「クロエじゃなくて、ごめんなさいね。」

「いえっ!私、さんのファンでもありますから!」


























私はエルザのほっそりとした小さな手を握り、病院に向かっていた。
























「クロエさんたら、さんの事を凄く話すんですよ!強いとか、落ち着いてるとか。いいな〜って思います。」

「まあ、ありがとう。」
























皆と一緒に街の入口まで行きたがったエルザを、病院に用があった私が連れていくことになったのはつい先程。
いくら体調が良いからって、無理はさせられないものね。



























さんの手って、暖かいですね。お父さんの手みたい。」

「ふふ、それは嬉しいわ。オルコットさんはとても優しいお父さんでしょうから。」

「はい!」





























表情がくるくる変わり、エルザは嬉しそうに笑う。
















なんて可愛い子なのだろう…

スティングルが命をかけて守る…彼の娘。

私も、守ってあげたい。
































「そういえば、さんっていつもワルターさんと一緒にいますよね?」

「え?ええ。一緒に住んでるのよ。」

「ええーーっ!?本当なんですか?

…もしかして、恋人同士とか…?」

「あら、違うわよ。」

「…なんだぁ。あれ、なんだかワルターさんががっかりしてるみたいですけど?」

「そう?」
































結局、ワルターも私に着いて来たの。
彼は私達の後ろを歩いていた。
































「……」

「ほら、やっぱりがっかりしてますよ。」































エルザが彼の睨みを見ないように前を向かせ、病院へと向かう。今日は本当に彼女の具合は良いみたいだった。



























「さて、着いたわ。エルザ、自室に戻れる?」

「やだ、さん。心配し過ぎですよ。大丈夫です!」




























彼女はそう言うと、手を振りながら部屋に戻って行った。
それをしっかり見届けると、私達はカウンターへ向かう。






























「お薬持って来ました。」

「いつも悪いねぇ、ちゃん。」

「ふふ、でもオルコットさんが来てからは楽になったのではなくて?」

「そうだねぇ。」































特にこの病院は傷薬の消耗が激しいので、私の調合だけでは間に合ってなかったの。
私も他にやることもあるので調合だけしているわけにはいかないしね。































「今日の薬分だよ。」

「ありがとうございます。」

「また来ておくれ。」






























薬分の手取りを貰うと、私達は病院を出た。





貰ったお金をどのように生活費に分けるか考える。

働くっていうのは大変だけど、これで私は生活しているのだものね。
私はきっちりお金の使い道を考えると、ワルターを見上げた。






























「皆のところへ向かいましょうか。」

「わかった。」
































私達は街の入口へと歩き出した。










































             *








































「話しても無駄ですね!!!!」

























もうすぐで街の入口というところで、誰かの叫ぶ声が聞こえた。
そちらを見るとセネル達の姿を見つける。そして、その場から去ろうとしている女の子、その後ろ姿は見慣れた水の民の衣装。
























「あれは……。」
























私は何かに押されたように走り出した。








仲間の間を走り抜け、その金色のツインテールを追い掛ける。






















!」
さんっ…」





















セネルとシャーリィが同時に私の名前を呼ぶ。
その声は、追い掛けるのをやめておけと言っているようで、ますます追い掛けないと気が済まない気がした。





ツインテールの少女はスタスタと街を出、水の里へと向かっている。

私の足はこんなに遅かったのかと思うくらい彼女は離れて行く。
































































「待って…

待って、テューラ!!」




























































彼女の名前を叫ぶと振り返る。そして驚きの顔で私を睨んだ。


彼女が立ち止まったのをいいことに、私は走るスピードを上げた。そしてやっと追い付くと、再び彼女の名前を呼ぶ。






















「テューラ、初めまして。」

「あなたは、私を姉さんの名前で呼ばないんですね。」

「ええ、あなたはフェニモールと違うから。」

「違いがわかるなんて。」

「わかるわ。睨みの利かせ方も違うし、後ろ姿も違う。あなたはフェニモールではないわ。」

「…ふうん…」
























テューラは私を上から下までじとりと見た。そして目を細めて私を睨む。





















「それで、何故あなたは私の名前を知っているのですか?」

「フェニモールから聞いたからよ。」

「姉さんから…じゃあ、あなたが長の言っていた滄我の声が聞ける陸の民ね。」

「マウリッツ殿が……ええ、そうよ。」
























彼女は警戒するように私から離れると、唇を噛み締めた。

























「陸の民に滄我の声が聞けるなんて信じられない…!!!

……でも、あのメルネスがいるような今だから……」

「テューラ?」

「気安く呼ばないで下さい!!陸の民のくせに!!」


























そして私を睨み上げると、彼女は拳を握り締めて走っていく。


もう少しだけ話がしたい、そう思って呼び止めようとしたときテューラの前にワルターが降り立った。
彼は険しい顔でテューラを見ると、フウと息を吐いて腕を掴む。

























「離して!」

「…うるさい。」

「何よ!!あなたなんかメルネスと同じ陸の民かぶれのくせに!」

「……」


























ワルターは無理矢理彼女を引っ張ってこちらに歩いてくる。
彼女はそれを振り解こうと必死にもがいているけれど叶わない。




































「何が親衛隊長よ!!何がメルネスよ!!

運命に逆らって生きる、ただの臆病者じゃない!」








































テューラの言葉にワルターがピクリと動く。彼の鋭い目は、彼女の瞳を捕らえて吸い込む。
しかし、テューラがワルターの怒りに当てられる前に私の手は動いていた。























































パアァンッ





















































左頬は赤く腫れ、今起こった出来事を彼女自身理解出来ていないようだった。
私が思わず打ったのはテューラの頬で、彼女は左手で頬を押さえ、わなわなと震えている。






















「なっ…何をす……」

「あなたには、シャーリィとワルターの覚悟がわからないのね。

…そうよね、人は自分に起こった重要な出来事を鵜呑みにする。だから他人の事まで考える余裕はないものね。」
































私は自分の行動をやりすぎだとは感じなかった。
彼女にはわかって欲しいと思ったの。
































だって、フェニモールの妹でしょう?

































「今回の陸の民と水の民との関係で、大切な者を失ったのはあなただけではないわ。だからって、我慢しろだなんて言わない。自分にとって大切な者が居なくなる事は、その者の存在があった場所に心の隙間が出来るから。

そうだとしても、わかった風に彼らの覚悟を否定しないで。

その覚悟は、大切な者を失ったあなたと同じ……いえ、それ以上のものかもしれないのだから。




















テューラ、あなたに否定する権利は無いのよ?」































テューラは無言で私の言葉を聞いていたけれど、サッと踵を返すといつの間にか解かれたワルターの手から逃れ、再び水の里に向かって歩き出した。
その背中には悲しさと悔しさが満ち溢れ、見ている私が辛いくらいだった。



























「ワルター、彼女が無事に里へ着くまでついていってくれる?」

「ああ、わかった。」

























ワルターは文句も言わずに彼女の後を追っていった。
私はそれを見届けると、自分の腕を交差させ二の腕を掴みしゃがみこむ。

























覚悟……か。


はたしてあの台詞を言う資格が私にあったのか分からないけれども…

テューラの心に少しでも響きますように。




























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テューラ登場☆
あえてテューラとシャーリィの会話飛ばしてしまいました。

ま、ヒロインはヒロインですから(笑)


2006/12/17














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