鬱蒼とした森を、ずんずん歩いて行く彼らは、終始無言だった。
こんな雰囲気ではいけないと思うけれども、誰もが他の事を話題にするのは憚られたのだ。
そんな中、この事件…当事者達に最も立場が近いだろうエルザがこの雰囲気に終止符を打とうと口を開く。













さん」












彼女は隣で自分と手を繋ぐに話しかけた。














「どうしたの?エルザ。」

「私、さんはお嬢様だと思ったけれど、まさか王女様だとは思いませんでした。」

「あら、本当?でも、掃除も洗濯も料理もする王女様なんていなくはないかしら?」














は片目をパチッとつむって見せると、口元をゆっくり半月にカーブさせた。














「あ、そういえばそうですね!でも、さんの場合はちょっと違うんです。」













エルザはそういうと、首を傾げて考え込む。それを助けるようにシャーリィが彼女らの横に並ぶと、笑いながら言った。













「纏ってる雰囲気が皆と違うんだよ。」

「あっ、それあたしもわかる〜!」











シャーリィに続いてノーマも話に入って来た。
の話題は次々と伝染し、一緒に歩いている仲間達全員でエルザとを囲んでいく。















って凄く家事が似合うけど、本当は全部凛とした態度なんだよな。だから王女って言われれば、そうか!って思う。」

「そうじゃな。は普段は家族なのに、ほうじゃない時があるのう。」

「ああ、そこがの王女の時なのだろう。」












言われ放題言われたが、は仲間達の意見を黙って聞いていた。
自分がどう思われているかなんて滅多に聞けないので、今後の参考にと耳をそばだてている。













「とにかくさ、ちゃんはどこにいても一生、クルザンドの王女って事だね!」













そう締め括るノーマの言葉に、セネルとははっと息をのんだ。












私は一生、クロエ・ヴァレンスなのだ。










クロエのあの声が聞こえた気がしたのだ。















「どったの?」

「いや…」












セネルは何事もなかったかのように否定したが、はしなかった。
それどころか、













「私も……一生、・ボラドなのね。」














と溜め息をついたのだ。















…」

「……あ、あらごめんなさい。」














は自分の失態に気付くと、取り繕うように笑った。














も色々考えることがあるじゃろうなぁ。」

「少なくともあなたの数百…数千倍はあるでしょうね。」

「ジェー坊!!!」














モーゼスは珍しくジェイに突っ掛かる事なく、一人で討ち打ちひしがれている。

エルザ達女性陣の笑いが絶えぬ中、モーゼスが突然「お」という声を上げた。















「この道、前はあったじゃろうか?」














彼は唐突にそう言うと、二つの別れ道を指差す。
確かに、通ったことのない道だ。
















「見たことないですね。おかしいなぁ……」















遺跡船のことで知らないことはないだろうジェイが言うのだ。本当に新しく出来た道なのだろう。














「誰かが、私達をクロエさんのところに行かないようにしているみたいですね。」

「シャーリィ、それは…?」

「推測だよ、お兄ちゃん。」













シャーリィの言った事は強ち違わないだろうとは思った。なぜならば、普段はこんな時でもぽーっとしているグリューネが何かを考え込んでいるからだ。
彼女は唇を引き締めて何かを一心に感じ取ろうとしていた。
自分とは少しでも相容れないものがあれば、即座に感じ取りそうなくらいグリューネは真剣だった。一瞬、彼女の記憶が戻ったのかと思う。















「グリューネ?」

「……」

「グリュー……」

「だめ、ちゃん!!!」















グリューネが突然手を伸ばしてきたかと思うと、の体をスルリと抜けた。














「えっ!?」












肉体は存在しているのだからありえないことだった。
誰が触ったとしても、の腕を掴むことが出来るはずなのに。














「これ……一体……」

さん!!!」














ジェイが異変に気付き、グリューネと同じように彼女を掴もうと手を伸ばす。
しかしその手も空を掴んだだけで、の髪の毛一本も掴み取れなかった。















ちゃん!!!」
















グリューネが怒ったようにを睨んだ。
いや、の後ろにいる人物を睨んだのだ。















「何をするの!?ちゃんを、返しなさい!」














グリューネの叫びは独り言のようにその場に消える。
彼女とを困ったように見つめる仲間達。















「貴女には、許されない事なのよ!!!」















グリューネは依然仲間達には見えていないだろう人物に語りかける。
しかしその者が言葉を発する事はない。















ちゃん、待っていて!絶対助けに行くから!!」














グリューネはその者が言葉を返してこないことを悟ると、諦めてを見た。そして安心させるようにこう言うと、いつもの笑顔で笑った。














「はい……!待ってます、グリューネ。」














が言うのと同時に、彼女は仲間達の場所からどこかへと飛ばされてしまった。





















































「私を、どうするつもりなの?」












は冷たい声で言う。
彼女を仲間達の場所から攫ったその黒い霧は、いつものようにあの女性に変わった。

女性はいつものような余裕はなく、多少焦っている感じがした。
しかしマスクをしているため表情が見えなく、何かにつけいれて逃げるということは到底出来ないだろうと思う。














そなたはこちらから遠ざかりすぎた……




「何?どういう意味……?」




世界を見守る者は、ヒトであってヒトではない。しかしそなたは……ヒトだ。




「……」





そなたはあらざる命運により、消え去るだろう。






















最初はこの黒い霧の女性が何のことを言っているのかわからなかった。
しかし良く考えてみると、なるほど簡単な事だ。





















「私が貴女にとって都合悪い方に転んでいるから、消すと言うの?」




……




「だから、グリューネが許されないことだと言ったのね?」




……




「……私を、クロエの元に連れて行くつもりね。そしてクロエに、私を殺させるのだわ……」




……命運は、どこにでも転がっている。

そなたが真の選定者ならば、あらざる命運に屈することはないだろう……





「貴女が決めた運命に抗うわ。絶対に、屈することなんてない……!!!」


















がそう言うと、黒い霧の女性は消え去り辺りが少し明るくなった。
目を慣らして周囲を見渡すと、森のどこかに降り立ったのだとわかる。
仲間達の姿はなく、代わりにそそり立つ木々に見下ろされている。

















「あの女性は、何を考えているの……?」















は心細いという気持ちを心の奥に閉じ込め、続く道に足を向けた。


仲間達と出会うことを願いながら。
そしてその願いが叶わないと知りながら。






















*********************

運命は、私自身で選ぶのです!


2007/10/05








72へ