「…っくそ!!」












セネルはが消えた場所を見つめながら悪態をついた。
他の仲間達も、それぞれ苦虫を噛み潰したような顔をしている。












「姉さん、なんか知っとるんか?」











モーゼスは遠くを見つめているグリューネにつかみ掛かった。彼女はふっと瞼を閉じると、彼の方を向く。













ちゃんは、掠われたの。」












グリューネは酷く真面目な顔で言った。
モーゼスは目を見開くと、「そんなのわかっとるわぁ…」と呟く。











「グー姉さん、何か思い出したの?」











ノーマはグリューネの袖を掴むと、ぐいぐいと引っ張る。
しかしグリューネは首を横に振って、申し訳なさそうな顔をした。













「ごめんなさい、ノーマちゃん。私にもわからないの。ただ、ちゃんが危ない…」

「危ない?」

「ええ。早く行かないと殺されてしまう……」












グリューネの声は次第に細くなっていく。
まるで最後の部分を聞かれたくないようだ。













「クロエがこんな時に!!」












セネルは再び悪態をついた。
その間も、ウィルは次の事を考えて仲間達を二手に分けだす。














ちゃんとクロエちゃんは、一緒にいるの…」












グリューネが言った。
それぞれが「何故?」と思う中、セネルだけが気付く。














「もしかして、を殺そうとしているのはクロエなのか!?」














セネルは噛み付くような視線をグリューネに投げかけた。
すると彼女から返って来たのは、肯定の視線。













「まさか…本当に…!?」












セネルはクロエに刺された時を思い出していた。
あの時、薄れていく意識の中で聞いたのだ。

に覚悟してほしいと言っているのを。
















クロエ…













「みんないくぞ!」













仲間達は頷くと、足早に森を歩き出した。















とクロエを一気に失うなんて、考えられない!













セネルは大事な仲間達を助けるために一心不乱に前へと進むのだった。



















































は降り立った場所からしばらく進むと、開けたところに出た。
そこにはかなり前の焚火の燃えカスが残っている。













「ここは…もしかして…」













初めて来た場所なのに、そこがモーゼス達の前の野営地だということに気付いた。
ここは酷く荒らされ、焚火の燃えカスと少しの生活のあとがあるだけ。
あの戦いからかなり時間が経ったことを思い知らされる。












「もう何ヶ月も経つものね。」











は誰に話し掛けるもなく呟くと、その場所を後にした。



























開けた場所からまた少し奥に進んだところで、それは繰り広げられていた。

金属のぶつかる音や、擦れ合う音が森に響く。
クロエの剣がくるりと回って上から振り下ろされるが、オルコットがそれを軽々と受け流す。
クロエは力の点でオルコットに及ばないようだった。













「っ…はぁっ…!!」

「……はっ」











二人は左右に別れるとぶつかり、再び左右に別れる。














「再びまみえるのが、この場所になるとはな。」

「……」

「あの時も、私達はこの場所にいた。……子供が、立派になったものだ。」

「私は思い出話をするために、ここに来たのではない。」

「……」












オルコットはおもむろに一本の剣を構えた。
そしてクロエに見えるようにひらりと振る。












「その……剣は……。」

「よもや忘れていまいと思ったが、案の定だな。」

「父様の剣っ!

紛れもなく、お前なんだな…」

「今さら何を言う。」

「うわあぁぁぁっ!!!」













クロエは頭を抱えると、剣を持ったままうずくまる。













「私は死ぬわけにはいかない。エルザをまだ、一人には出来ん!」

「あああああっ!」












その時、クロエの体から黒い霧溢れ出す。
オルコットは驚いて後ろに下がる。














「この霧は一体?」

「オルコット……!我が憎しみを受けよ!」













クロエは勢いづいて剣を構えると、オルコットに向かって行く。
オルコットは先程のようにクロエの剣を受け流そうとしたが、ガキンッという鈍い音がすると共に後ろへと吹っ飛んだ。












「ぐうっ…」











彼は後ろの木に叩きつけられると、小さな呻き声を漏らす。












「これが…人の力か?う、腕が……痺れて……。」











オルコットは直ぐさま剣を探したが、近くには落ちていない。
彼は諦めると、クロエを見上げた。













「……」












クロエはツカツカと彼に近寄って行く。
その顔には迷いはなく、唇は一文字に引き締められていた。













「…言い残すことはあるか?」












彼女はオルコットの前で立ち止まって言った。














「言い残すことはあるか?」

「…この帰らず草を街に届けてくれ。エルザの病気を治してほしい。」

「……確かに聞き届けた。」












クロエは剣を持ち直すと、頭上に振り翳す。



チャッ…



クロエの剣が鳴った。












「!!」











この状況を見守っていたの頭に浮かんだのは、




何年か前、自分に剣を振り翳したガドリアの将軍。

そして、自分を庇って逝った愛する婚約者の顔。








……だめ、クロエ!!!







口に出す前に走り出していた。
転びそうになりながらも背に追う弓と矢筒を投げ捨て、オルコットの手から飛ばされたクロエの父の剣を取る。











「っ……!!!」











そして素早くオルコットの前に躍りこむと、頭上で斜めに構えた。
















ガ  キン ……!!!!!
















酷く鈍い金属音が響いたかと思うと、クロエとの剣が合わせ目から白と黒の光が一気に溢れ出した。

















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運命は廻る。


2007/10/06








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