清々しい朝、クロエの件が落着して誰も傷つくことなく迎えられた朝。
は窓を開けて思い切り息を吸うと、堪能するように吐き出した。
今日のお昼過ぎはクロエと約束している。
午前中でもよかったのだが、色々なことがありすぎて、彼女と何かを話す前に一息つきたかったのだ。
は隣のベッドで寝ているワルターを起こすと、無理矢理朝の散歩に連れ出した。
朝の、空の散歩に。
彼は不機嫌にデルクェスを出すと、を抱えて飛び上がる。
空から見下ろすウェルテスの街は、いつもと変わらず平和だ。
幼い女の子が近所の男の子の家のドアを叩く。中から出て来たのは男の子のお母さんで、女の子を見ると家の中に向かって怒鳴っている。
他にも開店準備に終われている道具屋の女の子が店の前を適当に掃いていたりと…
いつもと変わらない日常があった。
「平和ね…」
の呟きにワルターは何も応えない。
きっと、不機嫌が最頂点にきているのかもしれない。
彼女はくすりと笑って、彼の首に腕を絡めた。
しばらく飛んでもらうと、は街を出たところにギートが歩いているのを見つけた。
は指差すと、降りてとせがむ。
「…わかった。」
ワルターはそう言うと、ギートがいる場所へと降下していった。
「ギート!」
「くぅん…」
が近寄って行くと、ギートはしりっぺたを地面につけおすわりをした。
「どうしたの、こんなところで。」
「くぅん…」
ギートはくぅんと鳴くだけで、それ以外はを見上げるだけだった。
は彼の頭に手を乗せると、よしよしと優しく撫でる。
「…ギート?」
「……」
「あなた、何か悩みがあるのね。」
くぅんと鳴く姿が、なんとも物悲しい。
「わかるのか?」
「…なんとなくだけど。最近モーゼスとも一緒にいないし、山賊の皆も変だもの。」
「くぅんくぅん…」
「そうだって言ってるわ。」
「……嘘をつくな。」
ワルターに小突かれたは、再びギートと向き合った。
「おいで、ギート。一緒に帰りましょう。」
が手を出すとギートは横に頭を振り鼻面をの手に擦り付け、後ろを向いて走っていってしまう。
「ギート!」
は茫然として彼の後ろ姿を見つめていた。
「追わなくていいのか?」
「……ええ、帰りましょう。」
はそう言うと、ワルターのマントをきゅっと掴む。
彼はそれを気遣うように自分の手で包み込むと、ゆっくりと飛び上がった。
*
「じゃあまた後でね、クロエ。」
「ああ。」
クロエはシャーリィと別れると噴水に向き合った。
そして一人で笑うと、穏やかな表情になる。
久々にすっきりした気分だった。
今まであった悶々としたもの、自分の中のものやシャーリィとの間のもの。
これが全て晴れたのだ。
シャーリィと対する様にあった自分の気持ち。セネルが好きだという事実。
そして、セネルが誰を好きかという事実。
それをお互い隠すことなく話し合ったおかげで、シャーリィとの仲が何段階も進んだのだ。
「クーリッジはが好きだものな。」
クロエは呟いた。
セネルが好きで、この気持ちが溢れ出してに当たってしまうのではないかと思っていた。
今回の事は、その気持ちも少なからずあったと思う。
しかしそんなのはセネルも同じなのだ。
「はクーリッジだけを好きではない。」
彼女にとって、皆平等に大切な仲間なのだ。
「だから、クーリッジも私と同じだ。」
クロエはニヤリと笑うと、広場の入口の方を見た。
噂をすればなんとやら…が現れたのだ。
「おはようクロエ。ごめんなさい、私遅くなってしまって。」
「いや、今までシャーリィと話していたし、はそんなに遅れてはいまい。」
「シャーリィと?まあ!珍しいわね。」
「ああ、の御蔭で仲良くなれた。」
「私の…?」
はわからない、という表情でクロエを見つめる。
「いや、こっちの話だ。」
クロエははぐらかすと、先程までシャーリィと座っていたベンチにを導いた。
「とも話したかったんだ…」
クロエはそう言うと、の手を握った。
「すまない、殺そうなどと…。私は…」
「いいのよ、クロエ。あなたは黒い霧の女性に操られていたし、ガドリアから命も下されていた。
謝ることではないわ。」
「しかし…!」
はクロエの手を握り返した。
そしてにこやかに微笑むと、彼女を安心させるように言う。
「大丈夫。私もクロエも皆生きているし、傷ついてない。それ以上に、クロエの中の気持ちにもケリがついたでしょう?それって、いいことじゃない?」
「………」
クロエは申し訳けなさそうに俯くと、腰の辺りをがさがさと漁る。
「これを…読んでいたのに、私の心は闇に支配されてしまった…」
がさりと出してきた紙の束は、よく見知った手紙。
「ヴァイシスの…?」
「ああ。」
クロエはそれをの膝に乗せた。
はしばらくぽかんとしていたが、目をパチクリさせてクロエを見ると、
「読んでいいの?」
と聞いた。
「に読んで欲しいんだ。」
クロエはそう言うと、ぎゅっと目を瞑った。
手紙には、への手紙に書いてある日常の事以外に、クロエが相談しただろう事について書かれていた。
特に目についたのは、何度も指でなぞったかのように皺がついた場所。
『クロエ殿には羨ましい程の居場所がある。
自分の意志にそぐわない事を無理矢理やって、それを失くそうとするなんて愚かなことだと思わないかい?
それに甘んじ過ぎているなんて自分に厳し過ぎるよ。
これまで多くの苦労をして来たのだから、その分たくさん甘んじてもいいんだよ。』
「その手紙は、を殺す様に命じられた日に着いた。」
クロエは言った。
は手紙を流し読むと、最後の文を読む。
『何かあったらに相談するべきだ。
それが、の命を奪うという理由でも。』
「ヴァイシス殿はわかっていたんだ、こうなる事を。
私はその手紙を読んで悩んだあげく、に相談しに行った。はいなかったけれど…」
その時はちょうど隠し砦に行くところだったと思い出す。
その時クロエに会えれば、何か違う方向に向かったかもしれない。
……いいえ、違うわ。
これでよかったの。私はその時クロエに会わなくてよかったのよ。
だって、今以上に良い結果になるなんてわからないもの。
「私は愚かだ。自分のことばかりで、仲間の気持ちなんて考えていなかった。」
「あら、皆そうよ?」
「は、違う。」
僅かの間が空いたあと、クロエがきっぱり言った。
「私だって…」
「いいや、違う。は何か……世界にとって重大な役割があるんだ。だから全ての人を平等に見る。
黒い霧に取り込まれてわかったんだ。にはそうしなければならない理由がある。
…私も、全ての人を平等に見られたらと思うが、私には無理だ。
私はにはなれない。」
「クロエ…」
「だから、私は貴女を守る。
私は騎士だ。家が取り潰しに合おうが、死ぬまでヴァレンス家の騎士だ。
だから、貴女を守る騎士になる。」
は目を丸くしてクロエを見た。しかし彼女の顔は真剣そのもので、本気で言っているのだとわかる。
何を言っても無駄のようね…。
はクロエにわからないように溜め息をつくと、
「ありがとう。」
と素直に御礼を告げた。
願わくば、命をかけるなんて馬鹿な真似はしないように。
は後でクロエ強く言い聞かせた。
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ヴァイシスの手紙に
『家名を復興させたいなら、クルザンドがガドリアと友好関係を結んだらいくらでもしてあげる。だから俺のとこにおいでよ。』
と書いてあったのをは飛ばし読みしていました(笑)
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クロエ編終了☆
ヴァイシスをどれだけ出したかったことか!(笑)彼を出したらオリジナル過ぎそうなので、クルザンドに缶詰してます。
ヴァイシスも本当はクロエの変化に気付いて遺跡船に来たかったと思います。だからあんな手紙を…!!!
クロエが無事戻って来てよかった^^
助けたのはセネルとシャーリィだけど、クロエの気持ちはヴァイシスに傾きつつ
セネル、みたいな感じです(笑)
2007/10/14
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