幼き日の自分を見て、その自分に訴えられ、クロエは再び仲間達に剣を向けた。
彼女の瞳は複雑な色を浮かべ、握っている手はカタカタと震えている。














「お願いします。お父さんを助けて下さい!」












エルザが皆の前に出た。
自分には守れる力があると思える子供は、えてして強いものだ。















「罪を犯したのは知っています。それでも、それでも!

私にとっては、たった一人の大切なお父さんなんです!」

「くだらない言葉に耳を傾ける必要はないわ。」














幼いクロエが言い捨てた。
それにエルザがビクンと肩を震わせる。
恐いのにも関わらず、逃げたいにも関わらず、エルザは父の前に立ちはだかっている。

クロエは自身の言葉にに耳を傾けているが、動こうとはしない。













「……」












エルザは少し遠くに落ちている剣を見つけると、それを拾った。
そしてぶるぶると震える手で握り締める。














「剣を取れば、エルザでも容赦しない。」

「クロエさん……」













構えの姿勢を整えたクロエを見ても、エルザは剣を離さなかった。
キッとクロエを見つめている。














「エルザ……どうして……!」

「クロエさんのことは好きです。けど、お父さんを傷つけるなら許しません!」











エルザは強い意志を示す。
その心は、ここにいる全ての者に伝わった。

彼女の行動に驚くクロエは、幼い自分が剣を取れなかったことを思い出す。













あの時の私は、こんなに強くなかった。

死にたく、なかったんだ……















「……

……くっ……うぅ……」

「下がってはだめ!」













頭を抱えるクロエに、幼いクロエはけしかける。
しかしクロエは自問自答するかのように、腰を屈めて苦しみだした。















「私は……私は……」

「クロエ、もうやめるんだ。敵討ちなんて、誰も望んじゃいない。」

「違う……私は……。」

「そうですよ。クロエさんだって本当は嫌がってるはずです!」

「そんなことはない!私はこの日のために、剣を取ったんだ!」














セネルとシャーリィは、手に手を取るように前に進み出て、クロエを説得しようと話しかける。
しかしクロエは背を向けて否定するばかりだ。














「だったら、もっと幸せそうな顔をしろ!泣きそうな顔で言うなよ!
目的が果たせて嬉しいなら、心の底から笑って見せろ!

それが出来ないなら、やっても後悔するだけだ。」














セネルの言葉は、納得出来るものだった。
他の仲間達も頷きながらクロエを見つめている。














「惑わされてはだめ。
あの声は、あなたを傷つけるんだから!」

「私は……私は……」














はクロエではなく幼いクロエに静かに近づくとその肩を掴む。













「クロエ、あなた静かになさい。」












そう嗜めると、クロエを見た。
幼いクロエは悔しそうにを一睨みすると、本物の自分を心配そうに見つめる。

その時突然、シャーリィがセネルの前に歩み出た。
厳しい顔でクロエを見つめているかと思うと、ゆっくりと口を開く。














「クロエさん、剣を収めてください。」













あまりに強い口調だったので、セネルや仲間達は一斉にシャーリィを見た。
しかし彼女はそれを気にする事なく、クロエだけを一心に見つめている。














「きちんと自分の気持ちと向き合ってください。
自分の中の嫌いな部分から、目を背けてはいけないんです。

立ち向かう事を諦めて楽な道に逃げ込んでも、今、この瞬間しか救われないんですよ。」

「そんなことは……。」

「私、嫌いな自分から目を背けて、いっぱい後悔をしました。お兄ちゃんや皆に、たくさん迷惑をかけました。
そんな私の姿を、クロエさんは知ってるはずです。」














シャーリィの言葉は彼女の心を打ったようだった。
クロエは剣を下ろすと、溜息をつく。














「私は…私だって、敵討ちなんて……」












クロエはそう呟いた。
セネルはホッとすると、シャーリィの言葉に続くように自分の思いを紡ぐ。













「オルコットさんとを殺した先に、お前の望むものがあるのか?失った幸せが帰ってくるのか?

俺達との時間は、そんなに価値のないものだったのか?
ここにいるみんなは、どうでもいいってのか?

捨ててしまっていいと思えるほど、俺達は薄っぺらなものなのかよ!


クロエの居場所は、もうここにあるだろ!


俺達をなかったものみたいに考えて、一人で突っ走って、お前はどこに行くつもりだ!」

「私は……私は……!!」














クロエは何かを決心したように顔を上げた。
その顔にはもう、迷いなどない。














「違う!その感情は違うわ!!!」












幼いクロエが叫ぶ。
彼女は怒っているはずなのに、一歩後退した。














「救われたければ剣を振るいなさい!」













その姿は、クロエの迷い無い瞳に押し戻されているようだ。















「思い出して!父様が殺された時を!母様が殺された時を!」















怒っているのに泣きながら叫ぶ自分の声は、もうクロエには届かない。















「私は……

初めから敵討ちなど望んではいなかった!!!!!」














クロエは瞳を輝かすと、幼き日の自分に剣を向ける。















「あなたが私を否定するの?私はあなたなのに?

……許さない、許さないわ!!」














幼いクロエは泣きじゃくった。
その姿は、子供そのもの。心もきっと大人びようとした子供なのだ。



……もう大丈夫そうね…。



しかしが安心したのもつかの間、彼女が掴んでいる幼いクロエが真っ黒な霧を溢れ出す。
そして、その霧にが逆に掴まれた。













「!?」












それから離れようともがくが、霧は彼女を離さない。














「消えてしまえばいい、私を否定するあなたなんか!!!」













幼いクロエは噴出させた霧を使って、今のクロエと変わらぬ姿になる。
そしてを取り込もうと、更に霧を出し始めた。














!!!」














クロエが叫ぶ。
はそんな彼女に向けて手を伸ばした。














「クロエ、私が手伝うから……一緒に闘いましょう。」

「……ああ!!!」












クロエはその手を掴むと、彼女と一緒に霧の中へと取り込まれていった。














****************

『クロエの居場所は、もうここにあるだろ!』

彼女が言われて一番じんときたのはここではないかと。
その時もっていても、気付かないことはたくさんあります。
それに気付かされた瞬間。

気付けた事はとっても幸せだと思います^^


2007/10/14








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