そんなこと!」
クロエが否定する。しかしワルターは自分の考えに確信を持っていた。
「俺はに宣言した。俺のものにすると」
「///////」
ワルターの言葉にクロエが真っ赤になる。
ウィルはほほうと頷きノーマはニヤニヤと笑った。
「しかしは混乱していた。セネルが好きだからだ。だがあいつにとって、俺の宣言は嬉しかったようだった」
「それで答えを自分で決めかねて問題を後回しにし、大きな問題を先に一人で片づけようとここに来たわけだな」
「そうだ」
「のやりそうなことだな」
「クーもやりそうだけどね」
横槍を入れたノーマにクロエは掴みかかった。
ウィルは二人に無言でゲンコツを浴びせるとワルターを見つめる。
「そしてここで何かが起きた。それはわからないが、それと共にお前とセネルの問題が絡み合ってがこういう状態になったと言うんだな」
「ああ」
「わかった。とりあえず街に戻ろう」
ウィルはを抱きかかえると入口へと進みだした。
ワルターは肩の力を緩めて立ち上がる。
ノーマとクロエが肩を貸すかと聞いてきたがそれは断ることにした。
自分の問題と改めて向き合ってみると、何故か解放された気分になり体が思うように動いたからだ。
もう自分は大丈夫だっと思った。あとはの意識が戻ってくれれば何も恐れるものはないと感じた。
*
「は大丈夫なんか!?」
「アニキ落ち着いて!揺らしちゃだめだよ」
「わかっちょる、わかっちょるが…」
「モーゼスさん、あなたが焦ってもさんは気付かないんですから静かにして下さい」
「ジェー坊!そがあにイライラするな」
「ジェイちゃんもモーゼスちゃんも心配よねぇ。お姉さんも心配だわぁ〜」
ウィルの家に着くと、心配そうに待っていたジェイ、モーゼス、グリューネ、チャバがいた。
キッチンにはシャーリィとハリエットが手を繋いで立ち尽くしている。
ウィルはジェイとモーゼスにテーブルとソファーを動かすように、クロエとノーマに布団を持ってくるように言った。
リビングにはすぐに大きなベッドが出来、はそこに寝かせられた。
「息をしてるのに気付かない。ワルターさんの時と本当に同じですね」
「ああ。シャーリィ、ハリエットと二階に行っていてくれないか」
「ハティはここにいる!ハティもが心配だもん!」
「ハリエット…わかった。しかしやってもらうことが出来たら手伝うんだぞ」
「うん!」
こんなやりとりがある中、チャバがひっそりと家を出て行った。
ワルターはそれに気づいたが、特に声を掛けることはしなかった。
それよりも気になることがあったのだ。
なぜ、ここにセネルがいないのか。
あいつだったら飛んでくるはずの状況なのにいない。
来ることを放棄したのか?そんな奴だったのか!?
「何故、セネルがいない?」
ワルターは苛立たしげに言った。すると他の仲間たちは息をのんでそれぞれの顔を見合わせた。
答えを待っても仲間達は顔を見合わせるだけで何も言おうとしない。
埒があかない。
そう思って再度不満の言葉を発しようとすると、シャーリィが遮った。
「呼ばない方がいいと思って、知らせませんでした」
「メルネ…シャーリィ、何故そう判断した?」
ワルターは目を細めるとシャーリィに問う。
シャーリィは少し戸惑ったが真っ直ぐ見返して答えた。
「お兄ちゃんは傷ついていて、最近はさんの名前にも触れようとしません。だから…」
「……だからあいつをのけ者にしたと。
だが、来るか来ないかを判断するのはあいつだ」
「!!」
「セネルは仲間の窮地に目を背けるような奴ではないだろう!!!」
ワルターの怒声はシャーリィに向けられたように見えたが、実は仲間たち全員に向けたものだった。
彼らはシャーリィの意見に異を唱えなかったのだろう。
だから誰もこの状況をセネルに知らせていない。
仲間たちは皆俯くと拳を握りしめた。
ワルターの言っていることが正しい、身に染みて感じているようだった。
その時、大きな足音と共にドアが勢いよく開いた。
音に驚いて見たそこには、息を切らせて肩を上下させているセネルが立っていた。
「!!!」
彼は驚いている仲間達を無視し、横たわっているの元へ走った。
蒼白な顔を見て悔しそうに唇を噛み締める。
「……どうして」
セネルはの頬に手を当て、愛おしそうにそっと撫でた。
何度も何度も撫でて彼女の生を確かめる。
「よかった…」
その温かさにホッとするとセネルは胸を撫で下ろした。
そして口元に笑みを浮かべ、ゆっくりとの頬にキスをする。
仲間達は彼の行動に衝撃を受けていた。
あんなに傷ついていたはずのセネルがこんな行動に出るとは思わなかったのだ。
そして彼の愛の深さも知った。だから自分たちの判断を恥じた。
ワルターは何故か嬉しく思っている自分を感じた。
セネルは思った通りの人物だと確認出来たからだ。
だから冷静に立ち向かえる、そう思った。
「ずいぶん遅かったな、セネル」
「ワルター!?起きたのか!」
セネルは驚いてワルターを見た。
そして彼の健康そうにしている体を見て、
「無事で良かった」
笑って言った。
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セネルって本当にいい男だと思う!!!(笑
たぶん結果的には彼は菩薩みたいになんでも許しそう♪
2010/02/21
170話