私達は下の層に下りると、目を皿のようにして赤ん坊の両親を捜し回った。




下の層はさっきまでの雰囲気と違って、洞窟のようになって威圧感がある。
ピンクの床は薄汚れて黒ずみ、周囲の岩と同化していた。































「いたぞ、あそこだ!!」






























やっと見つけた両親は、魔物に襲われて隅に追いやられていた。
男の人は奥さんを守るように、魔物に立ちはだかっている。































「早く助けなければ!」

「ハティ、下がってて。」

「う、うん。」
































ハリエットを守るように後方に下げると、私達は各々の武器を取り出して構える。







ヴァイシスは何故か、剣を抜こうとしないけどね。
































「あまり大技を出すな!あの人達に当たる!

わかったか、モーゼス、ノーマ!!」






























ウィルは名指しすると、彼らを睨む。































「なんであたし(ワイ)らだけなのっ(んじゃ)!」



























二人の声がハモる。
彼らはお互い様顔を見合わせると同じ扱われ方をされたのが嫌なのか、ガルルと牙を剥くようにした。






































私は皆と離れてご両親の方に向かうと、一本矢を射つ。














ギャッ












羽に刺さるけれどあまり威力がなかったのか、魔物は少し声を上げただけでそのまま飛んでいた。
























「だめね…。」



















…おかしいわ。普通の魔物ならそんなことないのに…

あの矢だって、普通に射っただけじゃないのに効かないなんて…。

















あっ…
















一瞬、魔物から…ご両親から黒い霧が見えた。

あれは黒い霧のせいなの!?やっぱり、魔物が強くなっているんだわ。




































!」

「クロエ!」
































クロエはこちらに走ってくと、くるりと剣を振って、ぴたっと私の隣で止まった。


































、ここから同時に爪術を放つぞ!」

「わかったわ。」




































ここから爪術を放てば、魔物をご両親から引き離せる上に、注意を皆の方に向けられる。

































「あの魔物を、なんとかご両親から引き離さなければいけない。」






























クロエに頷くと、深呼吸する。





















スーッハーッ








































また風を感じる。

今度は声は聞こえない。











風は本当は強くないのに、びゅううと私へ吹く。





































これは、軌道の流れ。


































これに合わせれば、いつもの何倍もの威力が出せるかもしれない。









































「クロエ、合図は私に任せてくれる?」

「ああ、任せる!」

































もう一度、深呼吸する。






あと少し……














……今だわ!









































「クロエ!!」

「ああ!」































「烈火閃!!」
「魔人剣!!」






























私達の爪術は、勢いよく魔物に向かっていく。

その力は向かう最中、どんどん威力を増し強大な力を持つ。




























「ギャオウゥッ!!!」






















ご両親から遠ざけるためだけに放った弱い爪術だったはずなのに、魔物の命奪うまでに至ってしまう。


































…これは…」





























クロエが拍子抜けした顔で私を見た。

そうよね。まさかこんなに威力増大するとは思わなかったし。

































「えと…何はともあれ無事でよかったわ。」

「…ああ、そうだな。」































腑に落ちない顔をしているものの、クロエはそれ以上聞いてはこなかった。

























それにしても、この風を感じるような力は何なのかしら。
























不思議に思うけれど、今以上の事は考えてもわからないものね。

私は諦めると、皆と一緒にご両親の元へ走った。




































「ありがとうございます、皆さん!!」

「助かりました…。」





































              *                  
































彼らはホッとした顔付きで御礼を言ってくる。
…死にたがっていたはずなのに、現金なものだ。








































「ありゃ?助けてほしかったの?」

「自殺するつもりだったのでは?」














































すかさずノーマとジェイの鋭いツッコミが入る。
まあ、二人が言っていることも最もだからな。
































「これで少しは命の大切さが少しは理解できたか?」

「レイナードさん……」


































俺は二人に近づくと、厳しい顔を向けた。
















この二人に何があったのかは分からない。

どんなに苦しいかも分からない。












そこまで俺と年齢が違うわけでもない二人に、俺が教えてやれること。

それは……






























「何があったのかは知らない。話す気がないならそれでもいい。だが、この子の将来を考えてみろ。ここでお前達が死んだらこの子はどうなると思う?」































父親のほうは俺を見上げると、泣きそうな顔で口を歪めた。

































「レイナードさんなら、俺達よりもその子を幸せにしてくれる、そう思ったんだ。」





































俺が他人の子を幸せにする?

……自分の子一人も幸せに出来ない俺がか?






































「ふざけるな!!!

家族が一緒に居ることが、幸せじゃないというのか!?」
























































そうだ、アメリア、ハリエット、ずっと一緒に暮らしたかった。





















































「この子が一人残って、幸せになれると思っているのか?」




















































アメリアの死後、俺はハリエットに声をかけることが出来なかった。

一人にしてしまった。





















































「親は、子に対する責任があるんだ。」













































だから、今度こそ……
















































「そこには、逃げ場など存在しない。」















































俺達は一緒に遺跡船にいるのだから。
















































「この子を授かったときに、それだけの覚悟があったはずだ!!」
















































俺達は、一緒にここに生きているから……!!!


















































「覚悟してたよ!!何があったってこの子だけは絶対に守ってみせるって!!」
































父親は泣き崩れると、地面に膝をつき、拳を振り上げた。
妻の方がその手を止める。


































「…その気持ちを思い出せたなら、何をすべきかわかるだろう?」




































俺は、ハリエットに何をしてやるべきなのか。




































「だけど、今さらこの子も許してなんてくれない。」






























その時、後ろにいたがゆっくりした歩調で歩いてきた。
そして二人の繋がった手を、暖かく包み込む。





































「あなた方は、まだ引き返せる場所にいるのです。

あの子を想う大切な気持ち、思い出したのでしょう?」




































彼女の聖母のような微笑に、両親はホッとしたのか緊張で強張った肩を下ろした。













俺にはできないこともある。
それは、この優しさだ。


















この優しさは、やアメリアが持つ母のような暖かみ。













全ての子に、人に、必要な手だ。











































「私には、あの子が泣いている時にお腹を空かせているのかも、おしめが濡れているのかも分かりませんでした。

でも、あなた方ならわかるでしょう?泣かなくても、見ただけでわかるでしょう?」



































はそう言うと、彼らの手を持ちハリエットの前まで案内した。





































「ハリエット。」

「うん。」





































ハリエットは素直に母親に赤ん坊を渡す。





































「きゃっきゃっ…」






































…初めて、あの赤ん坊が心から笑った気がする。

皆もそう思っているのか、口元に笑みを浮かべて赤ん坊を見ている。






































「ハティが何しても泣き止まなかったのに。」

「…誰が自分を好きでいてくれるか、小さな体でかんじているんだ。

……なんだ?睨みつけて。」




































俺の言葉に矛盾でも感じたのか、ハリエットは俺を凄い形相で睨みつけている。




































「べ、別に睨んでないわよ。ただ、なんかちょっとだけ…。」

「ちょっとだけなんだ?」







































ハリエットはフイと顔を逸らすと、ボソリと何か言った。

しかしそれが俺の耳に届く事は無い。












































「よく聞こえないぞ?」

「なんでもないわよ!」







































そして怒ると、いつものように腕を組んで背を向けた。

















そんな俺達を見て笑うの声。




ふんわりと響く、暖かみのある声。


















、君はどんな力を持っているというんだ?





人を惹きつけるカリスマ性。




それは、持って生まれたものだというのか……?






































……」

「?」

「……その後ろにあるのは」






























突然の後方にあるものが目に入る。
































「後ろ、ですか?」

「ああっ!!!まさかこの魔物にめぐり合えるとは!!!!」



































この後は、何について話したかなんて一つも覚えていない。

ただ、頭の中は倒した魔物の事でいっぱいだったのだ。





































「この毛並み!色艶!実に素晴らしい。出来れば生け捕りにしたかったが体の損傷も少ないし、よしとしよう!

むっ、なんと!舌は丸めてしまうのか!?……確か、雷のモニュメントに亜種が存在しているはずだったな。よし!

今からみんなで行くぞ!」



































次に我に返ったのは、皆の冷たい目との優しい微笑み。

しかしその笑みは、冷たい一言の第一歩だった。








































「ウィル、私たちはこの方達を街に送らなければいけませんから駄目ですよ。」

「この方達とは、誰の事だ?」

「ウィル……」



































この時は、本当に頭が魔物の事でいっぱいだったんだ。弁解させてほしい。



















達はあからさまに溜め息をつくと、赤ん坊を抱いた男女を上の層に行くよう促した。







赤ん坊を抱いた男女……ああ……!!






今さら思い出しても後の祭りだった。

俺は家族が一緒にとかどうの言った割には、最後に失態を犯す。













今回もまた、ハリエットはどう思うのか。






































「……ふふっ……」

「ハリエット?」

「あははははは!」































ハリエットは急に笑い出すと涙で潤んだ目で俺を見上げた。


そして再び笑う。









































「なんか、バカらしくなっちゃった!!

、手をつないでもいい?」

「ええ。」




































ハリエットはの手を掴むと、スキップしながら歩き出した。











何を思って、笑ったのかは分からないが。

これだけは言える。



























































ハリエットも気付いたのだ。






のぬくもりが、アメリアに似ていることを。


















































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赤ん坊編終了☆
ウィル編なのでウィル多目です^^

人数がたくさんいて誰がどこにいるのか分からなくならないで下さいっ!(笑)
次はウィルお休みなので、若い子らでっ。

2006/10/07









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