カラン…
ドアベルが頭上で鳴り、ロビーで話し合っている皆がこちらを向いた。
私は静かにドアを閉めると、彼らの元へ行く。
スティングルの事を考えながら歩いていたので、むっとした表情をしていたのかもしれない。
クロエが不思議そうに、
「オルコット殿と何かあったのか?」
と聞いて来た。
何故、こう敏感なのか。
「あなたのことよ」
なんて言えず…
本人はわかっていないからいいものの、その問いに私は愛想笑いで答えるしかなかった。
ロビーの柔らかい光が私達を照らし、心配そうにする皆の表情が浮かぶ。
私はそのひとつひとつの表情を見つめると、皆がどれ程ノーマを大切にしていて、想っているか手に取るようにわかった。
そして鼻でため息をつくと、輪の中に入って話し合いに参加する。
「これに懲りて、無茶あなことせんといいんじゃが。」
「ノーマちゃん、大丈夫かしらねぇ…」
口々につく不安。
最近のノーマはいつもの彼女らしくないノーマ。
皆もそれに気付いて心配が増しているのだろう。
「探索はもう無理じゃろう?」
「不本意ながら、僕もモーゼスさんと同意見です。」
モーゼスの意見にジェイも賛同する。
私は皆がどういう答えを出すのか知りたくて、黙って見守ることにした。
「まあ、探す以前にエバーライトが存在するかどうかが問題になってきますが…」
「大陸の研究機関も調査を放棄してるって言ってたよな。」
「存在しないのであれば、いくら探しても見つかるはずがない。」
皆はエバーライトの存在についての議論を始めた。
確かに、エバーライトを見たことがある人はいない……。
したがって、エバーライトが本当に存在するかも定かではない。
でも―…
「ないと言われるものだから、探すことに執念を燃やすのかもしれない。」
私が思わず反論しかけた言葉をウィルが言ってくれた。
そうだ、私は皆の意見を聞くつもりだったのに、反論しかけてどうするのかしら…。
黙ってウィルを見上げる。
「何かを探求すると言う事は、常に道へと向かうということだ。誰かのあとを追うのでなければ、自分が道を作っていくしかない。」
「それはわかりますけど…」
ウィルの考えに賛成しかねるのか、ジェイが不満そうに言う。
しかしウィルは軽く肩を落としただけで、それに答えることはなかった。
「エバーライトの存在に関する議論はひとまず置いておこう。俺達に必要なのは、これからどうするかだ。」
ウィルがそう言うと、皆が重々しく頷く。
やはり、こういうことになってしまうのね…。
「僕はここで手を引くべきだと思います。」
「俺も同意見だ。」
「今回の事で、ノーマも思う事があっただろう。それを尊重してやるべきではないのか。」
クロエが二階を見上げて言う。
彼女の顔は心配そうに歪んでいて、私が見てられないくらい。
「誰かに言われてやめるくらいなら、とっくに諦めはついているはずだ。
……ノーマの様子を見てくる。」
セネルは皆の意見が納得出来ないというように拳を握ると、階段を駆け上がっていった。
「待って、私も行く!」
その後をシャーリィが追って行く。
私達は二人の姿がドアの向こうに消えるまで目で追っていた。
「セネルさんの気持ちもわかりますけど…」
「ああ、そうだな。私達はノーマの手伝いをしているだけなのだから。」
「じゃがのう…」
再び悩み出す皆を、私は静かに見守った。
「ちゃんは、どう思うのかしら?」
「えっ…」
グリューネの突然の問いに戸惑う。
まさか彼女に問われるとは思わなかったので、面食らってしまったの。
「えと…私は、私達が出す答えではないと思います。
これは、ノーマの求めるものだから…私達は彼女から求められたら、それに精一杯応えてあげるだけだと思います。」
私が意見を述べると、グリューネはにっこり微笑んで、
「お姉さんもそう思うわぁ…」
と言った。
他の皆も頷いてくれる。
やっぱり皆にとって、ノーマは大切な仲間なのだ。
「の言う通りじゃな。」
「そうみたいですね…。」
ジェイは少し不服みたいだけれど、やっぱりノーマの意思を尊重したい気持ちは同じみたい。
「ところで、ノーマの状態についてなんだが…」
「あっ…、そうでしたね。あれは非常に毒性が強くて、一回解毒剤を飲ませただけでは効かないの。あの毒は、症状が振り返すという特性を持っていて…」
「そうなのか…」
ウィルの表情も不安そうに歪んだ。
私はその不安を追い払うように左右に手を振る。
「でも大丈夫です。安静にして症状が出る度に薬を飲めば治りますから。」
そして安心させるように明るく言った。
すると皆の顔も明るくなって、心から安心したという気持ちが伝わってきて、私はちょっぴり泣きそうになってしまった。
「では、ヤマは越えたのか…」
「ええ…あとはノーマが大人しくしていてくれれ…」
「皆、大変だ!!」
言いかけた言葉に被さる様にセネルの声が響く。
そちらに目を向けると、怒ったセネルと泣きそうなシャーリィの表情が飛び込んでくる。
「どうしたんじゃ!?」
彼らの表情に、私達も不安を覚える。
モーゼスが食ってかかるようにセネルに大声で問う。
「ノーマが、いなくなった!」
『ええっ…』
予期せぬ出来事ではなかった。ノーマならやりかねないと思ったからこそ、私のさっきの言葉が出たというのに。
あの子ったら、こんなに早く実行するなんて。
「ウィル、これを見てくれ!」
おろおろする私達を見下ろした形で、セネルはウィルに声をかけた。
その手には随分と使い古されたノートが握られている。
「まさか、これを全部ノーマが!?あいつは古刻語を理解しているのか?」
セネルから渡されたノートをペラペラと捲りながら、ウィルが目を白黒させて言う。
ノートを見てぽかんとしているウィルの手からそれを?ぎ取ると、ジェイと一緒に覗き込んだ。
すごい……!!!
私もここまではわからなかったのに、ノーマは全てを訳している。
この使い古されたノートには、ノーマの努力の結晶が詰まっているんだ…!!
「エバーライトの探索に、ノーマはそれだけ真剣だったわけか。口数が多いくせに、肝心な事を黙っているとは。」
「ノーマさん、頑張っていたんですね。努力しているところを、隠しながら……。」
クロエもシャーリィも優しく微笑んでいる。
きっと、いつも騒いでいるノーマに親近感を覚えたのかもしれない。
努力をしてきたノーマに。
「あいつに協力してやれるのは俺達だけだ。」
「それでは、早く捜しに行きましょう!」
「ああ!!」
私達は宿を飛び出すと街の方々に散ってノーマを探した。
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仲間を大切に思う気持ちこそ、仲間の力になる。
2007/04/16
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