「お前、何を言ってるのかわかってるのか!?」

「わかっている。貴様が行くのが最善の道だ」














ワルターが自信を持って言うその姿を見て。俺は愕然とした。
との関係が崩れている俺に何故託そうとするんだ!?
わからなかった。その確信がどこから湧いてくるのか理解出来ない。














「…そうか!セネルさんがさんを迎えに行く…僕も賛成です」

「ジェー坊!?」














ワルターの意見に賛成したジェイに視線を移すと深く頷き返された。
何だっていうんだ?意味が分からない。














さんが生きたいと思うようにしなければいけないんですよ、セネルさん。こうなった直接の原因がわからないんです。それがわからない以上そこから攻めてはいけません」














ジェイはつかつかと俺の目の前に歩いてきた。そして人差し指を俺に突きつける。














「ワルターさんとさんの関係はいつも通りです。だからワルターさんが行ってもさんは生きたいと感じるかわかりません。でもセネルさんが行ったらどうですか?関係を修復出来たら?

また、生きたいって思うんじゃないでしょうか?」














そう言ってジェイはニヤリと笑った。横を見るとワルターが真剣な表情で頷いている。
そうか!俺との関係が戻れば、がここに戻ってきたいと…生きたいと思う可能性がある!!!

言われて気付く。

俺と関係が悪くなることは他の仲間にも頼れなくなるってことだ。
仲間というのは、全員で助け合うからこその仲間だ。
少しでも崩れるといずれ全て崩壊する。














「ああ、そうだな。二人の言うとおりだ。俺はまた逃げそうになった」

「僕はワルターさんの意見に賛成しただけですよ」














ジェイはすっと横に避けるとワルターを俺の前に押し出す。
ワルターはふと笑うとすぐに元の無表情に戻った。

何だか以前に戻った気がした。
ワルターと他の奴らとを取り合ってる頃に…














「ワルターのお蔭だ。俺はお前みたいなライバルがいないと逃げたくなるんだな」

「フン」














照れ隠しかワルターが俯く。
俺たちはそれを全員で笑うとを見た。

は無言だ。笑いもしない。

足りない。
の声が、笑顔が、全てが!!!

絶対に取り戻してみせる。
が起きてくれるなら俺は何でもする。














「シャーリィ、俺をの中へ送ってくれ」

「……うん、わかった。お兄ちゃん」























































俺たちは静の大地に来た。
シャーリィ曰く、の力は静の滄我が源だからここの方がうまくいくような気がするそうだ。
聖爪術をもらったあの海岸で、俺達はを横たえると海を見た。














「セの字、を連れ戻せるんじゃろうな?」

「ああ、絶対連れ戻す」

「失敗しおったら許さんぞ!」

「大丈夫だよ、モーゼス」














不思議と自信があった。
との関係は絶対に修復出来る、そしてここに連れ帰って来れる。














「クーリッジ、仲間を大切にするお前なら大丈夫だ」

「クロエ、ありがとう」

「セネルちゃん、ちゃんはとても大切な存在なの。だから絶対に連れ戻してきてね」

「…グリューネさん…?」

「いくよ、お兄ちゃん!」














グリューネさんの言葉に引っかかったけど、シャーリィに呼ばれてその意味を聞き返すことは出来なかった。
何故だかグリューネさんの言葉は大きな意味を持っている気がした。














「ああ、シャーリィ」














シャーリィは俺の前に立つと胸の前で手を組み、祈るように目を瞑った。
すると彼女の髪は青く光り、波のように宙で流れる。

髪の先端が水滴のように空に飛ぶのを見ているうちに、俺の意識は体から離れていった。
意識だけが何者かに掴まれ、の体へと引っ張られていく感じがする。
でもそれに恐怖はなく、寧ろ自然な流れにさえ感じた。
そう、俺の心がに惹かれて恋をしたその時の様に。

してはいけない気がしたが、俺は振り返ってみた。
すると体がゆっくりと崩れ落ちてウィルに抱えられるのが見えた。
俺の体はそっとの横に寝かせられる。














「ちょっとの間待ってろよ、俺の体」














意識はの額を通り抜け中へと入っていく。
他の奴の頭の中を見たことがあるわけじゃないが、の頭の中は変わっていた。
虹色に煌めく世界が広がっているんだ。
あまりに煌びやかすぎて、目がチカチカと頭痛を起こさせる。
ふらりと頭を抱えて気付いたが、意識だけだったはずの俺にいつの間にか体が出来上がっていた。
俺の意識はきっと、の頭の中でセネルだと認識されたんだろう。














「どこへ行けばいいんだ?」














歩き出したが全てが虹色で北も南もわからない。
進んでいるのか進んでないのかもわからない。本当は立ち止まっているのかもしれないとまで考える。














「一体どうすればに会える?」














問いかけるように呟く。
すると突然、虹色の世界が流れ去った。そして次に立っていたのは煉瓦造りの壁に赤いカーペットが敷かれた建物の中。
ここには見覚えがあった。














「ここは……クルザンド城だ」














幼い頃にに連れられて、一度だけ忍び込んだことがあるクルザンド城。俺はその廊下に立っていた。
しかし一つ違うところがある―…ここの廊下には終わりが見えない。














「立ち止まっていてもしょうがないな。進まなきゃ話にならない」














こんな永遠に続きそうな廊下でを見つけられるかなんてわからない。
でも俺は諦めるわけにはいかないんだ。
との関係を修復してそして……














「そしてどうするんだ…?」














関係を修復したらどうなる?は俺のところには戻って来ない。そしてワルターのところにも行かない。
自分の本当の気持ちを見つけることなく全てをなかったことにするんじゃないか。

俺は本当に関係を修復してを連れ戻すだけでいいのか?

…いいわけがない!!!














の本当の気持ちを見つけなければ、が最善だと思ってる最悪な結果になる。三人が傷つくんじゃなく、二人が幸せになってそれをもう一人が納得出来るようにしないとダメだ!」














たとえその一人が俺だったとしても――














「いや……」














俺は頭を左右に振るとネガティブな考えを追い払った。














「今はの幸せが一番だ」














好きな子の幸せが俺の一番の幸せだろ…?























































少し進むとドアが見えてきた。
そのドアは一定の距離で並んでおりそれはずっと先まで続いている。
不思議に思って試しに一つ開けてみた。
するとそこは砂漠が広がっていて、今より幼いが立っていた。














「ヴァイシス、どこなの?」














は甥を探しているようだった。
俺は気付かれないようにそっと閉めると額の汗を拭う。砂漠の気候を思い出した。

次は隣のドアを開けてみた。
するとそこには幼いが俺と一緒にクルザンド城の廊下を走っていた。
得も言われぬ感情が湧きあがり、俺はそっと閉めた。














の中に昔の俺がいる」














嬉しかった。忘れていたとはいえ、ちゃんとあの時の俺はの中にいるんだな。
そして気付く。このドアが何に繋がるものか。














「もしかしてこれは、の記憶へのドアなのか…?」














するとむやみに開けて中を見るのは失礼な気がした、だから先に進んだんだけど…
さっきとは明らかに異なるドアが並びだした。何が違うって?各々に違う色がついてるんだ。
俺の目はその中の一枚のドアに釘付けになった。
なぜならばそれは、ワルターの瞳の色と同じ蒼色だったからだ。

取っ手に手を掛けて勢いよく開く…するとその中には美しい森が広がっており、木漏れ日を浴びながら切り株に座る女性を見つけた。
彼女の髪はと同じ銀色、でも全く違う女性だった。














「あなたは生まれ変わっても私のそばにいてくれるのね」














彼女が言っている「あなた」は、何故だかすぐにワルターのことだとわかった。














「私が火刑に処せられたあの日、あなたが迎えに来てくれたのがとても嬉しかった。それだけで私には十分だった…

ねえ今の私、私達はこんなにも彼との強い絆があるの。もし今、彼と一緒にならなくても…何百年何千年後に再び出会って必ず一つになるわ。

だから大丈夫なのよ。今のあなたの…・ボラドが望んでいる相手の手を取るの」














彼女はに訴えるように空を見上げていた。














「……」














俺はゆっくりとドアを閉め、他の色のドアには目もくれず無言で廊下を進んだ。
彼女の言葉は俺の心に強く刻まれた。
それなのに不思議と苦痛じゃなく、寧ろ自然に溶け込んでいったんだ。
今まで見えていなかった確信を得た気がした。そして俺の心に決断させる。














「あとはの本当の心を知るだけだ」














俺は今のを探しに走り出した。















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セネルは無事連れ戻せるのか?
三角関係の終焉を迎えます^^


2010/02/25






172話