「お父さん、大丈夫?」

「エルザか…?」













オルコットはゆっくりと見渡した。
彼を心配して覗くように見つめている者達に笑い掛ける。













「…すまない、私は…」

「オルコット殿!」











は仲間を掻き分けて彼の手を握った。













くん…」

「無事で良かった。私を庇うなんて…!!」

「すまない…」











オルコットは立ち上がると、部屋の奥へと足を向けた。そして戸棚の中にある薬を眺めると、その一つを掴み出す。












「これだ…」

「それね…」











彼にを支えるように寄り添うも呟く。












「ここへの用事は終わった。皆さんありがとう。」











オルコットはそう言うと、先頭をきって歩き出した。






















歩いている途中、セネルがこっそりと話し掛けて来た。はその困惑顔を見て、セネルがオルコットの正体に気付いたのだと思った。












「オルコットさんは…」

「セネル、言わないで。」

「やっぱり、そうなのか…」

「ええ。」

「クロエも気付いてるな。」

「……ええ。」











はこくりと頷くと、前を歩くオルコットとすぐ後ろで一方の手で剣の柄を握り、一方の手で柄を抑えているクロエを交互に見た。












「これは二人の問題だから、私は何もしないわ。」

!」

「お願い、セネル…」

「俺は……見ているだけなんて出来ないと思う。」

「セネル…」










セネルはに背を向けると、そのまま前に走っていってしまった。

彼女の、クロエの横に。






は小さく溜め息をつくと、空を見上げた。
ちょうど砦を出て、夕焼けが見えたのだ。













「私は、私がやるべき事を見極めなければ。」











彼女はそう呟くと、仲間に遅れぬようダクトへ走った。










「皆さん、今日は本当にありがとう」








ウェルテスの街に着くと、オルコットは振り返って頭を下げた。つられるようにエルザも頭を下げる。











「無事で良かった」

「ほんと、こうしてちゃんと帰ってこれてよかったね〜」

「あの…」








無事を喜ぶ中、一人浮かない顔のクロエがおずおずと切り出す。











「オルコット殿に聞きたいことが…」

「ゲホッ…」








しかしエルザの発作が始まり、オルコットは娘を支える。
そしてクロエに「すまないがまた今度にしてくれないか…」と断りを入れた。
クロエは一瞬唇を噛み締めたかと思うと、下を向いて「はい」と答えた。











「では、おやすみ」

「はい…おやすみなさい」









オルコットはそう言うと、娘を支えて静かに歩き出す。
クロエはその背中をずっと見つめ続けていた。
そして、そんなクロエの背中をセネルが心配そうに見つめている。











スティングルとクロエの運命が、再び廻り始めた。
はそう思うと、小さく溜息を漏らした。










その後、皆は問題なく解散しそれぞれの帰路に着く。
も同じようにノーマとクロエと共に病院・宿屋に向かう道をとぼとぼと歩いていた。










「私は少し散歩してくる」








クロエはそう言うと、二人が言葉を発する前に彼女らから離れた。
とノーマは目を見合わせると、クロエの背中を目で追う。










「クー、どうしちゃたんだろ」

「ええ…」

「背中がなんか、丸いんだよね。

きっとなんか悩んでると思うんだ〜」

「声、掛けないの?」








悩んでいることに気付いているのに、何故声を掛けてあげないのか。
はその理由が気になった。












「うん。それはあたしの役目じゃない。

セネセネの役目だから。」

「セネルの…?」









そう、なんだ。
クロエとセネルは、私の知らないところで深く深く繋がっている。


はそう気付くと、今すぐセネルに会わなければ行けない気がしてきた。











「私、セネルのとこ行って来る!!」

「今から?

いってらっしゃい、気をつけてね〜」










ノーマはひらひらを手を振ると、ドアを開けて宿屋に入っていった。
はそれを見届けると、セネルの家に向かって走り出した。
























「セネル…」

!」














はノックもなしにセネルの家に入り込むと、つかつかと彼の前に歩いて行った。












「あのね、セネル…」

「クロエは迷ってる。」











セネルはの言葉を無視して呟いた。
はクイと首を傾げて彼を見ると、小さくため息をつく。















「オルコットさんを…スティングルをどうするか。迷ってるんだ。」

「ええ…」












はセネルの横に座ると、彼の肩に手を置いた。















「わかってる。わかってるわ。」

「…ああ。」

「だから、セネルも落ち着いて。」

「俺は落ち着いてる。」

「落ち着いてない。」













はセネルの顔を覗くと、口元に笑みを浮かべた。













「セネルがクロエのことをどんなに思ってるかわかってる。私だって、心配だもの。

でもね、クロエの身になって悩んでは駄目。それでは復讐に支配されてしまう。」












はセネルの両頬を優しく撫でる。













「復讐からは何も生まれない。」












さらり、さらりと撫でる。
そのうち、セネルの頬が赤くなっていった。













「憎しみは、新たな憎しみを生むだけなの。

オルコット殿は、ううん、スティングルは、この思いに決着をつけると言ったわ。だから、私達はあの二人を見守らなければならない。

あの二人が、人としての道を外れないように。」












の手はセネルの頬を越え、そのまま背中に回された。
そして、彼を優しく抱き寄せる。














「お願い、セネル…」













セネルも頭の中ではの意見が正しいのはわかっていた。しかし自分の性格からすると、それはなかなか認められずにいるのだ。






復讐は良くない。
憎しみは憎しみを生むだけ。
その通りだ。

でも…





しかし、彼のその考えは途中で止まらざるを得なくなった。
彼は何よりもの行動に心揺られ、冷静に考えなければいけなくなったのだ。














「…、散歩に行こう。少し考えたいんだ。」

「わかったわ。」












は赤ら顔のセネルから離れると、にっこりと笑った。












彼らは仲良く並んで歩き、時には笑い合って体をくっつけたりした。はそんなことを気にもせず、楽しそうにしていた。セネルはそれを少し嬉しく、少し悲しく思うと、先程のクロエの件を考えた。



俺は、どうしてやりたいんだろう。



彼の頭の中に浮かぶのはこの言葉だけであり、他は別段なかった。
セネルにとっては、自分がクロエに何をしてやれるかが重要なのだ。


セネルが無言になってしばらく歩くと、は急に足を止めた。セネルも同じ様に立ち止まると、の視線を追う。
そこには、夜盗をコテンパンにのしているクロエがいた。彼女は留めを刺そうと、剣を構えている。















「やめろ!!」














驚いたセネルは、名を呼ぶとを置いて走り出した。















「そんなザコに留めを刺したって、何にもならないだろ!!」













セネルは階段を駆け上がりながら叫んだ。
彼の声を聞いたクロエはビクと顔を上げ、苦痛を伴った表情で声のした方を見た。














「クーリッジ…」













クロエは唇を引き締めると、構えていた剣を鞘に収めて歩き出す。
恐怖に襲われていた夜盗はそんなクロエを見つめるだけでもう、やり返す気力もないようだった。














「クロエ!」












セネルがもう一度叫ぶ。
しかし彼女は足を止めることなく彼の横を通り過ぎ、の横を過ぎて行った。














「…どうしたんだよ…」












彼はクロエの足取りを追うように目を向け、そして呟いた。














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クロエの頭の中は葛藤中です。



2007/09/18









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