夕闇の中で悔しそうに呟くセネルを、は静かに見守っていた。


セネルがどんなに仲間を思っているか、クロエを思っているか…知らないクロエではないだろうに。










「きっと、セネルが親身になってくれるのが辛くて相談できないんだわ」










がこういうと、セネルはハッとしたように彼女を見る。
そして再び悔しそうな顔をすると、彼女の肩に額を乗せた。











「セネル?」

「一人で抱え込みやがって…」










強く握り締める彼の手にゆっくりと触れる。
力強い筋肉が固くなり、ぶるぶると震えているのがわかった。


セネルの怒りと悲しみが、一気に伝わってくる。


彼の思いを受け止められなくては思わず手を離してしまうが、セネルはそれを許さなかった。離れた彼女の手を掴むと、握り締めたのだ。
















「クロエは前、こう言ったんだ。

『お互いの事情を知った今、私達はもっと、協力しあえるはずだ』

自分で言った事、嘘だったとは今さら言わせない」

「セネル…」

「仲間と協力することの意味を、俺はクロエに教えられたんだ。

だから…」












セネルはそこまで言うと、の手を離した。
そして夜空を見上げるとふと肩を落とす。













「俺は、クロエを助けたい」













彼は決意したように言った。
いや、前からの強い思いを新たに確認したという方が合っているかもしれない。















「だから、にも協力して欲しいんだ。仲間として。」

「……ええ、そうね…」














は二つ返事しか出来なかった。
彼の話をまともに捉えていなかったわけではない、返事が出来なかったのだ。















「もう遅いし、送るよ」

「ありがとう、セネル。」















セネルはその意味が分かっているのか、彼女を責め立てることはしなかった。
それどころか、優しい言葉で送ると申し出てくれたのだ。

はそれに感謝すると、言葉に甘える事にした。











これが仲間なんだわ…

私も、頼ってもいいのかしら。










そう思いながら、しかし自分の運命を考えると「出来ない」と首を振った。
















、おやすみ。」

「おやすみセネル、良い夢を」















セネルは彼女が宿屋に入るまで見ていてくれた。

































             *

































朝、いつもと同じ様に朝食を用意し、パンを切り分ける。少し固くなったパンを見つめながらは目を瞑った。



クロエは…どうするのかしら…

スティングルは…どうするのかしら…



友達のクロエの気持ちよりスティングルの視点から見てしまう、きっとそれは自分がクルザンドの人間だからであろうと思った。
やはり、こんな時も国の違いは心の違いに現れる。

実は昨日の二つ返事はこれが原因だった。
仲間だと思うクロエ、しかしもっと長い時を近くに居たスティングルの気持ちが優先してしまう。

は根っからの、クルザンドの王女なのだ。















「具合が悪いのか?」














目を瞑ってしばらく経つ彼女を見咎めてワルターが言った。
はパッと目を開き笑顔を作り、彼に心配かけない様に笑う。














「大丈夫よ、心配しないで。」

「心配など……していない。」













彼は不機嫌そうにそっぽを向くと、黙って席に着いた。はくすりと笑うと、自分も椅子に座る。



カチャ…

カチャリ…



スプーンが皿に当たる音だけが響き、この部屋はそれ以外無音だった。














ワルターも無口だし、私も必要以上は話さないから…












は再びくすりと笑う。いつもと変わらぬ朝が今日は何だか、心地良い気分だった。












その報せが届いたのはワルターが出掛けて数分後だった。顔を真っ赤にしたクロエが、息を荒く駆け込んで来たのだ。彼女は昨日の出来事を忘れた様にへと掴みかかり、必死な顔で訴えた。















「エルザが、エルザの具合が悪いんだ!!!」













はクロエに飲み物を渡すと、落ち着くように諭す。
クロエは飲み物をゴクゴクと飲み干すと、再びに向き合った。












「昨日の無理がたたって、病状が限界まで来ているらしい。

このままではエルザの体力でもつかどうかわからないそうなんだ。」












クロエの言葉を聞くと、は急いで仕度をし始めた。手元にある薬草、道具等全てをかき集めてバックに突っ込む。そして病状に関する本を手に取ると部屋を出た。


隣を歩くクロエは心なしか震えていた。
自分の事よりもエルザの病状を気にして走ってきたクロエ、彼女は本当に優しい人なのだと実感する。















「クロエ手を繋ぎましょう?」

「手を?」

「ええ、私心配なの。だから…」

「わかった。」














クロエは自分の手をごしごしと服にこすり付けると、の手を握った。
その手は、人としての温かみが溢れている。













の手は、冷たいんだな。」

「そう?ごめんなさい。」

「いや、何で謝るんだ?」

「そうね、ふふ…」













彼女達はお互いの手を離さぬよう握り締めた。















「容態が芳しくないのですか?」

くん……ああ。

もう、病気を根源から取り除くしか方法はない。」














病院に着くと受付に、オルコットとウィルとシャーリィ、セネルとノーマがいた。
クロエがパッと手を離したので、は受付に歩いていった。














「その薬の材料は揃っているんですか?」













シャーリィが問う。彼女の問いにオルコットは浮かない顔をした。
















「最近は魔物の凶暴化もあって、なかなか揃えられないでいるんだ。」















そう言うと、彼は受付の台をドンと叩いた。
見た目はいつもと変わらず冷静に見えるが、中身は相当焦っているようだ。















「材料を教えてくれ、私が取りに行って来る。」














その時、クロエが迷う事なくそう言った。
その言葉を聞いてセネルもウィルもノーマも、シャーリィも頷いた。
















「しかし、それでは君達に危険が…」

「そんな事を言っている場合じゃない、今はエルザの命がかかっているんだ!!」

「セネル君…、わかった。皆さんにも手伝ってもらいたい。」














オルコットはそう言うとを見た。
何か、言いたそうにしている。

は「何?」という目線を返したが、彼が何か言う事はなかった。














「私達は地のモニュメントに行ってクモのマユを取ってくればいいんだな?」

「お願いする。私は帰らず草を取りにいく。」













クロエは支度すると他の仲間達を呼びに走った。
シャーリィもそれに着いて行く。

は持ってきた薬草や道具を病院のソファに置くと、必要なものだけを取り出し始めた。
そして小さなバッグに纏めると矢筒と一緒に腰に巻く。















様」














その時、小声でオルコットに話しかけられた。
振り向くとかれは、申し訳なさそうに呟く。















「私に何かあったときは、エルザをお願いして宜しいでしょうか。」

「え、何があるというの?

…いえ、何か起すつもりなのね?」

「……」














彼は答えなかった。しかし彼が何をやろうとしているのかは想像がつく。















「私は何も言わない。貴方がが決めた事なのだから…」

「有難う御座います。」

「でも……」












はフワリと微笑んだ。
彼女は全てを知った上で悲しく辛い笑みをオルコットに向ける。














「貴方は、エルザのことを一番に考えるべきだわ。

今までそうして来た様に。これからも」

「私は・・・」

「行くぞ、!!」














オルコットの声を遮るように外からセネルの声が聞こえる。
それを好機と思いは彼を残して外に出た。















「何してたんだ?」

「オルコット殿と薬草について話していたのです。」















ウィルに聞かれてすんなりと答える。
の言葉にウィルは疑いを持つ気配もなかった。















「さ、行きましょう」
















は皆を促すと、灯台へと足を向けた。


















***************

仲間と昔馴染み?の間で揺れる心。

どちらのためにも、良いほうに転ぶよう
頑張りましょう。


2007/09/18







65へ