「ねぇ、ヴァイシス。」

「なんだい、。」






















はふと甥に声を掛けた。その顔は無表情を装った寂しそうな顔だ。






















「あなた、本当に帰るの?」


















彼女はボソと呟くと、本当は言うつもりがなかったかのか、目を開き口元を手で押さえた。
しかし言ってしまった事は言ってしまった事。聞いてしまった事は聞いてしまった事だ。
ヴァイシスは答えざるを得ない。



















「帰るよ。」

















彼はにっこり笑ってそう言うと、叔母の桃色の頬をつんと指で突いた。



















「何?」

「別に。」


















そしてまた突く。



















「だから、何?」

「…俺に…帰って欲しくない?」




















彼が問うと、は少し驚いた顔で狼狽した。そして彼から目を逸らすと、「寂しいわ。」と言ってテーブルに肘を置き、頬杖を着いた。
彼女の手によってくるくると弄ばれる銀色の髪を見ながら、ヴァイシスは嬉しそうに言う。






















がそんなこと思うなんて奇跡だ。」

「そうね。」

「俺、嬉しいよ。」

「そう。」




















は上の空に応えると、部屋の隅に目をやった。
そこにはウィルとハリエット以外の仲間達が疲れた顔で寄り添って寝ている。ウィル達はハリエットの花が咲く場所で、親子の絆を確かめ合って一緒に家に帰って行った。
仲間達はというと、何だかそれぞれ帰宅する気分になれず、マダムミュゼットの居間に集まっていた。


幸せそうにセネルに寄り掛かって眠るシャーリィとクロエや、モーゼスの長腕に掴まれてうなされるジェイ、グリューネの豊満な胸に抱かれて気持ち良さそうに寝るノーマ。
羨ましいくらいに幸せな光景だとは思った。
叔母につられて視線を動かしたヴァイシスもそう思った事だろう。

























「皆、…だよ。」

「えっ?」

「皆、大好きなんだ。」






















彼は笑いながら言った。
はそんな甥を見て、母親のような顔になると席を立って彼の横に座る。






















?」

「あなたは、成長したわ。」

「やめてよ。くすぐったいじゃんか。」

「本当の事なのよ。」




















は思い切り甥を抱きしめると、薄紫色の髪を梳く様に優しく撫でた。























「あなたはきっと素晴らしい王になる。

…ヴァル兄様は王位を継がないつもりなのでしょう?」
























叔母の唐突な言葉に驚く事なく、ヴァイシスはこくんと頷いた。























「なんとなくだけど、わかっていたの。ヴァル兄様は最初、ヴァーツラフ兄様に王位を譲ろうとしてた。でもヴァーツラフ兄様はそれに気付かず行動を起こしてしまった。

…気持ちを伝えられなかったヴァル兄様は思い悩んだ末、あなたに継がせる事を決意した。」

「うん、そうなんだ。

思えば、自分勝手な父親だよ。」

「でも…」























ヴァイシスは両手を挙げておどけて見せた。
それをが諌めようとすると、彼は微かに唇を緩めて笑う。























「そう。でも人一倍息子の事を想っている父親なんだ。」






















ウィルとハリエットを見ていてわかったんだ。
ハリエットの意地っ張りは、俺と重なって見えた。俺は、あんなんだったんだなぁと思って愕然としたよ。それと同時に、父親は偉大で暖かいものだとも思った。父上もウィルと同じくらい、俺を想っていると。

彼はそう言葉を続けた。

が離れて彼の顔を覗くと、晴々としていることに気付く。



















もう、この子なら大丈夫だ。


















の中に安堵の感が溢れる。


ヴァイシスは遺跡船に来た事で変わった。


前みたいに独りよがりではなく、人を信じること、助け合うことなど、王にとって学ぶべく大切な感情を手に入れたのだ。






























「俺が王らしい王になるために、父上は今回に会いに行く事を目をつぶって下さった。

きっとわかってたんだろう。に触れる事で、俺がどんどん変わっていける事を。」

「私に触れる?」

「うん。といると、俺は変われるんだ。

は、俺の枠を崩して新たな感情、行動を教えてくれる。」

「私は…」

「自分でわかっていないだけなんだよ。

少なからず、ここにいる皆だってそう言うはずだよ。」

「ヴァイシス…」

























は甥を再び抱きしめると、彼の耳元で囁いた。


























「私もいつか、クルザンドに戻るわ。」

「…!!

うん、うん!!」



























ヴァイシスは力の限り叔母を抱きしめ返すと、桃色の頬に長いキスをした。
叔母は嫌がることなく受けると、優しく微笑んでいた。






















「そうだ!」




















ヴァイシスが突然大声を上げた。


は肩をびくりと震わすと、寝ている仲間達の方を見た。
誰も起きる気配はなく、すやすやと規則正しい寝息を立てている。
彼女はホッとすると甥を睨んだ。


























「ごめんごめん。

母上からに伝言があったんだった。」

「ええっ!今さら…あなたもう帰るって時に。」

「俺とは関係ないことだからいいんだよ。」






















ヴァイシスは適当な理由をこじつけると、母の言葉を思い出すために視線を上向きにした。



























「えーと…、

、貴女が背負っている名はその名の通りではないわ。これからたくさんの試練が待っているから、貴女が自分で答えを見つけなさい。

だったかな。俺にはちんぷんかんぷんだよ。」

「義姉様…。」

























は甥の説明を最後まで聞かずに思い耽った。
ヴァイシスは心配そうに彼女を見守っていたが、自分が助けになれないことをわかっているのか、声を掛けることはしなかった。

代わりに、彼は幸せそうに眠るクロエをじっと見て、くすりと笑う。


























「セネルなんかにもったいない。」























そして呟いた。




























「?何がセネルにもったいないわけ?」
























小さく呟いた程度だったはずだが、叔母に聞こえてしまった事に驚くと、ヴァイシスは視線を横にずらした。

しかしは甥の視線の先がクロエだと気付くと、笑った。
ヴァイシスはそれに気を悪くすると、叔母にじとりとした視線を送る。































「…なんだい?」

「別に何もないわ。」

「……。」

「手強いわよ。」

「……わかってるよ。」





























ヴァイシスは吐き捨てるように言った。











そして叔母と目を合わせると、二人で大笑いした。
































…こんな時間がいつまでも続けばいいのに。












でも…







































俺には、クルザンドが待っている。

俺は絶対素晴らしい王になってやる!!


































ヴァイシスは心に誓うと、再び大笑いした。



































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とヴァイシスの二人会話。
叔母と甥の関係を象徴しつつ、でも歳近い二人の信頼関係を出してみました。
ヴァイシスはに憧れることで、彼自身を高めて行くのでしょう。

2006/11/22











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