「いてっ……

痛いよ、。」



































ヴァイシスはそう言うと、私の手を払おうとした。

































「男の子なんだから、我慢なさい。」




































そう言うと、ヴァイシスは怒ったように手を上げて、前後に振った。









































「俺はもう魅力的な男性だいっ!」

「そういうとこがまだ男の子なのよ。」



































溜め息ついて言うと、ヴァイシスの手の振りが激しくなった。




































階段を降りる音がしてそちらを振り向くと、シャーリィが沈んだ面持ちで立っていた。
彼女は小さく鼻で溜め息をつくと、私達がいるソファーに座った。




































「ハリエットは……だめだったみたいね。」

「はい。喚いてて、私の話も聞いてくれません。」

「そう…。」






































私は薬袋から塗り薬を出し蓋を開けて取ると、ヴァイシスの額に塗ったくった。




































「いってーーー!!!」




























彼はあまりの痛さからか、せっかく塗ったくった薬をどうにか取ろうとしたので、私は両腕を掴んで耐えざるを得ない状況にしてあげた。




































〜!」

「だーめっ。」

「くぅ〜っ」






























彼は諦めると、手を握りしめて耐える体勢に入る。










































「それにしても、ハリエット大丈夫かしら。」

「いつも喧嘩してても、こんな喧嘩なかったからな。」






































セネルは窓の外を見て言った。

窓の外は大雨で、帰宅の気持ちを億劫にさせる。





































「ウィルも、大丈夫かな…。」

































セネルはそう呟くと、悔しそうな顔をした。

















きっと、私が彼らのために何か出来ないのが悔しいのと同じくらい、セネルもそう感じてるんだろうな…。































「そうね…。」

























私は頷くと、薬を袋の中に片付けて帰宅の用意をした。






































「さて、帰ろうかしら。」

「えっ…帰っちゃうの?」



































ヴァイシスが淋しそうに言う。
瞳をうるうるさせて、捨てられた子犬みたいな顔付きをしている。



































「ええ。」

「あの金髪が怪我した時は一緒に住んだのに、俺はほったらかしなわけ?」





































ヴァイシスは膨れっ面に変化した。私は呆れると、彼の頭をぽんぽんと叩いた。






































「あなたの傷は、ウィルの御蔭で殆ど治ってるのよ。だから看病しなくても大丈夫。」

「フンッ。

本当はあの金髪に早く会いたいんだろ?知ってるんだ、は面食いだからな。昔だって…」

「面食いなのか?」



































ヴァイシスのくどくど話にセネルが水を差す。




































「そうだよ。

セネルもいけるんじゃない?そのためには、一番近くにいる美形を消さないと…」

「…そうだな…。」


































もう、本気にしてるし…。







!!






…隣でシャーリィがセネルを睨んでる。

































「何言ってるのっ!」





























私は声を張り上げて二人を窘めると、ソファーから立ち上がった。


それと同時に、ドアが叩かれる音がする。





































「こんな時間に誰でしょうか?」


































もう空も暗く、子供が寝るような時間。
そんな時間に誰かの家を訪ねる人はそうそういない。


シャーリィは不思議がりながらドアを開けた。


































「あ…」






























彼女の開けたドアから顔を出したのは、今話題に上がっていたワルター。
シャーリィが嬉しそうにする中、セネルとヴァイシスは顔を見合わせると、苦虫を噛み潰した顔をした。




































「…遅いから迎えに来た。」

「あ、ありがとう。」




































じとっとして、何だか最高に嫌な雰囲気。

二人は何故そんなにワルターが嫌いなのかしら…。









































「お兄ちゃんとヴァイシスさん、それとワルターさんの間に火花が見えますよ?」



































シャーリィは私の耳元で囁いた。
私が困った顔をすると、シャーリィは「原因に気付いてないんですか?」と言う。












…原因って、何なのかしら??










私がもっと困った顔をすると、シャーリィは「さんは鈍感過ぎです!」と怒った。






































「良い機会が廻って来たようだよ、セネル。」

「ああ、ヴァイシス。ここで一気に…」








































もうっ、何を一気になのかしら!












私は危険?を察知すると急いで薬袋を掴み、ワルターのもとに駆け寄った。










































「さあ、行きましょうワルター。」

「……ああ。」







































ワルターは二人を一睨みすると、私を外に押し出して自分も出る。

閉めた扉の向こうから、二人のブーイングらしきものが聞こえた気がした。
























































ワルターは珍しく傘を持っていて、(迎えに来た割には一本しか持っていなかったけれども)私達はそれに入って歩いて帰った。







































「ワルターの用は、問題なく終わった?」

「……ああ。」

「どんな用だったの。」

「言いたくない。」

「そう、変わったことはあった?」

「……。」




































毎度のことだけれど、ワルター自身の事を聞こうとすると、ちゃんとした会話にはならなかった。
私は彼の近況を聞くのをやめると、自分の近況を話すことにする。


































「ウィルとハリエットがね、大変なの。」

「……」


































ワルターは答えない。でも私はお構いなく続ける









































「それでね、ウィルがおかしいのよ。私の事、いきなり『君』って呼ぶようになったり、私がハリエットの行動を止めるのを当たり前に思ってるような口調だったり…」

「……」

「前はそんなことなかったのに、どうしてだと思う?」






































ワルターは急に立ち止まった。

私の足は動いていたから、彼に急に立ち止まられて傘からはみ出て濡れてしまう。


































「ワルター?」































傘の中に体を引っ込ませると、私は彼を見上げた。



ワルターは少し考え込むと、こう言った。

































を、親しく感じ、頼っているからではないのか?」

「え…?」






























今日、急に…?
































私はびっくりしてワルターを見返してしまう。

彼はそんな私に間違えた答えを与えたかのように少しうろたえると、









「一つの仮定だ。」







と言った。

























ワルターも最近、前よりつんつんした行動が少なくなって、寧ろ少し可愛いげのある行動をしてくれるようになった。

私はそんな変化に喜びを感じながら、傘を持つ彼の手に自分の手を添えた。





































「ワルターは、そう思うの?」

「ああ。最近のあの男は、前より貴様を求めるようになった。」

「…なんでそんなことわかるの?

…もしかしてワルターって…」

「な…なんだ?」

「ウィル好き?」



































私は無言で彼に軽く殴られると、歩き出した彼に遅れを取らないよう、歩幅を大きく足を踏み出した。



































「貴様は、あの男が今日急にそうなったと本気で思っているのか?」

「え…だって…」

「よく考えてみるのだな。

相変わらず鈍感な奴だ。」




































ワルターはそう言うと、無言になってしまった。

































ワルターは何を知ってるいうの?
























私はよくよくウィルのことを思い出してみた。

























…彼は今日、急にじゃなかった?



いつから?






私…何をしたのかしら…?

























































あ。




















































思えば少し前、ウィルを慰めに行った私を、逆に慰めてもらってしまったことがあったわ。







その時確か、ウィルはヴァーツラフ兄様の代わりに兄になってくれるって…!!

遺跡船ではウィルが私の兄になってくれるって言ったんだわ。






それから彼は、いつも以上に私に優しくしてくれて…。
































私は思い出すと、両手で顔を覆った。






































「やだ、私ばかみたい。」

「…?」




































ウィルの気持ち、忘れちゃうなんて。

あの時吐いた、私の弱音のせいでウィルはあんなに私を妹として、家族として見てくれて、












守ってくれたり、






頼ってくれたり、










してたのに!!








































目の前にはもう、宿屋の入口があった。

でもここには、まだ帰れない。







































「ワルター、先に行ってて。」

「…わかった。

これを持って行け。」







































ワルターは刺していた傘を手渡してくれると、背を向けて宿屋に入って行った。







































私は傘を前に構えて雨に負けないように一目散に走り出す。







































私が今向かうべきなのはウィルの家。























私が、ウィルを……兄を助けなきゃいけないんだわ。


































****************

鈍感というか、忘れん坊というか(笑)

ついこの間の事なのに、やっぱり自分の事で
精一杯になっちゃてるヒロイン。

やっとウィルの気持ちの揺れに気付きました。


2006/10/13









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