ヴァーツラフは盛り上がっている妹達を少し眺めた後、彼らしいやり方で自分に注意を向けさせ、妹と二人で話す時間を手に入れた。
普段は短気な自分が、妹の恋のために時間を割いたのだ。なのでいきなり大技を繰り出して会話を止めたことを咎める者はいないだろう。















「兄様ったら私を呼んでくれれば良かったのに、なんで技を出して注意を向けさせるの?」

「私が派手な事を好きだと、お前も知っているだろう?」

「そうですけれど……」















困惑顔のは仲間を背にして兄に向き合った。
仲間達はヴァーツラフが危険ではないと判断したのか、自分達二人だけにしてくれるのを快く承諾してくれた。
そのため彼らはワルターをつつくかの様に囲い込み、その場に円を作って座り込んでいる。















「強い絆があるんだな」

「ええ。私には仲間がいますからもう大丈夫です」

「恋人も出来たしな」

「兄様ったら///////」















赤くなる妹を可愛いと思いながら、ヴァーツラフは彼女の肩を掴んだ。
そして紫の瞳をじっと見つめる。















「あの水の民が好きか?」

「兄様…」

「サジェよりも、好きか?」

「兄様ったら」

「私よりもか?」















ヴァーツラフはしつこく聞いた。は溜め息を吐いて兄を見上げる。















「好き。きっと、彼を失ったら私…ダメになるわ」

「………そう…か…」















魂が抜けたように言う兄を心配そうに見上げ、は再び溜め息を吐いた。















「お前は、今を生きているのだな。サジェとも確かに心に名残がない」

「兄様、知っていたの?」

「ああ。私の役目が終わったらあいつを探し出して再び供にするつもりでいたからな、いつも気を探っていた」

「でもサジェは生まれ変わるって…」

「生まれ変わっても、私の供にする」















自信あり気に言う兄を、は笑った。
ヴァーツラフは遠くを見るような目線を部屋の入口へ移し、ふと逸らす。
そしてごくりと唾を飲み込んで妹を見つめた。















、私は本質を知る者だ」

「本質…?」















ヴァーツラフは急に真面目な顔になると、の肩を掴んだ。















「そうだ。お前の存在を望んだのは私だ。もしお前が『世界を見守る者』としての力を恨むならば、私を恨むべきだ」

「兄様…?」

「お前はクルザンドに伝わる、世界のどこかにある願い事の叶う石『星のかけら』の話を覚えているか?」















ヴァーツラフの言葉には驚いた。
確かにそのような話がクルザンドにはあった。そしてその石が自分達が見たエバーライトだということも思い出した。
兄は自分の反応を肯定と勘違いしたのか、何も問うことなく話を続けた。















「あれはお前が生まれる一年弱前のことだ」















ヴァーツラフは当時のことを思い出した。











































「サジェ、何をしている。早くこい!」

「王子、お待ち下さい!」















ある夜、夜空に輝いた星が砂漠に落ちた。それを見た私はサジェを連れて探しに出たんだ。
しかし星はなかなか見つからず、砂漠をうろうろと歩き回った私達はどこまでもつづくその景色を見てうんざりした。
国の方角を見つけて戻るのは容易だが、砂漠で何かを探すのはそうはいかない。















「『星のかけら』だ、うんざりしてないで探せ」

「探してますよ…」

「お前は向こうだ、サジェ。私はこっちを探す」

「わかりました」















私達は二手に別れると再び探し出した。
しかし私達が別々になるのを待っていたかのように、その大きな星のかけららしきものは私の目の前に落ちていた。















「これは…」

『…そなたは、力を欲するか』

「!?」















声がして振り向くと、そこに固い表情の女が二人立っていた。















「何者だ!?」















構えると、女達は赤子の手を捻るように不思議な力で私の構えを解いた。
不審極まりない存在だったが、体の動かぬ私にはどうすることも出来なかった。















「わたくし達はあなたに力を与えることが出来ます。あなたは力を欲しますか?」

「…まあ、力は欲しいな」

「そうか…」















二人は向かい合って二言三言交わすと、私を見た。















「そなたに力を与える。そなたにはその素質がある。まさか落ちた先で出会えるとは思っていなかったが」

「素質?一体…」

「力は与えるが、これはそなたに直接入るものではない。」

「…じゃあ、なんだ?」

「そなたの後に生まれる者が持っている。しかしそのことを当人は知らない。そなたが育て、教えるのだ」

「俺の後って、母上はもう40だぞ。俺に19歳離れた兄弟が出来るのか?」

「そうだ。その者には内なる力が宿っている。普段なら気付かぬものだが、今は世界の要だ。その力を使う時が来るだろう」

「…なんだかわからんが、私が育てればいいのだろう。それ次第で私の力にもなるということだな」

「時代の担い手よ、そなたは世界を見守る者の力を引き出すきっかけとなる。我らは去らなければならないが、そのうち再び会うことがあるだろう」

「……わかった」















私が了承すると、女達は消え去った。





























「でだな、それでお前が生まれた。力を持つと聞いていたから男だと思っていたのだが、まさか女でこんな美しいとはな」

「兄様、そんなことはいいですから」

「それからしばらくしてシュヴァルツが一人で来たな」

「シュヴァルツが?」

「何故かクルザンドの城を見て落胆していたぞ」

「落胆?」

「王女だとは…とか、王女にはしたくなかったとか呟いていたな」















は思った。……下調べ無しに私の魂を兄様に任せたのだわ…
遥か昔の自分が王女で、その身分を使って死んだからだ。















「その時、こうも言っていた。お前の人生は王女であることによってより厳しいものが待っていると」

「そう…。……私がこうなっているのは兄様のせいだわね」

「そうだな」















ヴァーツラフは豪快に笑った。彼は細かい事を気にするたちではないのだ。















「シュヴァルツにこの姿で呼び出され、そこでいろいろ聞いた。この世界の事、お前のこと、あの水の民の事だ」

「ワルターのことも?」

「ああ」

「話していいの?」

「いいのではないか。あの女はここにはいない」

「兄様ったら」

「まずお前は、その魂が代々続いてきた世界を見守る者だということだ。だから本当はクルザンドに王女は存在しなかった。私がその存在を願い、あの女達がお前の王女という存在を作ったのだ。王女だとは知らなかったがな」















ヴァーツラフはくくと笑う。















「そしてお前の・ボラドという存在が、周囲の者の運命も変えている」

「もしかしてサジェも…?」

「サジェか?結果的には同じだが、きっかけがちがかっただけだ。あいつはお前を守って死んだが、本来は私を守って死ぬはずだった。もちろん私を葬ったのはお前ではなくセネルになるはずだった。

力も知らないお前が変えられるのはそういうちっぽけな出来事に過ぎない。しかし…」















ヴァーツラフは離れたところで円になって話しているセネル達の中で複雑な表情をしたワルターを見た。
彼はセネルとジェイに挟まれて、強制的に会話に参加させられている。















「しかし、何なのです?」

「あ、ああ…、あの水の民は大きく運命が変わってしまったのだ」

「えっ…」

「あいつは、セネル達と水の民との戦いで死ぬはずだった。しかし、…お前がいたから生きている。ずっと昔の繋がりがあの男の生を繋げ、お前のそばにいさせているのだろう」

「そう…なの?ワルターは生きていないはずだったの?」

「ああ。本当の世界…『レジェンディア』ではそうだと言っていた」

「レジェンディア…」















兄が言っている事は、道理にかなってはいるが信じられないことばかりだった。
グリューネとシュヴァルツが私の魂を兄に預け育てるように仕向けた。そして今はこの世界の要…普段、自分の力を知らない『世界を見守る者』のは兄をきっかけにして力を出している。
ここまではグリューネとシュヴァルツが敷いたレールだったのだ。自分はそれを歩いてきただけ―はそう思った。
しかしワルターの命を救い、彼の運命を変えたところからレールを外れたのだ。
シュヴァルツは何も言わなかったが、これは今後の出来事を変える鍵だったのかもしれない。















「お前もそう思うか」

「兄様もですか?」















ヴァーツラフもと同じように考えたようだった。















「私とワルターは、一緒に戦っていかなければならないのだわ」















メルネスの時のように、ワルターと一緒に戦う…はそう考えるだけで胸が温かくなった。
の口元に笑みが漏れ、それを見たヴァーツラフは酷だが指摘せずにはいられなくなる。















「……、人を好きになるのは良いことだ。しかしお前は『世界を見守る者』…もし、あの水の民を人質にされたらどうするのだ?お前は選べるのか?」

「!!」

「サジェも言っていただろう?あいつも同じような状況になったからだ。しかしお前はその荷の重さが違う。世界のために…あの男を、見捨てることは出来るのか?」















ワルターを見捨てる?
の頭には恐怖が過った。そしてそのような言葉を消してしまいたいと思った。
それ程、自分の中のワルターの存在は大きいのだ。















パンッ















乾いた音が響く。
霧であるはずのヴァーツラフの頬が叩かれた。















!」

「兄様のバカっ!バカバカバカ!!」















はヴァーツラフの胸に拳を叩きつけた。彼女は泣き、手が付けられなくなっている。















、さっきの話は…」

「もう、聞きたくありません!」















ヴァーツラフは頬を膨らませて顔を逸らす妹に懐かしさを覚えながら、昔はこの状況をどう対処していたか思い出す。
しかしすぐに諦めた。















いつもサジェがを宥めていたのだ。
……あいつはもういない。















…」

「兄様なんか…」

!」















大嫌い宣言をしようとしていたをワルターが呼んだ。彼女の異変に気付いて、素早く飛んで来たのだろう。
セネル達はまだ円になったままだ。















「ワルター…」















はぽろぽろと涙を流して彼を見た。ワルターは眉を細めてヴァーツラフを睨む。















「貴様、何をした?」

「……」

「おいっ!」















ヴァーツラフはゆっくりと口を開く。















「お前が人質に取られたら、捨てられるかを聞いたのだ」

「!」















ワルターはを見た。彼女はまだ泣いている。
今、答えを出さずにこうやって泣いてもらえるだけで十分だと思った。















「もしそのような選択を迫られたのなら……は世界を選ぶ」

「ワルター!」

「…お前なら出来る、大丈夫だ」

「ワルター…」

「…お前はいいのか?それで」

「俺は、が選んだ道を信じている」

「……そうか」















ヴァーツラフは溜め息を吐いてふと笑った。















「もう私が入る余地はないのだな。

ではもう夜も遅い、お前達はここで休め。私はと最後の別れを惜しみたい」















ヴァーツラフの言葉に、駆け付けたセネル達は頷いた。
















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ここと次の話の途中までは二年前に書いたんですよね〜(笑
二年前に書いたこのヴァーツラフ話にどう繋げるか悩んじゃいましたよ。
無事繋がってよかったー!


2010/03/26






177話