「おはよう。ワルター君。」
ハティが何で一番最初にを誘いに行ったかって?
それはね、が良いって言ってくれたら、他のみんなも絶対ついてくるからなの。
「どうしても、雷のモニュメントに行きたいの。」
「ハリエット、外は危険なのよ?」
「でも、でもね!」
は顎に手を当てて考え込むと、ワルター君を見た。
「…俺は賛成できん。あのウィルという奴が望むとは思えん。」
「…ええ。
ねぇ、ハリエット。ウィルが言ってた魔物を捕まえて驚かせたいの?」
「ち、違うわよ!!」
「……」
「…………そ、そうよっ…」
やっぱり、には勝てない。
だって紫の目がハティを綺麗に映すの。
それでね、うそをつくと白状しなきゃいけない気持ちになってくるの。
もしかして、セネル君たちもそうだからには弱いのかなぁ?
「お願い。一生のお願いだから!!」
「ハリエット…
…わかったわ。行ってあげる。」
は顔を傾げて優しく微笑む。
…あ、ママみたい。
「ワルターは?」
「俺は水の里に用があるから行かん。」
「そう。じゃあ、他の皆を誘おうか?」
「うん!!……ってね、実はもう誘ったの!」
ちゃんとは誘ってないけど、がいるから絶対来てくれる。
「そうなの?じゃあ、行きましょう。」
はハティの手を取ると、ドアを出た。
そこで気付いたように振り返ると、ワルター君に
「いってらっしゃい。」
と言った。
ワルターくんは青い目に少し戸惑いを見せると、
「出掛けるのは貴様らだろう。」
と言う。
ワルター君の言うとおりなのに。
はくすくす笑うと、ドアを閉めて歩き出す。
「ワルター君、いってらっしゃい言わなかったね。」
「言ったわよ。声を掛けようか迷ってたみたいだから促してあげたの。」
「え?」
「「出掛けるのは貴様らだろう。気をつけろ。」って、私には聞こえるのよ。
だから、それがワルターのいってらっしゃいなの。」
「へーっ。」
って何でも分かっちゃうんだ。
ハティのママみたい……!!
*
「で、ハッち。どーいう風の吹き回しよ?」
ノーマはハティの前に立ちはだかると、腰を曲げてじーっと見てきた。
「!!」
の後ろに隠れてスカートを掴む。
するとが守るようにハティを後ろに隠してくれた。
「ノーマ、他人の心の詮索はよくないわ。」
「チッ…ちゃんを味方につけたか。」
ノーマはぷりぷり怒ると、の後ろに隠れてるハティを睨む。
「どーして睨むの?」
「べっつにー。ま、今回は秘密大作戦てやつでしょ?」
「なっ…違うわよ!!」
ノーマは睨みから一転、ニヤニヤ笑いに変わった。
気色悪いーっ。
「考えなくても分かりますよ。目的はレッサーパピーですよね?」
ジェイ君が横から口を挟む。
……ノーマもジェイ君もいじわるだ。
ハティは二人から顔を逸らすと、ぷぅーっとほっぺたを膨らませた。
「それにしても腑に落ちないのがさんです。あなたなら真っ先にこういうことを反対するはずなのに。」
え、そうなの?
は優しいから絶対大丈夫って思ったから…。
を見上げると、いつもみたいに微笑んで
「そうね。」
と言った。
「では、何故こういうことになったんです?」
はハティの手を優しく握ると、
「私もウィルに喜んで欲しいからかしら。」
と言う。
……もハティと同じなんだ―――!!
ハティは胸がぽかぽかして、とっても嬉しくなった。
「ところでジェイ。」
は突然ハティとは反対の手でジェイ君の手を握った。
「な…なんですかっ!」
ジェイ君は焦ると手を離そうともがいている。
…どうしたのかしら?
「私と手を繋いで歩きましょう。」
「な…なんでですかっ!!」
「仲良く歩くためにです。ねぇ、ハティ?」
はにっこり微笑む。
ハティはつられて笑い返すと、
「うん。」
と返事した。
「ハリエットさんまで!!!」
ジェイ君は観念したのか、もがくのをやめる。
そこにモーゼス君とヴァイシス君が群がってきた。
「ジェー坊、ずるいのう。」
「本当だよ!、俺も!!」
そして避難するようにジェイ君の手を引っ張る。
「じゃあ、ヴァイシスはハリエットのもう片方の手ね。」
「しょうがないなぁ。」
「しょうがないってなによ!」
ハティが怒るとヴァイシス君は謝って手を繋いでくる。
「モーゼスはジェイの……」
「お断りです!」
が言い終わる前にジェイ君が大声で拒絶した。
モーゼス君は肩を落とすとふらふらと前にいっちゃう。
あれじゃと手を繋ぎたかったんだか、ジェイ君と繋ぎたかったんだかわかんないわ。
「ヴァイシス君の手、暖かいね。」
「そう?」
「うん。」
ヴァイシス君の手の温もりに気付いて呟くと、にぱっと笑ってくれる。
うん。の手に負けないくらい暖かいよ。
「…ジェイの手も暖かいわ。」
「……そうですか?」
「ええ。まるで……」
はフウと溜め息をつく。
ジェイ君は心配そうに顔を覗いた。
「まるで?」
そして次の言葉を促す。
「まるで、ヴァーツラフ兄様みたい。」
『!!!』
他のみんなの空気がガラリと変わる。
ノーマとクロエが口に手を当て、「やっちゃった」みたいな顔でを見た。
…ヴァーツラフ?どっかで聞いた事ある名前だけど、誰だったっけ?
「はぁ、一緒にしないで下さいよ。」
「ふふ、ごめんなさいね。」
周りの空気に気付いてない二人。
完全に二人の世界だ。
ハティはそんなの手を引っ張ると、
「ほら、。早くいくわよ?」
と言う。
「あ、ごめんなさい。行きましょ。」
はハティとジェイ君を引っ張るように歩き出した。
「手、離してくれないんですか?」
「いいじゃない。」
「……いいですけど。」
ジェイ君は嫌なのか嫌じゃないのか分からない態度で、の手を握り返していた。
*
ある程度進むと、僕達は休憩をとることにしました。
ここは前に一度来た事があるので、進むには難がなく、また魔物も今回は出てこないので苦労せずにレッサーパピーを捕まえられそうです。
さんはここまで来るのに一度も僕の手を離さず、ずっと繋いだままでした。
その所為でモーゼスさんやセネルさんに睨みつけられ、本当に嫌な気分ですよ。
でも、あなたの手は暖かかった。
「そーいえばさーイシー、ジェージェーがちゃんと手を繋いでも怒んなかったね。」
そうですね。
本当なら今頃、僕に一番殺気を向けているはずの人なのに。
「ああ、ジェイはいいんだ。」
「へ?」
「ジェイは俺が認めた男だからだよ。」
「ええっ!!」
ノーマさんは大げさに驚くと、ヴァイシスさんと僕を交互に見る。
「い、いつからそんな仲に?」
「やだなあ。俺とジェイは恋人なんかじゃないよ。」
「…そんな事聞いてないんだけど?」
「っはー、そうだよね。
ジェイならさ、のこと守ってくれそうだから。
ジェイなら俺、許せる。」
ヴァイシスさんはしみじみそう言うと笑った。
…僕はいつの間にこんなに気に入られたんだろう?
「だそうですけどー、ちゃん。」
「ふふ、そうねぇ。ジェイなら私を大事にしてくれそうね。」
「お、脈アリか!?」
「うふふ。」
……うまく誤魔化してますね。
分かってますよ。
さんは僕達3人や、ウィルさん、ワルターさんは眼中にないんだ。
自分の事で精一杯なんですから。
「ちゃんの誤魔化し入ったー。つまんなーい。
ところでハッち、聞きたい事あんだけどさ。
あたしのこと嫌い?」
「うん。嫌い。」
「なんだとー、こらー!」
すぐ隣でノーマさんとハリエットさんが言い合いをするのを聞き流しながら、僕はさんに喋りかけた。
「あなたは、何を求めているんですか?」
「え?何のこと?」
「何か、自分の事で探しているじゃないですか。」
「え……ええ。」
「自分の正体ですか?」
さんは一瞬驚いた顔になると、すぐその顔を崩して悲しく微笑んだ。
「ジェイは何でも分かってしまうのですね。」
「情報屋ですからね。情報は仕入れないと流せないですし。」
「流してしまうの?」
「……流さないで一生自分の中にとどめておく事もありますよ。」
「ふふ、ありがとう。」
さんは他の人達がノーマさんとハリエットさんの言い合いに夢中になっているのを見届けると、大きな深呼吸をして僕に向き直る。
「私、どうやら世界を見守る者らしいのです。」
「世界を見守る者……?」
僕の聞いた事の無い言葉が出てきて、何だか苛立ちを隠せなかった。
この世界には、僕の知らないことはまだたくさんあるんだ。
そう思うと、さんの力になれないような気がして、苛立ったんだ。
******************
ジェイひいきになってきた……!!(笑)
ハリエットのお喋りは難しいです。
2006/10/08
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