「テューラさん!!」
シャーリィは彼女の名を叫ぶと、そのまま外へと追い掛けて行った。
皆が心配してそわそわし出すとセネルが、完全に傍観者を決め込んでいるマウリッツ殿を見た。
「マウリッツさん、悪いが…」
「シャーリィを追うのだろう。かまわないよ。
しかし、君だけは残ってくれないかね?」
「私ですか?…はい。」
私は席を立たずに手を振って皆を送り出した。
この広い部屋にマウリッツさんと二人きりというのは、少し心が重かった。
何の話かもわからず、ドキドキして待つしかない。
しばらく無言が続いたが、いきなりマウリッツさんが笑い出した。
「そんなに緊張しなくてもいいのだよ。大した話ではないのだから。」
マウリッツ殿は私の隣に座ると優しく笑った。
「あ…はい。」
「ワルターの事なのだが…」
「ワルターの…?」
彼の何を聞かれるのかわからないけれど、マウリッツ殿の雰囲気で危ない話ではないように思えた。
「最近、何か必死にやっているようなのだ。しかし、何をやっているかはわからない。
君は知らないかね?」
「あ…」
確かに、ワルターは何かをやっている気がする。
でも何度聞いても答えてくれず、私もわからない。
「何か知っているのかね?」
「いえ…何かをしているということはわかるのですが、私にも教えてくれなくて。」
「そうか…」
マウリッツ殿は顎に手を置くと考え込んだ。
私はそれを見守るように見つめる。
「私はね、君絡みだと思うのだが…。
最近、何か変わった事はなかったかね?」
その言葉に内心反応してしまう自分がいた。
黒い霧…それに、世界を見守る者…
今まで聞くことがなかった単語が出てくる。
でも、ワルターが何かしていると言ってもそれとは限らないし。
「いえ、特には…」
「そうか…。」
マウリッツ殿は残念そうに溜め息を着くと、気持ちを切り替える様に再び笑う。
「…話は変わるが、ここをどう思うかね?」
ここ……、水の民の里のことね。
私は先程、この里に入った時から今までを思い起こした。
一番驚いたのは私の力を認めてくれたこと。
きっと時間はかかるけれど、陸の民との調和も夢ではないと思う。
「変わりました…。この里はいつか、陸の民との調和がとれると思います。静の滄我も、それを嬉しく思ってます。」
「そうか…。
……
少し、君の滄我を感じさせて欲しいのだが…。」
マウリッツ殿は遠慮がちに言った。
私は微笑みかけると、彼の手を持つ。
すると、彼の表情がとろんと穏やかになっていく。
「なんて穏やかなのだろう…。
シャーリィの滄我は…」
「マウリッツ殿!」
「そうか、君も気付いていたか…。」
マウリッツ殿はゆっくりと手を離してテーブルに置いた。
そして溜め息をつく。
「シャーリィの力はまだ不安定だ。自分の気持ち次第で浮きも沈みもする。」
「はい。」
「感情豊かと言えばいいだろうか…。
それが吉て出ればよいのだが。
君に頼むのは申し訳けないが、サポートしてやって欲しい。」
「そんなこと…。
サポートしてもらうのは私の方かもしれません。」
「…?
君、やはり君は…」
「きゃあああぁぁっ!!」
マウリッツ殿の言葉を遮る様に、テューラの叫び声が聞こえた。
私は素早く席を立って弓を取ると、入り口へ向かう。
「危ない!!」
ドアを開けて外に出た途端、目の前をシャーリィのテルクェスが飛んでいく。
それはテューラを襲おうとしている魔物に当たると、パァンと消え去った。
「キャン!!!」
魔物は悲鳴を上げると、尻餅をつく。
そのまま止めを刺せば魔物を食い止める事が出来そう。
しかしその横に黒い霧が現れ、魔物に力を注いでいく。
私は矢筒から矢を一本回転させながら取り、カツンと弦に番える。
そして力を込めて引いた。
片目を瞑って標準を合わせ、弓を持つ手を固定させる。
ビシュンッ…
そして、放った。
グシャリと魔物の眉間に命中し、その大きな体は横に倒れる。
黒い霧の力を吸い込む前に倒せて良かった。
私はホッとした。
それもつかの間、黒い霧は消え去ることなくテューラを覆っていく。
……ううん、テューラから霧が発生している様。
そんな、まさか…。
どうすればいいか立ちつくしていると、セネル達が私の横に来た。
彼らもどうするべきかわからず、おろおろしている。
その時、
「恐くないよ。
もう、大丈夫。」
シャーリィが恐れることなくテューラを抱きしめた。
彼女は背中を優しくぽんぽんと叩くと、「恐くない。恐くないから…」と慰める。
シャーリィとテューラの間で、彼女らの光の玉が光りだす。
それは煌々と輝き、テューラを覆っている闇を蹴散らした。
霧はフシュウという音と共に消え去ると、テューラは今気付いたように慌ててシャーリィから離れた。
「……がとう。」
「ん?」
「……あ、ありがとう。助けてくれて。」
「無事でよかった。」
テューラは無言になると、自分の足元を見つめた。
それ以上言いたい事があるのだろうけれど、喉につっかえて出てこないみたい。
「少しだけ時間をくれないかな。
わかってくれなくてもいい、話を聞いて欲しいの。」
「……聞くだけなら…」
「ありがとう。」
シャーリィは嬉しそうに笑うと、瞳を閉じた。
「憎しみに憎しみを返すのはね、すごく簡単な事だと思う。」
「な、何を……。」
「だけど、それでは前に進めない。
私がメルネスの力を使って、大陸を消滅させたとしても、私達は幸せになれない。
憎しみをはらす事が、幸せではないんだよ、きっと。」
テューラは、納得出来ないと言う様に拳を握る。
「そんなことないかもしれませんよ。」
しかしシャーリィは、テューラの反応をわかっていたかのように優しく微笑んだ。
「争いに向ける力があるのなら、私は人を信じることに持てる力の全てを使いたい。」
「誰かを信じること?」
「陸の民も水の民もそんなに変わらないよ?一緒にいると、それが良くわかる。」
「だけど、陸の民は私達にたくさん酷い事をしました。」
「そうだね。それは事実だよ。
だけど、陸の民の誰もが酷い事をするわけじゃない。
私は、水の民と陸の民が手を取り合って歩める道を探したい。だから、私はお兄ちゃんたちと一緒にいるの。」
「……」
「これが、今の私の考え。
納得できなければそれでもいい。私を恨みたければ、それでもいい。
それでも私は信じてる。みんながわかってくれる日が来ることを。
……お待たせしました。帰りましょう、皆さん。」
シャーリィに背を向けられると、テューラは困った様に目を泳がせた。
そして唇を噛み締め、シャーリィに問いかける。
「あの!今、あなたは幸せですか?」
「うん!幸せだよ!」
「……そんな笑顔を見せられたら、何も言えないじゃないですか。
すぐには許せない。すぐには納得できないと思います。
だけど、少しずつ、少しずつ、この里にも笑顔を取り戻したいです。」
「うん、がんばろう。」
「だから、それまでは…
それまではあなたを恨ませてください!」
「うん、いいよ。それで皆が楽になるなら…」
シャーリィは再びにこりと笑うと、里の入り口に向かって歩き出した。
私達は顔をほころばすと、彼女にそのまま着いていく。
「よかったわね。」
「ほうじゃなあ。」
「シャーリィちゃんの気持ち、ちゃんと伝わってたわねぇ。」
街に着くともう日も暮れていた。
夕日も沈みきって、夜空には星々が輝いている。
私達はお腹が空いたのなんのって。
ノーマを筆頭に、解散する事を強く望んでいた。
「今日は解散とするか。」
ウィルの一声に安堵すると、皆は自分の家に足を向ける。
「じゃあな。」
「オウ!」
「また、会いましょう。」
それぞれが帰っていく中、クロエだけがその場に残って思案していた。
声を掛けようかと戸惑ったけれど、なんか…
私が声を掛けないほうがいい感じがして。
だから、声を掛けずに宿屋に戻った。
やっぱり、声を掛けておけば良かったと思ったのは、それから数日後のこと。
色々な出来事が、またたくさん、
私を襲いに来る。
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間奏終わりです☆
何も無かった?ので短かったですが、
これでクロエ編が思う存分書けそうです^^
2007/05/27
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