!!」




































セネルの声が響く。







開けた部屋に出て、まず最初にセネルの目に映ったのは、見たこともない魔物に刺されているオルコットと、壁際で驚愕しているだった。






































「お父さん!」




































エルザの叫び声がした。

彼女が父の元へ走り寄ろうとしているのを、ノーマが力いっぱい抑えている。
その前方ではジェイとモーゼスが武器を構え、魔物がオルコットから離れるのを待っていた。









































「大丈夫か!?!」

「あっ…セネル…」










































に駆け寄ったセネルは、彼女の頬を叩く。は助けに来た仲間達を確認すると、肩の力を抜いた。












































「ほら、弓だ。」








































セネルは拾った弓を渡す。そして自分は魔物に向き合うと、拳を構えた。














































「…私…」






































はボソリと呟き弦に矢を番える。



























キリキリ…



























そして慎重に引くと、魔物に向かって放った。




































「ぐうっ…」



































矢は魔物の肩に当たり、その巨体はオルコットの体から離れる。
その隙にモーゼスとウィルは手を伸ばすと、オルコットを引き寄せた。





































「オルコットさん!」




































ウィルの呼び掛けも届かず、彼は荒い呼吸をしながら傷を押さえている。目は虚ろで、意識を保っていられるのも不思議なくらいだ。


















『キュア』
















ウィルとシャーリィが爪術をかける。
すると、オルコットの傷は瞬く間に治っていった。



































「オルコット殿!」



































は泣きそうになりながら寄ってきた。そして持っていた袋を漁ると、包帯を引っ張り出す。





































「シャーリィ、袖を捲って!」

「わかりました!」





































シャーリィはの言う通りに袖を捲った。



























クロエはこの状況が飲み込めずにいた。彼女の頭の中はスティングルという言葉に支配されていたからである。

を見ても、オルコット殿を見ても、スティングルなんて言葉は浮かんでこない。
では何故のスティングルという声が聞こえたのか。



















空耳だったのだろう…。




















彼女は自分の熱を冷ますように言い聞かせた。






















しかしの手伝いをしようと腰を下ろした時、それを見てしまったのだ。






































蛇の入れ墨を。








































「!!」






































クロエの変化に気付いたのか、はすぐオルコットの袖を下ろした。
そしてちらりとクロエを見ると、悲痛な表情を出した。




































「どうしたんだ?……!」





































どうやらセネルも気付いたようだ。
彼はわなわなと震えるクロエに見入っていた。





































「傷、大丈夫そうだね〜。」






































ノーマが明るく言った。
彼女が言う通り、オルコットの傷は大丈夫そうだ。じきに意識は戻るだろう。
とセネルはクロエに掛ける言葉もなく、わななく彼女の体を見つめていた。





































「セの字、手伝うんじゃ!」




































モーゼスが前線から下がって叫ぶ。
魔物の方を見ると、ジェイが素早く避けながら切り付けている。その後ろではグリューネが爪術を唱えていた。





































「…あ、ああわかった。

行くぞクロエ!!」

セネルはクロエに言うが、クロエは袖の下ろされた腕に見入っていて動こうとしない。







































「……。」

「クロエ!」

「!…ああ。」



































クロエは彼の声にはっとすると、入れ墨の隠された袖から目を離した。




は包帯を巻き終えると、クロエの背を追う。クロエ背中は明らかに動揺しており、剣捌きが鈍っていた。






































「ああ、どうしましょう…」

ちゃん、どったの?早く手伝いに行かないと!」

「え…ええ。

エルザ、お父さんをお願いよ?」

「はい!お父さんは私が守ります!!」







































エルザの元気良い返事を聞き、はホッとして弓を持ち戦いに戻っていく。

そして白い弓をしならせ、ありったけの矢を射ちまくる。




































「ぐうっ……

オレは…死ナナい…」








































無数の傷を付けられ、魔物はそう呟いた。












































「この魔物、喋れるのか!?」

















































ウィルの驚きの声が聞こえる。
同様に仲間達の息を飲む音が聞こえた。



































「俺は……ルンだ……」









































魔物は切られた喉からヒュウヒュウと息を漏らしながら呟いた。





























































「俺は……カエルんだ!!」





































魔物がそう叫んだ時、に向かって大きな石が飛んで来た。
あの、牢屋を逃げ出した時の恨みをぶつける様に魔物になった男が飛ばしてきたのだ。








































「っ……」






































ガンッという鈍い音と共に石はにぶつかる事なく弾き飛ばされた。
彼女の前には、刃毀れしたナイフを持つジェイが立っていた。








































「この魔物…まさか…」

「そうなの、ジェイ。」

「……あの男ですか。」









































ジェイは気付いた様だ。
刃毀れしたナイフを捨てると、ポケットから新なナイフを取り出して構える。











































さんを襲い、僕が追い払ったクルザンドの牢番の男…」

「ええ…。」

「こんなことになっていたんですね。

……彼は、再び人間に戻れるんですか?」



































ジェイの問いに、は静かに頭を振った。



































「…彼はもう、クルザンドに帰ることを許されません。」




















































は、ジェイの問いを確実に返答したわけではなかった
。しかし、ジェイには充分過ぎる答えとも言える。











































「そうですか。」

「………でも…」






















































はゆっくりと瞼を閉じ、頭の中に自分の知るクルザンドの全てを思い描いた。



砂漠に囲まれたこじんまりした国、暑い太陽。

雨の恵みに歓喜し、酒を酌み交わす人々。

そして、干上がる井戸に縋り付く痩せ細った人々。

戦いに傷つき、亡くなっていく人々…。



クルザンドの素晴らしいことから醜いことまで、は全ての思い出を鮮明に浮かべた。










































「彼を救ってあげることは、出来るかもしれない。」








































彼女は力強い眼差しを魔物に向けた。








































「…それは、あなたの力をもって、という意味でしょうか?」








































ジェイは鋭い眼光をに向けた。
それは彼女の心に痛く突き刺さる。


しかしは誤魔化すことなくそれを受け入れ、答えた。


































「はい…!!」

「わかりました。

では、その手助けは僕がしましょう。」

「ジェイ…」

さん、あなたはこれ以上傷つく必要はありません。」




































ジェイは、ナイフを構え直した。

















































セネル達にとジェイの会話が聞こえるわけもなく、彼等はどうしてよいかわからずに立ち尽くしていた。
これ以上に武器を構え続けるべきか、下ろすべきか。


























いや、下ろすべきだ。

























セネルはそう考えると拳を下ろした。





























あの二人の会話は聞き取れないけれど、今から何かをするつもりだ。
それに、俺達が手を出しては駄目なんだ。





























雰囲気的にそれを読み取った気がした。


















セネルは複雑な思いで二人を見つめている。
他の仲間達も、彼と同じ様に二人を見つめている。

















クロエを除いては。





































*************

ジェイとヒロインの久々共同作業。

彼女が傷つかないために、自分を傷つける。

2007/06/05









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