〜♪



……懐かしい音楽が聞こえる。
音楽っていう例えは変だな。

そう、旋律っていうのか?

なんかこう、心休まるというか温まる感じだ。

昔……幼い頃に聞いたことあるような気がする。

なんだっけか、この旋律は……













「クロエ!!!


……っう…!!!!!」












彼は上体を勢い良く起き上げる。
そして腹部に激痛を感じると、それを庇うように体を折り曲げた。

自分の唸り声の後に消えた懐かしい旋律。
それを少し寂しく感じながら、セネルは腹を摩った。













「セネル、大丈夫?」












聞こえたのはこの手で守りたいと思った少女の声。
しかし自分は先程までこの少女のことを後に置き、もう一人の少女を止めようと躍起になっていたはずだった。












…」











目の前で心配そうに自分を見る少女の名を呼ぶ。
彼女は無事で、自分も生きているのか。













「クロエは!?」












途端、セネルの脳裏に浮かんだのはもう一人の少女クロエの顔。
彼女の最後の顔は、決意して、ここに戻らないつもりで……自分を刺したことを酷く後悔した顔だった。













「クロエは、行ってしまったわ。」












がそう言うと、セネルは何も言わずベッドから降りた。
そして痛みが走る腹部を押さえ、一歩、一歩と足を前へ踏み出す。













「行かないと…クロエが…」

「……ええ……」

「クロエは、戻って来ないつもりだ……」

「……ええ、彼女を助けに行きましょう。」











はセネルの体を支えると、一緒にゆっくり歩き出した。



































クロエとセネルのぶつかり合い、それはセネルの勝利だった。
彼はクロエの剣技をひらりとかわすと、彼女を傷つけないように蹴りを入れ、拳を唸らせる。
そしてクロエが座り込むと、もう勝負は決まったようなものだった。













「クロエ、もうやめ…………ろっ…」











セネルが再び彼女を止めようとした時、クロエは剣を構えて彼の腹に突き刺した。
ズシャという音が響き、セネルの瞳は驚きのために飛び出しそうになる。













「かはっ……」

「セネル!!!」











は彼に起こった状況を見て焦り、黒い霧を逃れようと必死に抵抗する。
自らの首を爪で傷つけながら、黒い霧に掴みかかった。













「セネル!セネ…ル」












しかし霧は彼女の首を外れることなく逆に締め上げていく。














「言ったはずだ。覚悟がなければ、死ぬと……。」

「クロエ、お前……。」












クロエはセネルから目を逸らし、彼の腹から思い切り剣を抜いた。












「げほっ……かはっ……」











セネルはその反動で地面に倒れこむ。
そして苦しそうに咳き込んだ。














「お前を傷つけた私に、もはや戻れる場所はないな。

お蔭で覚悟を決められた。ありがとう、クーリッジ。」

「ふざけるな…そんな…ありがとうがあるかよ…

俺は、認めないぞ……」














セネルは立ち上がろうともがく。
しかし彼の体は痛みに言う事をきかず、地面の上を放り出された両足がばたつく。














「……何故、止めに来たんだ?」

「クロエは仲間・・・だろ、も皆、大切な……仲間だろ…

……だから、行くな……」

「その言葉を素直に受け取れれば、よかったのにな。」

「……クロエ…」

「い…今からでも、間に合う…わ。」














セネルの代わりに、が答えた。
クロエは悲しそうな顔で彼女を見ると、静かに首を振る。














「……クロエ、まだ…間に合う…」

「それは、ない…」

「なく、ないわ…」












クロエは踵を返すと、セネルを置きの横に来た。
そして彼女を締め付けている黒い霧に触れると、それを跡形もなく取り払う。















「クロエ…」


「貴女は、私を止めないだろう。」

「……ええ、私はあなた達を見守るだけ」

「スティングルの次は、貴女も覚悟して欲しい。」

「……」

、クーリッジを頼む。

急所は、外したから……」















クロエはそう言うと、歩き出した。
オルコットのいる帰らずの森へ赴くために。














「クロエ……行くな……」












セネルがうわ言の様に呟いた。
その瞳は虚ろで、もう殆ど意識がない。














「心地良いはずの言葉が、今は全て痛みになる……」














クロエはそう言うと、その場を後にした。
意識を放そうとするセネルの元に、が跪いた。そして彼の手を取ると一言。















「ごめんなさい、セネル。」















と呟いた。

















********************

本当はこんなこと、したくないんだ……!!


2007/10/03








70へ