「なぁ、

「何?」
















セネルはの肩を借りながら、一歩一歩とゆっくり踏み出していた。
そしてふう、と溜息をつくと彼女を見る。














「さっき、歌ってたか?」

「……ええ。聞こえたの?」

「ああ。

夢心地に…なんだか、懐かしくて。」

「懐かしい?」

「ああ。」













セネルはそう言うと、何かを思い出そうと立ち止まった。
そして目を瞑って腕を組む。













「なんかこうしてる場合じゃないんだけどな。思い出したいんだ。」












彼はそう言うと、再びゆっくりと歩き出した。




〜♪




その時、が横でハミングしだした。
それは美しい旋律で、あまりにも滑らかで人の声で紡がれているようには思えない。
セネルは立ち止まると、ぽかんとを見つめる。














「〜♪……と、これだったかしら?」

「えっ…あっああ。」

「どうしたの?」

「いや。

……、今本当に歌ってたのか?」

「そうだけれど?」

「……」
















セネルはもう一度彼女を見つめると、何も言わずに歩き出す。
















「セネル?」

「……」

「このメロディは……」

「……」














の言葉を遮るように、セネルは再び立ち止まって振り向く。

















「「クルザンドの子守唄」」
















そして彼と彼女は同時に言った。
















「やっぱり、クルザンドの子守唄だったか。
俺の遠い記憶の中で、誰かが歌ってる。

……俺も、クルザンド出身だからな。」

「そうね。」

「……ホントはさ、クロエにとってもオルコットさん…いやスティングルもクルザンドがどうのとか、関係ないんだろうな。」

「え……?」
















セネルは遠くを見るように、顎をくいと上げた。そして目を細めると、帰らずの森に向かうクロエを追っているかの様。
そして、その向こうにいるスティングルにも向いている気がする。
















「あいつは、俺のことをクルザンドだからなんて言わなかったし」

「それはセネルだからで……」

のことだって、クルザンドがどうのとか言ってたけど結局殺さなかっただろ。」

「……ええ。」

「なんでなんだろうな……」

「逃げてるのよ。」

「え?」

















セネルはの鋭い言葉に目を見開いた。
クロエが逃げてる?















「迷ってる、じゃないのか?」

「ええ。迷いは逃げから出たものよ。」

「……じゃあさ、は手を差し伸べないのか?」














セネルは彼女の虚を突いた様だった。
今度はが目を丸くしてセネルを見つめる。
















「ほんと言うとね、何度もそうしたいと思ったのに出来ないの。私は、このことに関して手を出してはいけないのよ。」

「誰が決めたんだ?」

「わからないわ。ただ、私は手を出してはいけないの。」















はそう言い切ると、もう喋る事はなかった。
セネルは納得できないという顔になると、気持ちを切り替えるために彼女の歌った旋律をこだまさせながら仲間がいる病院へと入っていった。
















「セの字、もう大丈夫なんか?」

「ああ、心配かけたな。」














セネルはの肩から離れると、ウィルとシャーリィにブレスをかけてもらう。
そしてピンピンした体をストレッチした。














「クッちゃんは、なんでセの字を刺すなんてこがあなこと…」

「それは……!!」













モーゼスの言葉に、は自ら口を開いた。













































「……オルコットさんがスティングル!?」














仲間達の驚く顔が痛々しかった。
何も気付かずに協力してきた中でクロエだけが悩んでいたのを知って、居たたまれなくなったのだろう。















は最初から気付いていたのか?」

「ええ。クロエを迎えに行った後、林で会った時から……」

「何で言わなかったんじゃ!!!」














モーゼスがに掴みかかろうとしたのを、ジェイが振り払う。














「言えるわけないじゃないですか。スティングルは僕達の敵だったんですよ?さんはそんなこと言いませんよ。

でも、僕とした事がこんな事に気付かないなんて。オルコットさんが何故ヴァーツラフの隠し砦にさんを連れて行ったのかわかりましたよ。」

「あっ、そっか。ちゃんがクルザンドの王女だって知っててか。」

「はい…」














ジェイは喉に突っかかった小骨が取れたかのように、謎が解けてスッキリしたという顔をした。
がそれに頷くと、右側にある纏め髪をパッと払う。















「オルコットさんは、こうなるとわかっていたのだな。」

「でなきゃウィルっちに、薬の調合方法なんて教えないだろ〜しね。」

「でも、どうするんですか?

相手がスティングルで、さらに両親の敵であるなら、クロエさんの行動には正当性があります。」

「家族の敵を討つんじゃしのう。」

「クロエは、まだ迷いの中にいる。」

「迷った人間が、セの字に、剣を向けるとは思えんがのう。」














セネルは無言になると、モーゼスの顔をじっと見た。
モーゼスも同じようにセネルを見返す。















「クロエちゃんが幸せになれるなら、それが一番いいのよねぇ。」















グリューネの発言に、セネルは深く頷いた。
きっと今、クロエのことを一番わかっているのはセネルなのだろう。















「敵討ちをして、クロエがわらっていられるとは思えない。あいつ、ここのところずっと辛そうな顔してた……。」

「お兄ちゃん…」

「オルコットさんを斬れば、過去の憎しみは消えるかもしれない。けど、その先にあるのは、新たな苦しみだけだ。」

「ま〜そうだね。あたしらだって後味悪いし。」

「だから、俺はクロエを止めたい。止めなくちゃいけないんだ。

このまま放っておいたら、あいつ、きっともう戻ってこない!」

「セネル……

そうよ。クロエはきっと皆に迷惑掛けるからって戻ってこないわ。そんなこと、ダメよ……」















がそう言うと、仲間達は皆それぞれにクロエを思い出す。
そして彼女がそういう人間だという事を改めてしらしめられる。
















「みんなはそれでもいいのか?こんな別れ方でいいのか?

俺は、納得できない。だから……!」

「セの字の言うとおりじゃ。家族の別れ方はこんなんと違う。」















一番最初に反応したのはモーゼスだった。
彼は家族を誰よりも大事にする兄貴分として、クロエを放っておけないのだろう。

モーゼスの言葉に誰もが心を打たれ頷いた時、階段の上からエルザが降りてきた。
彼女は神妙な顔でセネルを見ると、ぽつりぽつりと話し出した。














「私、お父さんのこと、なんとなく気付いてました。さんのことも、お父さんは普通に喋っているようだけど敬っているように見えて……。きっと高貴な人なのだと思ってました。」













エルザは項垂れると、消えそうな声で話し続ける。














「薬草を採りに出掛けたはずなのに、戦いの傷を負って帰ってきたことがいままで何度もありました。その度にお父さんは誤魔化そうとしてたけど……、見ればわかっちゃいます。

全部、私のせいなんです!

お父さん、私の病気を治すことしか考えてないから。」













そんな彼女の肩を、セネルは優しく叩いてやり、は抱きしめてやった。













「自分を責めるな。抱え込んだところで何も解決もしない。」












エルザは頷くと、目の前に立つセネルを見上げた。
そして、













「私も連れて行ってください。お願いします。」












と言う。













これが覚悟した瞳だ。












セネルはそう思った。
クロエのとは違う、全てを受け入れる覚悟が出来た瞳だ。















「辛い思いをするかもしれない。それでもいいのか?」

「はい……だからこそ、ちゃんと見届けたいんです。」

「わかった、一緒に行こう。」












セネルはそう言うと、に抱きしめられているエルザの頭をぽんぽんと撫でた。

















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仲間だから、救いたいんだ。


2007/10/03









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