ガコン…











ウイィィン……



























昇降装置がゆっくりあがっていく。



















帰りは皆終始無言で、沈んでいるハリエットを気遣っているようだった。

その雰囲気を打破しようと、ヴァイシスは話にのってくれそうなモーゼスに喋りかける。



































「なあ、モーゼス。」

「なんじゃ?」

「これも過去の産物なんだよね?遺跡船て、本当に素晴らしいと思わないかい?」



































ヴァイシスの言葉に、モーゼスは不理解な顔を示すと一言





































「オウ、そうじゃな!」

































と言った。





















明らかに適当に答えたような返事をヴァイシスは意味ありげにうんうんと頷く。

ノーマとジェイが呆れ顔でモーゼスを見て、彼は「なんじゃ!」と怒り、ヴァイシスは傷が痛いにも関わらずその光景に大笑いした。














































泣くのを唇を一文字にして耐えるハリエットは、無意識での手を求め、彼女が優しく応えてくれると更に唇を固く絞って出そうになる涙に耐えていた。



彼女は、自分の手の中にある花飾りの破片を握り締めごろごろと転がして、なんとも言えない悲しみに襲われるのだった。





















昇降装置を降り灯台の入口にが見えると、はそこに一つの影を見つける。







それはあまりにも大きな影だったので、何かの魔物が入って来てしまったのではないかと内心焦る。

しかし、目を懲らすとウィルの影だということに気付いた。






彼女はハリエットの小さな手を握り締めると、助けを求めるようにセネルの姿を探した。






































「セネル…」

「どうした、。」

「あそこに、ウィルが…」

「え……」


































の指した方を見ると、確かにウィルの姿が見える。
彼は頭に手をついてやっちまった、という顔をすると、困った顔でを見た。




































「どうしよう…」

「そうだな…。」




































彼らが立ち止まると、自然に後ろを歩いている他の仲間達も止まる。




































「どったのー?

って、あそこに見えるはウィルっちじゃん!!」

「え、レイナードがいるのか!?」







































気付いたノーマの後ろで、クロエが驚いた声を上げる。
すると、その横を歩いていたグリューネが










































「ウィルちゃ〜〜んっ!」









































と大手を振って呼んだ。








































「ちょっとグー姉さん、何呼んでんの!」

「あら、だってウィルちゃんだけ仲間外れにしちゃったでしょぉ〜?」

「違うだろ!」




































グリューネの言葉に、ノーマはすかさず突っ込んだ。
























ウィルはグリューネの声で皆に気付いたのか、ゆったりした足取りでこちらに向かって来る。







グリューネとジェイ以外の皆は慌てると、どうにかハリエットを隠そうとする。

しかし冷静になって考えると、それがウィルにとってどんなに無駄なことかわかったのかあたふたするのをやめた。
























…雷のモニュメントの最深まで行ったから、遅くなってしまったものね。



















空は暗く、もう随分と星が光っている。
周囲には人一人おらず、近くにあるモーゼスの山賊達のテントから、チャバ特製のスープの香りが漂っていて、こんな緊迫感がある雰囲気なのに、皆のお腹は激しい音を立てて鳴りそうだった。



























…ウィルが心配するのも無理ないわ。
























はこう考えると、怒られるのを覚悟でハリエットの手を握ったまま進み出た。

ハリエットは無言でウィルを見ている。




その目は虚ろで、悲しみを湛えていた。
































「ハリエット、謝りましょう?」

「……いや。」

「ハリエット…」

































は困ると、再びセネルの顔を見る。
セネルは両手を投げ出すと、どうしようもないという所作を示した。





































「やはり、街の外に行っていたのか。」




































ウィルは静かな声で言った。




































「す、すまない。勝手にハリエットを連れ出して。どこに行くにしろ、レイナードを通すべきだった。」





































クロエのこの言葉で、皆の言い訳の方針は決まったも当然だった。

は一瞬そんな態度に嫌悪感を示したが、もう引き返せる状況じゃない。






































「私達が勝手に連れ出してしまって…」

「そうじゃ、おチビちゃんは関係ないんじゃ!」




































必死に言い訳している仲間達を見て、ウィルは悲しそうな溜め息をついた。








はその姿を見て、ウィルは本当のことをわかってしまっていると気付く。

それと同時に自分の中に罪悪感が溢れるのにも気付き、胸がツンと苦しくなった。






































「お前達は街の外が危険なのを知っている。だからおいそれと子供を連れ出したりはしないだろう。」

「それが…そうでもないんだなー。」


































ウィルはノーマの声を無視すると、の方を見た。

彼女はそれにビクと体を震わすと、恐る恐るウィルの顔を見上げる。




































、君がいたにも関わらずどうしてこういうことになったんだ?」」





































はびっくりすると、ウィルの顔を穴が空きそうな程見つめた。












































まさか、こんなこと言われるなんて思わなかった。













































の率直な感想である。

ハリエットの行動を最初に肯定したのは自分だし、私に非があるのはわかるけれど……















そんなを思ってか、セネルが彼女の前に出てウィルに噛み付く。












































「ウィル、なんでそんなことに言うんだよ!」

「……」




































ウィルは少したじろぐと、自分でも何故そんな事を言ったのかわからないという顔をした。

しかし、仲間達に湧いた疑問は治まらない。





































「ウィルっち、ちゃんはハッちのお母さんじゃないんだよ?」

「そうです!さんだってハティのことを想って…」

「静かにしろ!!」
































ウィルの怒声にノーマとシャーリィはビクンと身を震わせると、恐々口を閉じた。
彼は言葉を続ける。




































はお前達と違って、精神がずっと大人だ!だから今回のことも……」




































ウィルの言葉に、ジェイはカッとなって叫びそうになった。





















さんがそれで傷ついてることに気付いているのは、ウィルさんも同じな筈なのに!






こんなの…ウィルさんらしくない。












































「そ……」
「ふざけるな!!!」



































ジェイが訴えようとしたとき、横からヴァイシスが遮った。






彼を見ると、目を見開き体をワナワナ震わせている。

あまりの勢いに傷からまた血が溢れ出しそうだった。






































の精神が大人だって!?

精神が大人だっては、17歳の女の子なんだ!!



どこにでもいる…女の子なんだ。

ノーマとも、シャーリィとも、クロエ殿とも変わらない……」



































ヴァイシスはそこまで言うと、ウィルから顔を逸らした。















































ヴァイシス……。
















は、感謝したい気持ちで胸がいっぱいになった。

昔から言われてきた言葉に、それにずっと耐えてきた自分に、救いの手を差し伸べてもらった気がした。



















救ってくれる人がこんなに近くにいただなんて、思ってもみなかったわ。

















は優しい視線をヴァイシスに送る。

すると、彼の後ろからジェイが出てきてウィルを見上げる。






































「ウィルさん、こんなのはあなたらしくないですよ?」





































ジェイは出来るだけ怒りを抑えた静かな声で言った。





































「………」


































ウィルは無言でジェイを見つめると、肩を落とした。
そして、



































「ヴァイシス、その傷はどうしたんだ?」































と聞く。

ヴァイシスはしまった、という顔をするとジェイの後ろに隠れようとした。
しかし体格が全然違うため隠れきれない。




































「ウィルさん、今はそんな話をしてわけじゃ…!!」

「キュア」

































ウィルはジェイを横にどかすと、ヴァイシスの顔に爪術を掛けた。
ヴァイシスの額の傷は、見る見るよくなっていく。
































「全部は治らんか。」
































しかし傷は残り、まだ痛々しい状態だった。




































「その傷の原因はハリエットか?」



































ヴァイシスは首をブンブン横に振ると、再びジェイの後ろに隠れた。
ジェイはポーカーフェイスを気取りながら、ウィルを見上げている。




































「……当たりか……。」







































ウィルはハリエットを見た。

彼女は父の視線に体を震わせると、強くの手を握った。



































「お前の所為で、仲間が怪我をした。

この責任をどう取るつもりだ?」


































握られる手は、どんどん強くなっていく。
今にも泣きそうなハリエットの顔を見ると、はいても立ってもいられなくなった。





































「ウィル、これには理由が……!!」

「黙っていろ、!」

「っ……」












































「これがお前の身勝手な結果だ。皆がお前の所為で迷惑する。」

「…ハティはただ……」

「皆がお前の所為で危険な目にあった。

負わなくていい怪我を負った。」









































ウィルの口調が強くなっていく。
自身でも彼を恐いと思うほどなのに、ハリエットは一人で涙を耐えている。






ハリエットは突然の手を離すと、もう片方の手の中にある花飾りの破片を握り締めた。







































「ハリエット…?」






























「ハティはただ、花飾りをなくしたくなかったから…それに……」







































ウィルはハリエットの言葉に目を見開いた。

その茶色い瞳には、悲しみがかった怒りが見える。
彼はその色を抑えて、ハリエットを静かに見下ろした。


































「花飾りだと…?

そんなもののために俺の大切な仲間を危険に晒したのか!」

































ハリエットも彼と同じ瞳で、彼を睨み上げる。
はそれに危険を感じ、ハリエットの胸を抱きしめた。















































「離して、!!

これは、そんなものなんかじゃないの!!」





































ハリエットは彼女の腕を振り切ろうとする。
抑えていないと今にもウィルに飛び掛って行きそうだ。







































「何が大切な仲間よ!ふざけないで!

ハティにだって、大切なものがあるんだから!!」






































ハリエットはの手を振り切ろうと、まだもがき続ける。
その小さな体は怒りに震え、瞳には悲しみの涙が見える。




































「どうせ、ハティの大切なものなんて、あんたにはどうでもいいのよ。

バカ!!あんたなんて死んじゃえ!!!」






































ハリエットの言葉の勢いは、とどまる事を知らない。

まだ人の死を捉えきれていない子供の言葉は、大人のどんなに醜い言葉よりも人を傷つける力を持っている。


































……ハリエット、やめて!!!






























は心の中で叫んだ。

口に出して叫びたかったが、口から音として紡ぎだす事は出来なかった。
































私も、大人になりかけた子供だから…

ウィルの気持ちも、ハリエットの気持ちも、分かってしまう…。







































だからどうすればいいかわからないの。


















誰か、この悲しい争いを止めて……!!!





































は心の中で切に願った。



























































胸は何かに堰き止められた様に苦しさでいっぱいだった。






腕は何も出来ない自分への怒りで、激しく震えていた。






























紫色の瞳は、世界に悲しみが覆いかぶさったかのように、雫でいっぱいになる。






































































「ママじゃなくて、あんたが死ねばよかったのよ!!!」






























































その時、全ての時間が止まったようだった。







































仲間達はハリエットの言葉に衝撃を受け、少し開いた唇をそのまま、瞳は彼女とウィルを捕えていた。









はハリエットの胸から力なく腕を落とすと、起きてしまった出来事に自分の不甲斐なさを知る。









愛しい娘に、彼女の気持ちを言われたウィルは、無表情でハリエットを見つめている。























その言葉を紡いだハリエットは、目の中に小さな炎を燃え滾らせたまま、その場を走り出した。





































































しばらく誰も何も言えず立ち尽くしたままだったが、ヴァイシスとシャーリィはハッと気付くとハリエットを追いかけていく。








はずっとハリエットが走って行った方を見ていたが、ふとウィルを見上げた。








































「…なんで、君が泣いているんだ…?」

「え……?」

が、言われたわけではないだろう?」

「ウィル……」





































ウィルはいつから私の事を「君」だなんて呼ぶようになったのだろう?

この涙は、一体なんのために流れるのだろう?

























自分のことなのに、には分からない事だらけだった。






















































「…俺の心を写しているとでも言うのか…?」




























































ウィルの言葉に、は更に涙が溢れた。




























































この後、遺跡船は土砂降りの雨になった。

































の涙を流すように、

ウィルの心を隠すように。

































この雨で、何もかも悲しい事が流れてしまえばいいのに。































は泣いている空を仰いで、呟いた。







































***********************

娘にあんな事言われたらどんなに悲しいことだろう。
ずっと育ててきた親ならなおさら悲しいけれど、
自分の手で育ててこれなかったウィルは、
悲しみだけではなく罪悪感まで感じてしまうのではな
いでしょうか。


2006/10/11






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