私達は病院に着くと、真っ先に薬剤の部屋に向かう。そして棚にある小瓶を念入りに調べ数個取ると、後ろのテーブルに置いた。
















「あれはかなりの猛毒だ…」














オルコットが緊張した面持ちで言った。
セネルはオルコットを見上げ、心配そうに私の方を見る。私は目を細めて微笑み、彼に「心配ないわ」と言った。
















実際、オルコット以上に私の体は緊張していた。






あの猛毒をどうやったら消せるか…、それが無理なら和らげるか。

私にノーマが救えるだろうか、ノーマの体だけでなく、彼女の中で悩める何かを助けてあげられるだろうか。





それを考えると、私には無理なのではないかという念が過ぎる。













私はふるふると頭を振ると、不安を捨て去る。











そんなこと考えて何になるの?

私はただ、ノーマを助けたいの。


助けなければいけないのよ。
















何十という薬剤の調合が頭に浮かぶ。それを吟味しては一つ一つ消すと、有効そうな調合だけ頭に残していく。















「あれはどうだろうか?根と葉のハーモニーは」













オルコットが私に言った。それをセネルが不思議そうに聞き返す。
















「根と葉のハーモニー?」


















「そういう調合方法があるの。

…それでは効力が弱すぎるわね。」

「…そうか。では、水の薬草煎じごろごろ法は?」
















「水の薬草煎じごろごろ法?!」















オルコットの言葉に、再びセネルは疑問を返した。
















「それも調合方法なの。

それもだめだわ、効力が強すぎるもの。今のノーマには耐えられない。

…待って!」














私は頭の中を巡らせると、ある調合方法を二つ思い出そうと頭を捻る。














「なんだか、オルコットさんよりの方が調合に詳しいように見えるけど。」

「そうかもしれないね。彼女は昔からああやって…」

「昔から?」













オルコットが失言をした。
セネルはそれに気付くと、訝し気に彼を見上げる。
オルコットも自分の失言に気付いたのか、セネルに愛想笑いを見せた。














「ああ、前からって意味だよ。彼女とは仕事柄、一緒に作業する事が多いからね。彼女の知識は大いに尊敬するよ。」













セネルは頷くと、極上の笑みで私を見て「は凄いんだな。」と言ってくれた。












私はオルコットを窘める様に見遣ると、思い出した二つの調合法を説明する。














「これを応用すれば、今のノーマの体力に合った効力の強い薬が調合出来るわ。」














オルコットはしばらく考え、ふと笑った。














「…確かに。

いつでも、君の判断力に尊敬するよ。」

「まあ!ありがとうございます。」













私達は慎重に薬剤を量ると、素早く調合し宿屋へと向かった。















「セネル、落としてはダメよ?」

「わかってる。」














調合の手伝いが出来なかったかわりに、彼は解毒剤を無事に宿屋まで持って行く役割をかってでた。
セネルは恐る恐る薬を持ち上げると、震える手で抱える。














「心配ない。行こう。」























































「これで大丈夫。」













解毒剤を飲んだノーマの顔は、みるみるうちに良くなっていった。顔色は土気色から乳白色に戻り、呼吸も落ち着いた。














「私は帰るよ。」











看病しているオルコットが静かに去ろうとしたので、私は皆にノーマを任せて彼を途中まで送っていくことにした。











無言で歩く中、オルコットは急に立ち止まって振り向くと、私を見つめた。















「相変わらずですね、様。」

「貴方もね。今日は手伝ってくれてありがとう。」

「いえ、私は何もしていません。強いて言うならば、調合を少々手伝ったくらい…。」












夜道に静かな風が吹く。彼の束ねたおくり毛が微かに揺れた。












「そんな…」

様…」

「ん…何ですか?」











再び風が吹く。
ザアアと鳴る風は、私の三つ編みを持ち去ろうと強く吹いた。













「きゃ…」

「!…大丈夫ですか?」












ゆらりとぐらついた私の体を、オルコットが支えてくれる。
私はそのがっしりした腕を掴むと、彼を見上げた。














「スティングル…」

「は…」


















昔に戻った様だった。
















周りは見渡す限り砂漠で、土煙がいたるところで上がっている。


そこには兄様もいて、私を睨むメラニィも、遠くから見守ってくれたカッシェルも…、温かな目で私をサポートしてくれるスティングルもいる…。







クルザンドのあの時代に戻った気がした。

















様?」














スティングルの声で気付く。ここはウェルテス。
私の人生を変えるに至った場所、遺跡船なのだわ。






私は彼に笑いかけると、そっと腕を離した。その時ちらりと見える入れ墨に心を掴まれる。












『蛇の入れ墨をした男が−』










クロエの言葉が頭の中をこだまする。



そうだ、スティングルは…















「ねぇ、スティングル。」

「は…」

「クロエとの決着、つけないのですか?」

「!!」












スティングルは口を真一文字に結んだ。
しばらくそのままで、一言も発することなく佇んでいた。







まるで、自分の中で葛藤してる様。















「それは…いつか、必ず。」

「そう…」














彼は私に背を向けると、歩き出した。私は遅れないように後を着いていく。















「ここで結構ですよ、様」

「ええ…」

「……

その時は、もう遠い未来ではありません。」

「えっ…」











そう一言発すると、彼は足早に去って行った。

私はその後ろ姿を見つめながら、思わずため息をついてしまう。













彼の後ろ姿は、堂々としている様なのに、とても小さく見えた。
まるで、自分を目立たなくしている様に。















「遠くない未来…なの?スティングル……いえ、オルコット殿。」















この問いは虚しく空に消える。

誰もいない夜空の下で彼の思いは燻りながら、それでもなお、自分の罪からは逃れようとしない。











立ち向かって行く強さを、私も欲しいと思った。
















***********

もとはといえば、スティングルがクロエの両親を殺したので悪いのだけれど、魔物もいて、戦争もあるレジェの世界ではあってもおかしくないことなのだろうと思います。
ヒロインもそう思いながら、どちらの当事者にも親しい者なので、やっぱりどうにかおさまってほしいと思ってしまう。

その当事者達があなたの親しい人でしたら、あなたはどうしますか?


2007/04/13






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