スティングルに呼び出されたのはお昼過ぎ頃。
エルザが散歩がてらにを呼びに来たのだ。



彼女の顔色は良く、病気は良くなった様に見える。
しかし実際は何も変わらず、いつ来るかわからない発作に怯える日々が続いているのであろう。



















今日はちょうどワルターも居たので、三人で出来上がったばかりのスパゲティを食べた。
エルザはしきりにクロエの話をにし、それを聞いている彼女を見て、ワルターは何故かウンザリした顔をしていた。









































「さて、行きましょうか。」

「あ、でも片付けが…」










































エルザは自分の使った食器を重ねると、持ち上げながら言った。
はそんな彼女にウィンクすると、まだ席に座っているワルターに微笑み掛ける。














































「じゃあワルター、あとはお願いね。」

「……」















































彼は無言で彼女を見上げると、少し肩を落とした。







































































「よかったんですか?」

「…え、何がかしら?」









































仲良く手を繋いで歩き、半ばスキップ気味に体を揺らしながらエルザは聞いてきた。









































「ワルターさんに片付けを頼んじゃって…。普段やりそうもないのに。」

「その事ね。いいのよ、普段やらない人こそやるべきなのだから。エルザは普段やってるでしょう、お父さんのお手伝い。」

「はい!」

「だからワルターがやればいいのよ。」

「そうなんですかぁ?うふふ…」











































彼女達は笑い合いながら病院まで歩いて行く。

道々に咲く花がエルザの笑顔を祝福しているようで、もそれが嬉しくて笑い続けていた。



















































「お父さん!」

「エルザ、おかえり。」







































病院の受付では、スティングルが本を読んでいた。
かなり古い薬学のもので、今、一番内容が正しいとされている本。


彼はパタンと閉じると、にも優しく微笑む。








































さんのとこでお昼をご馳走になったの!」

「それはそれは…。だから遅かったのだな?」

「エヘヘ〜」










































スティングルは愛娘の頭をぽんぽんと撫でると、部屋へ行くように促す。
エルザはまだと話したいと駄々をこねたが、彼が父親の威厳で有無を言わせなかった。






































「私、クロエさんの次にさんが好きです!またお話して下さいね!」




































エルザはこう言うと、パタパタと廊下を掛けて行った。






































「さ、こちらへ…」






































スティングルは言葉少なにを導くと、調合部屋に入った。
カチャリと鍵を閉めると、そこは彼達二人だけになる。






































「オルコット殿?」




































が目をパチパチとしばたかせると、彼は再び優しく微笑む。
そして彼女に椅子を差し出し、自分も目の前に座った。






































「前と同じように話して下さい。その方が様とは喋りやすいんです。」

「……わかりましたわ。」





































も笑うと、彼の緊張はいくらか解れたようだった。
そのまま大きな手をすり鉢に乗せると、擂り粉木をゴリゴリと動かす。








































「私に何か用がありまして?」

「はい…。」

































彼は、遠くを見るように窓の外を見た。








































































































はいるか?」







































その頃、クロエは意を決しての部屋のドアを叩いていた。

これは、ガドリアの上官に下された命のことで思い悩んだ結果だった。


















一人で悩むより、思い切って本人に相談した方がいいんじゃないか。

















クロエはそう思ったのだ。




























なら、自分が悩む意味も、その心も分かった上で正しい答えに導いてくれるはず。







































「……」




































のそりと顔を出したワルターの表情が、彼女がここにいないのを語っている。
もし彼女がいるならば、いち早く顔を出すであろう。





































「いないのか…」





































クロエは残念そうにため息をつくと、「失礼した」とドアを閉めようとした。
しかし、ワルターはドアを閉めずに彼女を見つめている。
クロエは不思議に思い、彼の顔を見つめ返した。













うん、ノーマがワルターの事をかっこいいというのはわからなくない











と思ったして。






































「私に何か用か?」

「……貴様、にあの夜の事を話しにきたのか?」

「!?」




































心臓が止まるかと思った。





















まさか、まさか…







































「まさか…お前は見て…」








































開ききった目をぎょろつかせてクロエが言った。
ワルターはそれを不憫に感じると、彼らしくなく申し訳なさそうな態度をとった。
普通の人から見ればほんの僅かな態度ではあるが。









































「空を飛んでいたからな…」

「それで…には…」











































クロエの口からの名前が出た。
すると、ワルターの中の点と点が繋がる。






































「やはり、の事だったのか。」

「……」

「安心しろ、あいつには話してない。

しかし、の言ったことはあながち嘘ではなかったな。」









































クロエは内心びくびくしながら彼を見た。
それが人を窺うような態度で、ワルターは少し苛々する。








































は貴様を信じていると言った。

あれを話に来たということは、あいつは正しかったのだろう。」










































クロエがぽかんとしているうちに、ワルターはガチャリとドアを閉め鍵を掛けた。
これ以上話すことはないということか。





























クロエは「はは…」と渇いた笑いを漏らす。
































ワルターは知っていて…


は私を信じていると言って…


私は信じられていて…































ん?










もしかして、ワルターに認められた?



























「あながち、うそではない」



























そうか、私はワルターに認められたのか。
























信じても良い人物だと…。
























何だか、変な気分だ。

























クロエは階段を降りながらくすくすと笑った。



































あのワルターに私を認めさせるくらい、とワルターの関係は強いのか。



…私も、クーリッジと…



いや…もしかしたら…





































彼女は再び笑った。
















































帰りに色々な場所に寄り道をしながら病院に帰宅すると、受付では泣きそうな顔でエルザが待っていた。彼女は受付の前を左右にうろうろと歩き、自分の不安を更に煽っているようだ。








































「クロエさん!」






































ドアを開けた途端飛び付かれ、毎度のことながらクロエは苦笑した。
しかし、エルザの雰囲気がおかしいので体を引きはがして問い質してみると、オルコットとが消えてしまったとのことだった。











































「お父さんがさんを呼び出して、二人で話をするために調合部屋に入って





まさかお父さん…」

「どうした、エルザ?」

さんと駆け落ち!?」










































エルザの言葉にクロエは目を見開くと、












に限ってそれはないんじゃないか?」











と否定した。









































「ところで、二人がどこか行くとか、いつ帰るとかメモはなかったか?」

「!ありました!これです…」







































エルザに渡されたメモを見ると、すぐ戻ると書いてある。






































「これを見つけたのはいつなんだ?」

「それが、5、6時間前なんです。だから私、心配で…」






































そんなに時間が経っているのはおかしい。
オルコット殿もも、時間にルーズな人ではない。それに、エルザに心配かけるようなことはしないだろう。



クロエの体はそわそわしていた。
二人に何かあったのかと思うと、居ても経ってもいられない。




































「エルザ、二人の向かった場所に心当たりはないか?」






































エルザは考え込むと、突然閃いたかのように手をポンと打った。








































「たぶん、なんとか軍の砦とかいうところです。お父さんがあそこに私の病気に効く薬があるかもしれないとか、さんと相談したいとか零してましたから。」

「ヴァーツラフ軍の砦か…。

よし、私はクーリッジ達に声を掛けてくる。」








































クロエが踵を返すと、エルザがそのマントを掴んだ。
グイと引っ張られたのに驚くと、クロエはエルザを見下ろす。









































「エルザ?」

「クロエさん、お願いです。私も連れて行って下さい!」









































エルザは掴んでいた手を離すと、深々と体を折り曲げてクロエに頼んだ。









































「お父さんが私のために危険に晒されるのは嫌なんです。

それに、さんも。

私も行きたいんです!!」










































クロエは溜め息をつくと、エルザの頭に手を乗せて優しく撫でた。








































「エルザには危ない。

私達に任せて欲しいんだ。必ず帰って来る。

それに私はエルザにこそ危ない目にあって欲しくないんだ。」












































クロエがそう言うと、彼女は諦めたようにしょんぼりとした。
そしてゆっくりと背を向けると自分の部屋に戻って行く。































クロエはそれを見届けると、ウィルの家に向かった。












































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クロエ編の始まりです☆
今回はちょっとオリジナルを盛り込んでいこうと思います。
なんて言っても、オルコットはヒロインのクルザンド時代からの知り合いですか
らね☆
クロエを織り交ぜて、この三人を書いていきたいです☆


2007/05/26