「なんじゃと!?」

























モーゼスの叫びに、私達は彼を見た。
彼は槍でちょいちょいと黒い霧の奥を指す。




























「見るんじゃ、あれを!!」

「え?」

「なんだあれ!?」




























そこからは黒い霧が絶えることなく溢れ出す泉のようなもの。
私達が倒しても倒し切れないほどの霧が溢れてくる。




























「これは……一旦引いて、応援を呼びましょう?」

「そのほーがい〜ね〜。」


























ジェイの提案にノーマが賛成する。他の皆も頷くと、霧に背を向けた。












一人を除いて。











皆はそれに気付かず、退避していく。
私はその人物の腕を掴むと、思い切り引っ張った。
































「ウィル、一度戻りましょう?」

「……」





























無理矢理にでも引っ張る。
しかしがたいの良いウィルを、私が引っ張るのは到底無理な出来事だった。






























「ウィル!!」

「できん。」































彼はそう言い放つと、黒い霧に手を突っ込む。
すると、黒い霧はウィルを模った形へと変形し、彼と向き合った。


































「これは一体…。」




































私の呟きを余所に、彼は黒い霧に入っていく。






まるで、何者かに呼ばれているよう。






危険を感じ、引き止めるために彼の腕を掴もうとする。
しかし高圧電流が流れているかのように、バチッと跳ね返された。







































「ウィル…!」





































世界を見守る者……ここはそなたの出る幕ではない…







「誰…!?」












































聞いたことのある女性の声。

あれは、黒い霧から出現した…




































そなたはその名の如く、今は世界を見守っていればいいのだ。

「なんですって……」





































この状況を見ているだけなんて!出来るわけないじゃない。


でも、手を出せない…。

























先程ウィルに触れられなかったことを思い出し、唇の端を噛み締める。
そこから血が滲んで、鉄の味がした。














































「こんな時に……ウィルを助けられなくて………

何が世界を守る者なの!!」












































私は決心すると、思い切って黒い霧に飛び込んだ。
























































「うああぁぁぁっ!!」










































体中に黒い霧が纏わり付く。
そして雷に打たれたのではないかと思うくらいの痺れ。






息が苦しくて意識が朦朧とする。













































「ウィルっ…どこ…」







































もがくように霧を払い彼の姿を捜す。
しかし霧は払っても払っても纏わり付き、次第に体が覆われてしまう。











































愚か者だ…











































その時、目の前にあった霧が女の人の顔を形作った。

端正な顔立ちなのに、目を隠すようにマスクをつけている。



女性は無表情で私を見た。








































なんて愚かなのだ、世界を見守る者よ。








お前はこんな所で消滅してはならんのだ。

ふ……今回はお前の力に免じて助けてやろう。












「うっ…るさい…!!」









































彼女が放つ黒光りに反発するように、私は一心に祈った。



































ウィル…!!!































視界が開けたと思ったけれど、そこもやっぱり黒い霧で覆われていた。

違ったのは、ウィルが立ちすくんでいたこと。



































「ウィル!!」




































近づくけれど彼は気付かなかった。

前だけを見て、必死に何かと戦っているように見えた。








































「ウィル!ウィル!




……聞こえないのね…。」




































揺すっても叩いても無反応。どうしようもできなかった。








ウィルは立ち竦んだまま、一点だけを見つめて何かを呟いていた。







何に対して呟いているのかは分からなかったけれども、目を凝らして見つめてみる。








































…無駄と知りつつ何故生命を削り続ける?

滅び行くのが摂理と知れ。





摂理を曲げるのは人の子の使命ではない。










「お前は…。」















































その時、ウィルがあの女の人と喋っているのに気付く。
ウィルはその不思議な現象に慄くことなく、女性と話していた。









































…抗うことなく流れに身を任せよ。






「約束を果たさずに、花を守れずに、朽ちるわけにはいかない。」





…ならば我が人の子の願い、聞き入れよう。

子の憂いは我が胸に消え、子を全より無へと開放する。










































何を言っているの?
あの女性が、ウィルの願いを叶える?
















そんなこと、絶対にない。














確信があるわけではないけれど、あの女性は…















ウィルのことを想ってそんな事はしない…!!!















































「花は助かるというのか?」









































ウィルはそう言うと、暖かく大きな手をスッと上げた。








































…我にその身の全てを委ねよ。

さすれば子の願いは届く。







































ウィルの手はどんどん女性の元へと近づいていく。












































「約束が果たせるならそれも構わないか。君も、待っていてくれるだろうしな。」

























































!!





そんなことない!!!絶対、今のウィルを奥さんが見たら追い返されてしまうわよ!!










それに、そんなの自分で守るってことではないわ!

これでは、約束は守られない!!





























……どうして?どうして聞こえないっていうの!?


私の声では、ウィルに届かないというの!?










私は、仲間一人守れないというのですか!そんなの、世界を見守る者だなんて肩書きは重すぎます!!










































ウィルを叩いても揺すっても何をしても気付いてくれなかった。











彼はあの女性の言葉に囚われ、流されている。
約束の意味を取り違え、間違いを犯そうとしている。










人は誰しも、楽なほうに生きていこうとしたがるけれど、それでは幸せになれない。
自分がどんなに努力したか、一生懸命生きたかでその幸せは計れるのです。











こんなの、楽しているだけで努力なんかではない。








ウィルらしくない!!!













































































……そうです。
そうなんです。




「…誰?」










































目の前に、綺麗なドレスを着た女性が現れた。
暖かい微笑みを私に向け、小首を傾げている。




その顔はハリエットの様で、とても可愛らしい人だった。










































「あなたはもしかして…」













そうなんです。
先生は、間違っている。

私は今の先生なんて待っていない。
来て欲しくない。













「アメリア…さん?」














ええ。


ありがとうさん。
先生をこんなに大切に想ってくれてありがとう。




……一緒に先生を助けてくれますか?

















「はい!」















































アメリアさんがいるなら、百人力だわ。
彼女の声ならきっと、ウィルも反応してくれるはず。









































「お願いします、アメリアさん。」













私こそ―…

















私の意識の中にアメリアさんの意識が入り込んできた。
自分の気を失わないように奥歯を噛み締めると、ぎゅっと目を瞑る。













頭の中にはアメリアさんの記憶がぐるぐると回る。






ぐるぐる、ぐるぐる…











楽しかったり、悲しかったり、苦しかったり、
色んな記憶があるのに彼女にとっては全てが愛しいほど幸せなものだった。











その中から私はウィルを探り、彼女と一緒にその端っこを掴む。






































その時、







私とアメリアさんは一つになった気がした。
































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ウィルの端っこってなんだろう?(笑)

2006/11/03