「ノーマ!だってお前を心配して…!!」
俺は拳を握って怒鳴った。
ノーマはあからさまに耳を塞ぐと、うんうんと頷く。
「セネセネに言われなくても、ちゃんが心配することくらいあたしだってわかってるよ。
極度の心配性だしさ。」
ノーマは俯くと、ため息をついた。
「あたし、ただ……、ししょーの弟子としてその夢を継ぐのはあたしだけだと思ってたんだ。
それなのに、ちゃんはししょーに会って、古刻語を勉強してた。」
ノーマの肩が震える。
表情は見えないが、きっと唇を噛み締めて声を抑えてるだろうと思う。
「あたしはししょーの様にトラップ外せないしさ、ちゃんなんて練習したらすぐ出来そうだし。
そうじゃなくても、ちゃんは持ってる力で古刻語読めんじゃないの?
トラップだって目と耳を研ぎ澄ませば、その力で解除できんじゃないの?
努力しなくても出来るってどんな感じなの?」
許せないと思った。
ノーマは仲間だし、大切な奴だ。
でもこの発言はおかしいだろ?
だって持ちたくて持った力じゃない。ノーマだって知ってるはずだ。
飛び掛かりそうになる気持ちを抑え頭を振ると、仲間達を見回した。
皆同じ気持ちなのか、俺と同じように怒りをふつふつとさせながら、それを抑えている。
今のノーマに言ったって無駄だ。自分に自信をなくしている。
を見ると、彼女は無償の微笑みをたたえていた。
ノーマだけを見つめて、優しく微笑んでるんだ。
「ししょーの弟子はあたしだけなのに、ししょーの夢を果たすのはあたしだけなのに…!
そう思ってたのは、あたしだけだっだ。」
はそのまま歩み出すと、ノーマの前に立った。そして彼女の顔を上げさせると、息を吸って言う。
「ノーマ。スヴェンの弟子は、後にも先にもあなた一人だけよ?」
優しく囁く言葉は、魔法のような柔らかな旋律。
その声にノーマはゆっくりと顔を歪ませていった。
「私はクルザンドを救うことしか頭になかった。
スヴェンはそんな私に、エバーライト探索禁止令を出したわ。」
『エバーライトは、そんなんじゃなくてな…』
今、一瞬の声に男の人の声が重なった。
「私はエバーライトを探さなかった。スヴェンには、夢と希望をもらったけれど、私にはエバーライトは必要なかったの。」
『王女にはエバーライトは必要ないって。
だってさ…』
また、聞こえた。
他のみんなも聞こえるみたいで、目を白黒させている。
「ちゃん、これって、この声って…」
ノーマにも聞こえるようで、今にも泣きそうだった。
もしかしてこの声は…。
「私はわかったの。私がクルザンドをなんとかしないといけないんだと。エバーライトに頼ってはいけないのだと…。
スヴェンは教えてくれたのよ。」
『それにさ、エバーライトは俺と弟子が見つけんだ。
王女に色々教えたら、先に見つけられちゃいそうだもんな。』
「ね?」
ノーマは泣き崩れた。
は膝をつくとノーマを優しく抱きしめた。
「聞こえた?スヴェンの声…。
これは、私の記憶なの。ノーマが言う私の力は、こんな事にも使えるのよ…。」
はノーマの背中をぽんぽんと叩く。
ノーマは涙で濡れた顔をあげて、しきりに謝っている。
「ごめん、ちゃん。」
「いいえ…」
「あたし、わかってるから。ちゃんの力、望んで得たものじゃないって。」
「ええ、大丈夫よ…」
はノーマの肩を掴んでゆっくり立たせた。ノーマは微かにしゃくりあげながら、を見上げる。
「あたし、不安なんだ。エバーライトの事。あたしの研究が確かなら、絶対ここだと思う。
でも…」
「えぇ、わかっているわ。あとはどんなに強い思いを持つか。エバーライトが存在するか信じるか…。
その不安に押し潰されそうなノーマが、私に少しヤキモチを妬いてしまったこともわかってるわ。」
はくすりと笑うと、ノーマの手を取った。
「ちゃんってば…。
ん…わかった。あたし頑張ってみるよ。」
ノーマは弱々しく笑うと、石段の上に立った。
ブゥン……
くぐもった音がしたと共に、石段に模様が現れた。
それはノーマのノートに書いてあった古刻語の一つだということはわかるが、意味はさっぱりわからない。
「これを、しろってことかな。」
「きっと、そうよ!」
もわかるのか、ノーマを促す。
ノーマは両手を胸の前で組むと、祈り出した。
すると先程現れた模様は消え去り、宙に三つの炎が現れる。その炎一つ一つにもまた古刻語が記されていた。
「災厄…、炎、未来…か。
答はもう、わかってんだけどね。」
ノーマは呟くと、『未来』 と訳した炎に近づいた。
しかしノーマは少し手を出しただけで炎に触る気配が無い。
「ノーマさん?」
「……ここにエバーライトが無かったら、もう…どうすればいいのかわかんない。」
「…恐いのか?」
俺がそう聞くと、ノーマは力なく笑った。
「真実を知ったら、夢を信じられなくなると思う。
今、ここで引き返せば、この先を確かめなければ、望みを持ち続けることは出来る。
残酷な真実を知るくらいなら、何も知らないでいた方がいいってね。」
ノーマはそう言うと少し出しかけていた手をも引っ込めてしまった。
ふわりと香るの匂いが舞う。
俺達をすり抜けてノーマを抱きしめる。
どうしてこう、母親のような暖かみで人を迎え入れる事が出来るのか、俺はに問いたい。
どうしてなのか、産まれた時から持っていたものなのか…
「ノーマ……」
「ちゃん…」
「お願い、自信を持って?でないと、あなたは…」
「えっ…」
その時、ノーマ体から黒い霧が溢れ出してきた。
俺達は驚いて慄いたが、だけはノーマを抱きしめながら祈っている。
「お願い、ノーマ…お願いだから。」
「やっ…何これ?黒い霧!?」
ノーマが自分の変化に気付いたのか、慌てだした。
しかしは離れるつもりはなく、そのまま動かない。
次第に黒い霧に包まれていく二人。
だけでも助けなければいけないと思い、体が動いた。
「何やってんだ、!」
強く腕を掴んで引き寄せる。
あとはそのまま、ノーマを置いて後方へと下がった。
「ちょっとセネセネ!ちゃんが大切なのはわかるけどさ、置いてかないでよ!」
ノーマからの非難の視線。
そして何故か横からも同じような視線を感じた。
「セネセネ同様、なんでみんなあたしを置いてくわけ?」
「なんだか感染しそうですから。」
「なんだと〜!?」
シュウウウゥゥゥ…
ノーマの横に、真っ黒なノーマが現れた。
「うぇ?あたしが二人?」
「セネル、離して!」
「ダメに決まってるだろ!」
俺の腕の中で状況を見守っていたが暴れだした。
彼女は俺の腕を振り切ろうと体を左右に揺らす。
「お願い、お願いだから…」
「…」
「ノーマを助けないと!」
どうして、そう身を挺して誰かを守ろうと出来るのか。
俺は、に聞きたい…。
でも、聞いたとしてもきっと……
「大切な仲間だからよ…。」
はそう言った。
!?
俺が思わず言葉に出してしまったのかと思う。
的確な答えを言うなんて、それしか考えられないからだ。
「?」
「お願い、セネル。私はノーマを助けたいの。」
大切な仲間……そう言われると、俺はもう彼女の腕を離すしかなかった。
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ヒロインは不思議な力が強まってきている模様…
今回はセネル視点でしたー。
2007/05/03
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