黒と白の光は、彼女らを包み込み遠くへと消えていく。
それは融合するかのように見えるが、相対するものであるため、そうなることはなかった。











「くうっ……」










クロエは低く唸ると軋む剣を後ろへ引き、自身もそこから離れた。
そして目を凝らし今まで居た場所を見て、ふうと溜息を漏らす。













「貴女か、……」












彼女はそう言うと剣を降ろす。
握っていた手を緩めると、地面に剣を突き立てた。












「ええ、私よ。」












はそう言うと頭上で構えた剣を降ろし、オルコットの安否を確かめる様に片手で後ろを探った。











「……」











きゅ、と彼の大きな手を掴むと、弱く握り返してきた。
その手は温かく、自分の知っている優しいスティングルの手。
そして、様々な薬を作るオルコット殿の手。













様……」












彼は自分を守るように膝をついている少女を呼んだ。
申し訳なさそうな呟きに、は心苦しくなる。









私はこの戦いに水を差すべきではないのに、関わってしまった。
これではあの黒い霧の女性の思うツボだわ。












「大丈夫よ、スティングル。私は、平気。」











は安心させるように言うと、彼の手を握り締めた。






目の前で自分達を見下ろしているクロエは、明らかに今までのクロエではなかった。
鋭い目線が突き刺すようで怖い。そして何よりも、纏っている空気が違う。
黒い霧に飲み込まれたクロエは、憎しみも恨みも隠さない凶器のようだった。













「そうか。はこの男の主にあたるのだな。」

「性格には私の三番目の兄が主よ。」

「ヴァーツラフはもう死んだではないか、貴女の手で。」

「……」












人の気持ちを忘れてしまったかの様な言い方に、の心はますます痛む。
傷口に塩を塗り込まれ、彼女は唇を噛み締めた。












「やめるんだ……、様は関係ない……」












スティングルが起き上がってを庇うように言う。
しかしクロエは視線を強くすると、ニヤリと笑った。












「関係なくはない。

お前の次はを斬らなければならない。」

「な…に!?仲間なのではないのか?」

「仲間?は仲間ではない。

祖国から命が出たのだ。クルザンドの王女の首を取れと。いつでも狩れる場所にいる敵国の王女に過ぎない。」












クロエのあまりの言い草に、スティングルは驚いた。




今までここに居た少女はどこにいってしまったというのだ?

これではまるで……












「スティングル、私は無関係ではないの。大丈夫、だから下がって。」

様、しかし!!!」

「いいから!」












混乱しているスティングルを下がらせると、はクロエの父の剣を握り締めて立ち上がった。
クロエもそれを見て剣を掴む。













「私はいつか、貴女と剣を交えることを夢見ていた。」

「……」

「貴女が剣を持たないのを何度がっかりしたことか。」

「……そう。」

「つれないのだな、。」












クロエはそう言うと同時に、剣を構えて向かってきた。
は剣を握りなおすと、腰を低く体勢を整える。













「はあぁっ!!!!!」

「くう…」













ガキンという音が響くと、の手が痺れた。
クロエの力が人並ではないことに気付いたは、思い切り剣を振って彼女の剣を払う。












「はぁっ!やっ!」












キン キン と剣の擦れ合う音が響き、クロエが押し返される。
しかし再びクロエが巻き返すと、が押し返されるのだった。

















クロエもも一歩も引くことなく剣を打ち付け合っていた。しかし涼しい顔のクロエに対して、の顔は少しずつ疲労が浮かんで来ていた。

は痺れゆく手を酷使し、決して躍起になることなく計算して打ち込んでいた。
しかし化け物並の力になったクロエを見ると、彼女に勝算はない。












「っ……」











は一度強く打ち付けて後ろへ下がる。
手は麻痺し、寧ろそのために剣が離せないくらいだった。













「今のクロエなら、ヴァル兄様にも勝てるわ…」













は呟いた。













「…もう、全ては過去の話だというのかしら…。私達と仲間だった事も。」

「私は親の仇であるオルコットも、祖国の敵である貴女も斬る。」












の呟きが聞こえていたのか、クロエは答えるように言った。













「…クロエ、私達を殺めて皆の所に戻らないつもりなの?」

「元より私の戻る場所などない。」












あまりのクロエの言い切っぷりに、は不審を感じた。



彼女は、本当に決意したクロエなのだろうか。



顔色一つ変えないクロエ、疲れを知らない力を持ったクロエ。
どれも今までのクロエとは180度違う。













「…あなた、クロエではないはね?」

「……何を言うか、。」












その間が肯定を表していると、は確信する。
彼女は痺れに耐えて剣の柄を強く握り直すと、キッとクロエを睨みつけた。













「クロエを完全に乗っ取るとは、どこまで卑怯なの!?

…あなたが言った命運とは、この事だったのね。

ガドリアからの命やクロエの気持ちを利用して私を亡き者にしようとは…黒い霧の貴女は、一体何者なの!?」













の剣をひらりと避けると、クロエは多大な霧を噴き出しながらニヤリと笑った。












「そなたに選定される者だ。」

「せん…てい?」

「しかしそなたは今、ここで死ぬ。そうでなければ…この女を殺さねばならぬ。

どちらに転んでも、もう永くはない。」













相変わらず何を意味しているかわからない言葉を突き付けられ、は混乱するしかなかった。
しかし彼女が言っていることで一つだけ理解出来ることがある。




自分が殺されるか、クロエを殺すか。



黒い霧の女性は、自分にどちらかの道しかないと言った。
ということは、














「クロエを元に戻す事は出来ないのね……。」













こういうことだと思った。














「私にはやらねばならないことがある。殺されるわけにはいかないの。

あなたが元に戻らないなら私…

あなたを殺さなければならないわ……クロエ。」














は目を細めると、唇を噛み締めた。
そして最後の力を振り絞って切っ先をクロエに向ける。













「この構えは……」












スティングルには思い当たる節があったようだ。
彼は止めることも忘れ、二人の戦いに見入っている。



既に自分への敵の問題以上のことに発展しているのに気付いていた。
もうこの戦いを止められる者は、いないかもしれない。















「さあ、来い!世界を見守る者よ!!!

我が剣を受けよ!」


「っ…やあぁぁぁぁぁっ!!!!!」














は切っ先をクロエに向けたまま、勢い良く走り出す。
そして彼女の前でフッと舞い上がると、くるりと回転して後ろに降り立った。












「やぁっ!」











の剣がうねる。
その刃はクロエの体へと突き出され、彼女の背を切り裂いた……











と思った瞬間、






ガンッ!!!






の剣が弾き飛ばされた。














「うっ…」













彼女の体も弾かれ、地面に打ち付けられる。
は素早く振り返ったが、もう遅かった。













「さらばだ。」

「……クロエ……」













クロエの剣が振り上げられた。















もう、終わりだ。
















そう思った時にこそ、助けはやってくるのだ。
















「やめろーーーーーーっ!!!!!」
















セネルの勇ましい声が、の耳に入った。












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notキャラクエ沿い(笑)
乗っ取られたクロエを元に戻すには???
きっと彼しかいないのでしょうね。


2007/10/09










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