「世界を見守る者とは、一体何なんですか?」


























恐る恐る聞いた。

さんが僕の言動の一つ一つに拒否反応を示さないように、あなたが全てを話してくれるように願いながら。


































「…実は、私もよくわからないのです。」

「え……。」


































部屋の隅で小さな雷鳴が起こり、それに肩が震える。

そんな在り来りだけど僕にそぐわない行動に羞恥心を覚えると、隠すように頭を振った。




そして真っ直ぐ彼女を見ると、瞳を捕らえる。






















嘘は言ってない。本当に知らないんだ。


















本人が言った言葉をまともに受けられない自分を憾む。

しかしそんな風な幼少を過ごして来たのだから、我ながら仕方ないと諦めるしかなかった。






































「ではその言葉、どこから来たんですか?」

「それは……」





































さんは黙ると一瞬、目を泳がせた。
今度は何か嘘をつこうとしているに違いない。


















でも、僕はあなたに本当の事を言えと強制できない。
あなたの家族でもないし、恋人でもない。






大切な仲間であると同時に、ただの仲間でしかないんだ。






































「言いたくなかったらいいです。」

「ごめんなさい、ジェイ。」



































彼女は瞼を閉じていつものように謝った。





































「いえ、それであなたはその世界を見守る者という意味を探していると。」

「はい。」




































さんはにっこり笑うと、左肩に乗った三つ編みを意味もなく触る。






































「私、自分が何者か知りたいのです。

ただのクルザンドの王女ではないと知った時から、私は私ではなくなった気がします。」





































彼女は三つ編みを愛おしそうに撫でると、小さく溜め息をついた。








































「そうですね…。…これは僕の推測ですが、

もしあなたの世界を見守る者としての義務が、この世に生を受ける前に決まっていたとしたならば、あなたのお兄さんの事件は偶然本人が考えたものではなく、誰がに必然的に起こさせられたものではないのかと……」






































夢中になって話していると、さんの変化に気付く。

































しまった。

僕は何ということを言ってしまったのか。

































今のさんには、お兄さんの事は禁句だったのかもしれない。








































さ……」




































彼女の肩に手を添えようとしけど、ノーマさんの声に止められてしまう。






































「ジェージェーがちゃん泣かしてる。」

「何っ?」





































それに反応してヴァイシスさんが僕を睨む。




































「あ…えーと」




































吃るとますます不利になるのはわかっているのに、吃るしかなかった。







僕がさんを泣かしたのは、事実なんですから。













































「違うの。目にゴミが入っちゃって。」





































さんは僕を庇うように目を擦って笑った。



















どうしてこんなに優しく出来るんだろう。





自分で精一杯なはずなのに、自分よりも他人ばかり優先して…。





辛い思いをするのはさんなのに。





































「…僕が、泣かせたんです。」





































僕は立ち上がって呟くと、ポケットに手を突っ込んでドアを開けた。























皆に見せる顔がなく、ポーカーフェイスなはずの不可視のジェイがこんな悔しい顔をしていると見られたくなくて、僕は皆を置いて部屋を出る。




































こんなに、一人の人を想うなんてことはないと思ってた。


僕が…さんを大切に…






































「ジェイ!!」

さん…?」





































袖をクイと掴まれて振り向くと、近くにはさんの綺麗な顔があった。
赤くなりそうな熱を押さえて、彼女の瞳を見上げる。



































「さっきのジェイの話、そうかもしれないと思いました。

兄様がああなったのも、ううん…兄様がああなる原因であるクルザンドが軍事国家にならなければいけない貧しい国だったことも、ある一つの出来事を起こさせるために誰かに作られた事の一つに過ぎないのではないかと思うのです。

こんな…悲しいことはないですけれども、兄様も私達も誰がの一つの駒に過ぎないのではないかと。」


「そうすると、その出来事は神懸かり的なものになりますね。僕達人間を動かせるなんて、人間以外に神しかいないじゃないですか。」


「神……。そうかもしれないわね。」


































さんは何か思い出したのか、瞳を横に逸らした。

僕はそれに気付かないフリをすると、話を続ける。




































「神まで関わってくるとなると、さんはこの世界の大切な鍵を握る人物となりますね。」


「え…」


「神懸かりな出来事に関係する世界を見守る者。それはすなわちこの世界を見届けるということ。

あなたは生きて最後まで見なければいけないんですよ。この世界を、ここに生きている僕達を。」






































「ジェイ…」


「僕はあなたを守れるなら、誰かの一つの駒でもかまわない。

それでもいい。僕は、命をかけてさんを守ります。」




































言い終わると、胸がすっきりした気がした。
















さんがなんと思おうとも、僕の気持ちは伝えた。





僕は、僕のやり方であなたを守りますから。













僕の決心を余所に、さんは拳を握ってわなわな震えると怒った目で僕を見つめた。

紫の瞳がいつもより濃くなって、美しい。






































「ジェイ!そんな命をかけるなんてこと、言わないで。

私は誰かに命を賭けて守られるほど、そんなに大切な人間ではないわ。」




































…あなたは本当にわかってない。



あなたが世界を見守る者だろうがそうじゃなかろうが、命を賭けるに値する人なのに。





































「……わかりました。今の言葉はなかったことにしてください。」


「ええ。聞かなかったことにするわ。」


































さんは機嫌を直すと、にっこり笑った。




































                 *








































とジェイを追い掛けて、俺達は雷のモニュメントの最深部まで入った。




















二人は、周りがノーマとハリエットの言い合いを見て笑ってる中、何かを真剣に話し合っていたんだ。


残念ながら俺には聞こえなかったけれども、きっとにとって重要な事だってわかった。

















は緊張して話を聞くとき、自分の髪の毛を触る癖があるんだ。
































…俺はもう、の中には入れない位置にいるんだ。


















そう思うと悲しかった。


















には、この遺跡船で一生に何度起こるかわからないくらいの出来事が一度に起こったんだ。

そしてそれは今だの元で起こり、あいつを悲しませてる。




















悔しいけど、俺には何にも出来ない。



















俺の知ってるは、もう遠い昔のクルザンドの王女だった頃だけなんだ。








































「ヴァイシス君、とジェイ君が見つかっ……

ああーーーーーーっ!!!」



































俺に声を掛けたはずのハリエットは、恐ろしいほどデカイ声で叫んだ。






































「な、なんだい?」

「いるの…レッサーパピーがあそこにいるの!!」




































ハリエットが指差した方向には、確かにこの前の魔物に似た小さな魔物がふよふよ飛んでいた。



それもとジェイのすぐ後ろに。





































、ジェイ、後ろにレッサーパピーがいるよ!」

「えっ…?」
「どこですか!?」



































二人はわたわた焦る。
するとが階段から足を踏み外した。































「キャッ!」

さん!!」



































間一髪、ジェイの腕がの腰を巻いた。










































「ありがとう、ジェイ。」

「いえ…。」
































二人はお互い微笑むと、レッサーパピーを探し出す。












…ちぇ、いい感じだよ。










まあ、ジェイならいっか。
あの金髪でさえなければね。











































「ちょっとヴァイシス君、ぼさっとしてないで捕まえてよ!!」

「わかったよ、ハリエット。」




































俺は階段を上がって、レッサーパピーを部屋の奥へ奥へと追い詰めた。










































「さ、ハリエット。最後は自分で捕まえるだろう?」

「うん!!任せて♪」


































ハリエットはそろりそろりとレッサーパピーに近づいていくと、ガバと両手を広げた。











































「やったーっ!!」





































そして見事捕まえると、俺達に見せびらかすようにレッサーパピーを見せてくれる。








































「見て、ヴァイシス君!!」

「やったね、ハリエット!」

「うん!!」





































ハリエットの嬉しそうな顔を見てると、俺も嬉しくなるよ。

胸が暖かくなるのを感じながら、ずっとハリエットを見ていた。







































「あ、ちょっと暴れないでよ。」


































しばらく経つと、捕まえたレッサーパピーが暴れたのかハリエットは苦戦しだす。

もごもごと暴れるレッサーパピーをぎゅっと抱きしめてるけど、もっと暴れだしたみたいだ。






































「ああっ…」

































ハリエットの驚いた声が聞こえて目を凝らすと、彼女の頭についていた花飾りが取れてしまったのが見えた。

それを拾おうと、ハリエットはレッサーパピーを押さえつけながら手を伸ばす。
































その時、



































「シギャー!!!!」
































突然ハリエットの後ろから大きな魔物が現れた。






























「!!」


























ハリエットが危ない!!


そう思うと、体が勝手に飛び出したんだ。

































































ガッ……



















































「ヴァイシス!!!」





























の声が聞こえる。

遠のきそうになった意識を引き戻すと、俺はハリエットを抱きしめている手を緩めた。




























「あ…あ…」































彼女は恐怖からか、まともに声が出せないみたいだった。








































「無事みたいだね。」



































額が痛いし、片目が血で滲んで開かない。

ハリエットを抱いて飛びのく時にしくじったみたいだ。








彼女を自分の後ろにちゃんと立たせると、俺は魔物を見据えた。


片目でちゃんと倒せるか分からないけど、やるしかないよね。












































「俺にこんな傷負わせた事を、後悔させてあげるよ!!」







































俺はスラリと剣を抜いた。






















剣を持つ右手はアーツ系爪術。

持たない左手はブレス系爪術。

























両方の手に力を込めると、魔物に突きつけるように構える。














































「吼えよ古の炎、不浄の生命を灰塵へといざなえ…

我が剣に孤高たる力を!!」










































「アレって、エンシェントノヴァの詠唱じゃん!!」















ノーマの声が聞こえる。














さん、ヴァイシスさんは一体…?」

「私も、わからないわ…」













そう。

この力はにも見せた事が無いんだ。



































「エンシェントノヴァ!!」































爪術を唱えると、古の炎は剣に力を注いでいく。






































「何あれ!!すご!」

「おいノーマ、静かにしてろ!!」




































炎が全て注ぎ終わるのも一瞬。





俺は両手で剣を持った。










































「驟雨虎牙破斬!!!」







































そして魔物に突っ込むと、技を繰り出す。




































魔物は炎の剣に突かれながら上下に切り裂かれ、身を焼かれる思いで死んでいっただろうね。




































































































「ハリエット、大丈夫かい?」

「…ハティは大丈夫だけど…花飾りが…」






























俺は開けられないほうの目を押さえながらハリエットの手の中を見た。

そこには大切な母の形見だと言っていた花飾りの破片。





































「帰ったら、直してみような?」

「……」

「ハリエット…」


































ハリエットは泣かないように唇を固く結んで俯いた。





今は何を言っても駄目かもしれない。


































「ヴァイシス!!あなた無茶して…!!」

「でも、こうでもしないとハリエットを失ってたよ。」

「そうだけれど…」

「それよりさ、あの技見た?」
































嬉しそうに聞いてもの顔は心配顔のままだ。








































「それについては、あとでじっくり聞いてあげるから。

早くここから出ましょう?」

「それがいいですね。

ヴァイシスさん、クルザンドの次期王の力、とくと拝見させていただきましたよ。」

「お、ジェイは分かってるねー。」



































俺達の悪ふざけを、は冷たい目で一掃した。





































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ジェイひいきと、ヴァイシスの一世一代?の(最初で最後の?)見せ場です(笑)
こんな事出来ても良いかなって混合技出してみました♪
え、やりすぎ?
そんなことないない、ないですよー☆

次回はウィルに怒られる話です^^

2006/10/10





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