…最近なんとなくに会いづらく、真っ直ぐ部屋に帰ることが出来ない。
早く帰らなければいけないのはわかっている。
あいつは誰もが知る程、極度の心配性だからな。
早々に帰宅しないと怒られるのは、目に見えているんだ。
だが……些細な喧嘩をしたあの日から、なんとなく帰りづらい。
次第に変化していくあいつ…、性格が変わったわけではなく……ただ、あの肩書 がを縛り上げ、別の何者かに仕立て上げようとしている気がするのだ……。
夜空の星々を見上げ、決して手が届かないとわかっていながらも腕を伸ばす。
光は近くにいるように見せかけて、本当は
遥か彼方にいるのだろう…
「世界を見守る者とは一体なんなんだ…?」
思わず呟いてしまい、自分でも驚く。
誰も聞いていないのを確かめると(空を飛 べる者以外に聞こえるはずがないのだが)溜め息が出た。
水の民の古い文献を調べても、その様な言葉は記されていなかった。
それに近い言葉も、記されていなかった。
しかし、よく考えるとそれはおかしくはない。
世界を見守る者は陸の民から選出される様だからだ。
だが、そのような存在があった事さえも、書かれていないものだろうか…?
「……〜だ」
突然下の方から人の声が聞こえた。
こんな夜更けに人気のない場所で話すことなど、ろくなことがない。
俺が飛び去ろうとした時、見知った声が聞こえた。
いつもならこんな事はないのだが、その声はの仲間の声であったため、興味を注がれて覗いてみる。
「そんなこと……!!」
「出来ないと申すのか!?クロエ・ヴァレンス、そなたはガドリアの騎士であろう!」
「…それは……」
「今回の件が成功したあかつきには、ヴァレンス家を正式な騎士へ戻してもよいと王も仰っている。」
「!!」
「それにな、そなたがやらんでも他の者にやらせるということも出来るのだ。
どうだ?友ならば、他の者の手より自分の手で……とは思わぬか…?」
「それはっ……、そんなことは……」
「……吉報を待っている。」
クロエというの仲間。
黒髪の女はの祖国と対立した国の出身だと聞いたことがある。
しかし、はしきりに大切な仲間だと言っている。
嫌な予感がしたが、詳しい話を聞いたわけでもないので憶測しか出来ない。
『友ならば、他の者の手より自分の手で…』
この言葉が気になった。 やはり、嫌な予感がする。
「そんなっ…、今になって…
父様…母様…」
女は呟くと両手で顔を覆った。
肩を震わせ、泣いている様だ。
これ以上ここにいる必要はない。
俺はそう思うと、音もなく夜空に舞い上がった。
遠くに見える海が、静かに波立っている。
目まぐるしく廻る時間の中で、
変わっていくのは俺達だけなのだろうと思った。
ガチャ…
ドアを開けると、怒ったの顔……
と思ったら、鼻歌を歌いながら機嫌良く夕食の支度をしているが目に入った。
俺に気付くと、極上の微笑みで「お帰りなさい」と言う。
なんだかこちらでも嫌な予感がした。
が、の場合はそうではないようだ。
「今日はムニエルよ。」
「ムニエル………はいいが、何かいいことでもあったのか?」
俺が聞くと、はにんまりとした顔でムニエルの乗った皿を差し出してくる。
…なんて大きなムニエルなんだ……。
唖然としていると、はテーブルに皿を置きながら笑った。
「今日は調理のし甲斐があったから、機嫌がいいの。」
彼女はそう言うと、椅子に座る。
「それに、ワルターが帰ってくるのもわかったし…」
「わかったとはどうやってだ?」
「ん〜〜?勘よ、勘。」
「勘…?」
不自然に感じたが、和えて気にしない事にする。
俺はそのまま椅子に座ると、と向かい合った。
「いただきます!」
「いただく…」
黙々と食べ始め、その味に舌鼓を打ちながら食べ終わる。
殆どの食事で俺達は会話をしない。
料理の味に集中するためだ…と思う。
「…」
「なぁに?」
「……。」
「ありがと。」
「何も言っていないが…」
「あら、そうだったわね。」
彼女はにっこり笑うと、皿を片付け始めた。
は気付いているのだろうか。
自分の感覚が鋭くなっているのを。
お前は、ある意味人ではなくなってきている。
しかし鈍感なところは相変わらずで、皿を持ったまま椅子にぶつかっていた。
「……あの、クロエという女には気をつけろ。」
「え?なんで?」
「何でと言われても……そんな気がしたからだ。」
「大丈夫よ。」
警告しているというのに、はさほど気にする様子もなく、窓の外を見た。
「明日も晴れそうね。」
「……ん、ああ…」
「空は、いつも綺麗…」
微かに笑うと、それを俺に向けた。
は静かに立ち上がると、俺の肩に手をかける。
「無茶をしないでね。…時には、休むことが必要だと思うの。」
「……。」
「…なんて私が言っても、ワルターは聞かないよね。」
「……」
そしてそのままベッドに入ると、俺に背を向けた。
きっと、窓の外に広がる星空を見つめるためだろう。
「…そうだ。明日ウィルの家に行くの。水の民の里に行くらしいわ…ワルターも、行く?」
「いや……」
俺はそう言うと、が寝静まるのを待った。
「そう…」と言った後、規則正しい寝息が聞こえ完全に熟睡したみたいだ。
俺はそろりと窓に近づき壁にもたれる。
そこからはの寝顔が良く見え、身体が休まる気がした。
絹のようなきめ細やかな白肌には健康的な赤みが差し、その顔を際立たせている。
流れる銀色の河は、月光に照らされて永久の豊潤を約束していた。
静かに立てる寝息は、この世の生を確かめているようで儚い。
ああ…守らなければ…
これは、義務ではなく俺の想い。
守るために俺は、
空を、翔る。
**************
またデテキタ!エセワルター(笑)
彼は心の中ではこんな詩人なのだろうか!?
なーんて。
きっと恋をすれば、誰しも詩人になれるはずです。
2007/05/06
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