「おい。」





















ふんわりした夢心地の中、男の人の声が頭に響いた。














でも眠くてしょうがない私は、それを無視するとそのまま眠り続ける。

だって、ほんのり暖かい日が足の辺りに当たって、毛布をかけているくらい気持ち良いのだもの。













うつ伏せになって、腕枕してくーすか眠る。




ほっぺたが腕にくっついて、ぽよよんと揺れた。
そこの髪の毛も混じって、私の眠りは渦を巻いてく。
































はぅ、幸せ。

































そう思えることがどんなに平和な事か…。

私は身をもって体感していた。





















頭の中は真っ白で、どこかに浮いている気分だった。

ゆらーりゆらーり、揺り篭にゆられてるみたいで、思わず笑みが零れそう。

































。」



































強く名前を呼ばれて、しょうがなく目を開ける。
薄ぼんやりした視界に入るのは、ワルターの怒った顔。彼は足元に座って、眉間に皺を寄せて私を睨んでいた。
































「おはよ〜うございます〜、ワルタ〜。」































唇を動かすのが億劫で、もごもご喋ると、ワルターの顔は一層皺が増えた。







































「貴様、先に行ってろとは言ったが、帰らないとは聞いてないぞ。」

「ほぇ〜?」

「……。」








































キッと睨みつけてくるワルターに笑い掛けると、彼は呆れの溜め息を漏らした。








































「このまま起きないつもりか……。」

「はい〜。」

「ウィルという奴が不審な動きをしていたとしてもか?」

「…えー、ふしん?…ええっ!?」





































ワルターの話に頭の中は一気に鮮明になり、中身が働き出す。



















― ウィルが不審な動き?

















私はガバッと起き上がると、ズイズイとソファーの上を移動して彼に詰め寄った。









ズルズル…


衣ズレの音がする。
でもそんなのはお構いなし。立ち上がって彼に寄るのは、今の私には億劫な行動なのだもの。

































「ウィルが不審な動き?何?どうして!?」

「どうしてかはわからん。しかし……」

「ああーーーっ!」

































話のいいところで、いつも邪魔をされる。
甥はいきなり起き上がったかと思うと、私達を指差して大口を開けた。





































「なんで金髪がここにいんだよっ!から離れろ!」

































でも彼の喚きなんて無視して、ワルターはいつも通りに話を進める。
その行動がワルターらしすぎて、可哀相な甥のことは私も無視をしてしまった。






































「毛細水道の方に歩いていったぞ?」

「え…?」

「無視すんな!」

「毛細水道…急がないと。」

まで無視するなよっ…!!」






































ワルターの報告を聞き終わると、私は急いで支度し始めた。
毛細水道がどういうところだかは分からないけれど、きっと魔物の襲撃は避けられないはず。
ああ、最近平和ボケしていたのか、弓なんて持ち歩いていなかったわ。





































「ヴァイシス、セネルとシャーリィを起こして。」

「……わかったよ。」





































彼は淋しそうに頷くと、シャーリィから起こし始める。
それを見届けると、私はワルターに向き直って懇願の瞳で見上げた。









































「ワルター、悪いのだけど私の弓を…。」

「…持ってきた。」





































頼もうとすると、さすがワルター!
玄関を指差して白い弓が立てかけてあるのを見せてくれた。





































「まあ、ありがとう!!」


































彼にお礼を言うと、私は弓の元へ駆けてそれを抱きしめた。






兄様、持ち歩かなくてごめんなさい。





この弓をプレゼントしてくれた兄様に謝ると、私は弦を張った。

























ブイィィィン…























弦を馴染ませるために一回弾く。
すると、準備OKのようにいい音を立てて鳴った。












弓を立てかけ直して台所に走ると、あるものを引っ張り出して歩きながら食べれるくらいの小さなサンドイッチを作る。
皆がお腹すいて力が出なくならないように、食料は持っていかないとね。











しばらくして、この危機を聞いて駆け付けた(というか、ヴァイシスに無理矢理呼びに行かせた)仲間達と共に街を出た。















































外の自然はいつもと変わらないはずなのに、何だか悲しむような気を漂わせていた。

















何かが違うのに、見ただけでは分からない。




植物達も何も叫んでいない。




ただ、苦しそうに見えなくも無い。




この前までは元気だったのに。



















そんな疑問に囚われつつ、私は皆と一緒にダクトへ向かう。









































「ウィルちゃんはなんで毛細水道なのかしらねぇ。」

「ほんまじゃ。あがあな所に何の用があるんじゃか…。」

「黒い霧の情報を掴んだとかかな〜?」

「それなら僕達を集めてから向かうでしょう。」































そう、そうなの。

ウィルは絶対私達を集めるはずなのに、一人で行ってしまうなんてありえない。

最近は思い詰めていたみたいだったから、とても心配。









ハリエットの事もあったし、彼自身の中に抱えているものもたくさんあるのでしょう。


































少しでも力になれれば良いのに、なれない自分がとても悔しい。



私はなんて、ちっぽけなのかしら。










































ダクトに着くと、皆で押し合いへし合い入り込む。
ウィルがいない分まだマシだけれど、人数が増えた私たちには窮屈な機械。

















誰か、もう少し大きいものを作り直してくれないかしら。














そんな事を考えながら、グリューネの胸の辺りに乗り込んだ。























ほんわか香る、甘い香り。
そして弾力のある豊満な胸。





















私はそれに酔いしれると、彼女に抱きついた。





































「ほんわかですねぇ。」

「あら〜ちゃんたら♪」








































グリューネは私をぎゅっと抱きしめて、その胸に埋めてくれた。


































「ちょっとモーゼスさん、押さないでくださいよ。手だけはみ出て、ここに残されたらどうするんですか?」

「押しとらんわ!それにそがあなキモいこと口に出すな!」






































ジェイとモーゼスの会話が聞こえる。
こういうときでも仲が良いのね。








































「うわ、くっつかないで下さいって。」

「くっついとらん!!!ジェー坊よりのほうがええからの。はどこじゃ?」


































私が「ここよー?」と手を振ろうととすると、ジェイとヴァイシスに遮られる。
そして彼らはモーゼスのギロリと睨むと、

























「許しませんよ。」
「許さないよ。」






















と同時に言った。































「いつの間にほんな仲良うなったんじゃ。」






























それを見てモーゼスが羨ましそうに言う。そこへノーマがニコニコしながらモーゼスを睨む二人をじっと見て言った。




































「ジェージェーとイシーって、似てるもんねー。」

「お、たひかに。」

「お兄ちゃん、口に物いれたまま喋らないの!」

「ふまん。ひゃーリィ。」

「もう!!」






「うーん、俺とジェイが似てるかー。

……似てないのは背だけかな(笑)」

「喧嘩売ってるんですか?ヴァイシスさん。」

「さあねー。」




































そんな他愛も無い話をしながらダクトに乗ると、もう既に毛細水道の前。
私達は口に入れたサンドイッチを無理矢理飲み込むと、足早に入って行った。








































「ここって、何度来てもやなとこ〜っ。」

「本当です。」

ノーマとシャーリィが鼻を摘む。

「それもなんか…クサいな。」












































クロエの言葉に、ジェイも鼻を摘むとモーゼスを見た。














































「モーゼスさん、やめてくださいよ。」

「モーゼス、さいてーっ。」







































それにかまかけてヴァイシスも言う。





































「ワイと違うわっ!

はー、ジェー坊が二人おるみたいでむかつくわ。」

「それは結構なことで。」






































今にも争いを始めようとする二人を余所に、私はウィルの姿を探した。
この場所は来たことがないので地形はわからないけれど、見渡しやすい所だから難無く彼の姿を見つける。























「ウィル!!」





















呼ぶと彼は振り向いた。











































あれ……?








彼を横切ったものは何?







もしかして、黒い霧?
















今確かに彼を横切った…というか彼から出て来た。


















































どうしてウィルから黒い霧が出て来るというの?

ううん、考えてる暇はない。








あそこに行くためには……けっこう遠回りしなければだめだわ。
































「ワルター、お願い。」

「しょうがない…」































ワルターにお願いすると、彼は少し嫌そうに頷いた。




背に黒い翼を出し、彼は私を持ち上げた。
周りの仲間達はそれを理解してウィルの場所に行こうと走る。



























「何だよ!ずるいぞ〜っ!」
























叫ぶヴァイシスをジェイは促すと、彼も渋々走り出した。

























「ウィル!」

……来たのか。ワルターも、すまない。」


























ウィルはすまなそうに呟いた。

























「どうして一人で来たのです?私達はそんなに頼りないのですか?」
























彼は言葉を詰まらせると、息を漏らした。

























「違うんだ。これは、俺がやらなければいけない事だからだ。」

「ウィルが、やらなければいけないこと?」

「ああ。花を守らなければいけない。」


























そう言ったウィルの目は強く光り、決意を表しているかのようだった。


それは、濁りもなく澄んだ瞳。






彼は、本気なんだわ。




でも花って…?


































「では、私達はあなたのお手伝いをします。

だから皆が来るのを少しだけ待って。」






























ウィルは唸ると、神妙な面持ちで頷いた。

































































黙々と歩を進めるウィルに、同じく黙々と歩を進める私達。
ウィルが皆と一言も話さず、毛細水道の奥へと歩くのを、私達は無言で見守るしかなかった。




























「なんで毛細水道なんだって?」























ノーマが小声で聞く。私は声が漏れない様に口周りに手を置くと、彼女の耳に呟いた。























「遺跡船の水の循環が上手くいってなくて植物がおかしいみたい…。」

「そっかー、それの調査なんだ?」




















彼女は頷くとウィルの背中を見た。そして大きく手を広げたかと思うと、

















「これが前のウィルっち。」














と言う。そして今度は手と手の幅を狭めたかと思うと、
















「これが今のウィルっち。」












と言った。
私が目を白黒させて見ていると、


















「なるほど、確かにそうですね。」

















とジェイが言う。
















「今のウィルさんは何かがおかしい。

余裕が、ないんでしょうか。」

「…そうね。」


















彼の言葉を胸に仕舞いながら、ウィルの小さくなった背を見た。


































「く、これは……!!!」




























ウィルの声に異変を感じた仲間は、彼の視線の先を見た。



























「何これ……土も水も腐ってんじゃん!」

「それにこの臭い…」

「鼻が曲がりそうねぇ〜。」

























目の前に溢れるヘドロが鼻を付く腐臭を放っている。
土も水も腐り、遺跡船の循環を止めていた。
























「ウィル、毛細水道とは遺跡船の水源を担うものなのですか?」

「ああ、遺跡船は船だからな。大陸の自然のようにはいかないのだ。だから毛細水道が遺跡船全般の水の循環を担っている。

やはりここにトラブルが起こると、遺跡船の花達にも影響するのか…。」

「え、どういうことですか?」

「毛細水道がどうにかなったから遺跡船全体に影響が出るか出ないかは今確信が持てたところだ。

花が、枯れ始めている。根が腐り、芽も伸びない。このまま行くと、花だけではなく、遺跡船全体…俺達の生活まで危ぶまれるだろう。」

「そんな!!」
























その言葉に驚愕すると、私達は目の前の状態を見据えた。

その時、そのヘドロの中から黒い霧が立ち上がる。


























「!!」

「黒い霧だ!」






















私達は呆気に取られ、見つめてしまった。









こんな所までも黒い霧の影響なんて…!!


























「この霧をぶっとばしゃあいいんじゃろ!!」

「よし、やるぞ!」






















セネルの声を合図に、私達は武器を構えた。
























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お久しぶりです(笑)
こんな微妙なところで止まっていて申し訳ないのですが…。

うちのウィルは放浪癖?がある模様。
レジェのウィルは一人ではいかないのになぁ。

2006/10/24





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