クロエと、実は私達の事を遠くから見守っていたワルターと共に病院へ向かう。
エルザを皆で見舞うという話が出ていたので、一緒に住んでいるようなクロエと、スティングル…いえ、オルコットと代わり番こして看病した私も行く事になっていた。
「みんな、エルザの元気になった姿を見たら喜ぶでしょうね。」
「ああ。オルコットさんとが寝ずに看病してたからな。」
優しく笑うクロエ。私はびっくりして彼女を見た。
「知っていたの?」
「当たり前だ。
私も手伝いたかったのだが、病の事はわからないからな。」
病院にいる他の人には出来るだけ迷惑をかけない様に気遣ったつもりだったのに、クロエは知っているなんて…。きっと他の患者さんとかも気になって眠れなかったかも知れないわね。申し訳ないわ…。
エルザの薬は出来て飲ませたのはいいけれど、何回か容態が急変して私とオルコットはあたふたとしていたのよね。今になって後悔しても遅いけれど、廊下をもの凄い音を立てて走っていたかもしれないわ。
「?」
「え?」
「心配する事はない。私はたまたま夜中に用を足しに起きた時に気付いたんだ。」
「……はぁ、それを早く言って。他の患者さん達に迷惑かけたかもしれないって悩んでしまったじゃない。」
「はは…。それにしても、もエルザを大切にしているんだな。」
「え…。ああ、それはね。」
私はずっと前の、クルザンドに居たころのスティングルを思い出す。
ちょっとした、私のした発言の罪滅ぼしになればと思って、と笑う。
「昔、私はオルコットにエルザを盾に取るような発言をしてしまったの。だから、罪滅ぼし。」
「へぇ…がか。」
「ええ。あ、でも大部分はエルザが大好きだからよ!!!」
「そうか、私もだ。」
クロエは目を細めて笑った。
元々美しい顔立ちをしているクロエ。彼女が笑うとこちらもつられて笑ってしまう。
クロエがこうやって笑えるようになって良かった。本当に、嬉しい。
「さあ、病院に着いたわ。ワルターったら、構えないの。」
「……。」
「はは、ワルターも変わったな。」
「……何がだ?」
自分を笑うクロエを睨むワルターを見て、私はどこが変わったのかしら?と思ってしまう。
でもクロエは睨むワルターを見返してにっこりと微笑んだ。それには流石のワルターもタジタジみたい。
「雰囲気とか…う〜ん、全部だな。」
「全部?」
「が驚く事ないだろう。ワルターを変えた張本人なんだから。」
「張本人?私が?」
私が彼を変えた?まさか。
「な、ワルター。」
クロエはワルターの肩をぽんぽんと叩いた。
ワルターは驚いて口をへの字にしたけれど、私が見ているのに気付くと顔を逸らす。
そしてしっしっとやるように私に向こうを向けと言った。
「変わってない。全然変わっていないわ。」
「そうむくれるな、。ワルターは男なんだからこう言われると恥ずかしいんだろう。」
「そうなの?」
ワルターに聞くけど、彼はクロエを睨む事に必死になっている。
私は大きな溜息を吐くと、病院へと足を踏み出した。
「ワルターにしろ、ヴァイシス殿にしろ……の周囲には良い男がたくさんいるな。」
クロエは私を追うように大またで近づくと言った。
私は何を言ってるの、という顔で見返す。
「私の側にいるなんて、クロエの側にいるのと同じじゃないの。
ワルターもヴァイシスも、セネルもウィルもジェイもモーゼスも、クロエの側にいるのよ。」
こう言うとクロエは目を見開いた。
そして少しの間を持つと、急に頬が緩んだように「くっ」と言った。
そして、
「そうだな!!!」
この上なく幸せそうに頷いた。
*
「とクッちゃん…セの字はまだか。」
「ええ。セネルは会わなかったわ。」
「お兄ちゃんまだ寝てるんだ…。」
病院のロビーにはセネル以外の仲間達とエルザとオルコット。
皆楽しそうに談笑している。
「クーリッジの寝起きの悪さは今に始まったことじゃないからな。」
「ほんと!」
くすくすと笑うクロエの言葉にシャーリィが同意する。
そして二人は目を合わすと恥ずかしそうに瞬きした。
「ワの字も来たんか、めずらしいのう。」
「本当ですね。でも大方、さんに連れてこられたんでしょう。」
珍しがるモーゼスを押しのけてジェイがずばりと当てる。
ワルターはむっつりな表情を崩して「そうだ。」と答えた。
『……』
そんな彼を見て、他の仲間達はぽかんとした。
何かに小さな驚きを覚えたみたい。
「皆、どうしたの?」
心配になって聞くと、ノーマがぽかんとした表情のまま言う。
「ワルちんて、こんなに愛想良かったっけ?」
「……」
彼女の言葉を聞いて慌てて表情をむっつり顔に戻したワルターが何だか可笑しくて笑える。
「ほうら、。」
「クロエの言った事、本当みたいね。」
「……あのな…」
ワルターはバツが悪そうに何か言いかけたけれど、仲間達があんまりにも見つめるものだから後ろを向いてしまった。
そんなワルターの前にエルザが駆け寄って顔を見上げる。すると彼は顔を押さえて仲間の方に向き直った。
「な、何だ?」
「御見舞いに来てくださって本当にありがとうございます、ワルターさん。」
「いや……」
「さんも、看病して頂いてありがとうございます。また、遊びに行ってもいいですか?」
「ええ、もちろん!エルザなら大歓迎よ!!!」
喜ぶエルザを見て、今度は何の料理を作ってあげようかと考えてしまう。
あれもこれも食べさせてあげたいし…あ、でも女の子だからあんまり太らせてしまったらオルコットに怒られてしまうわ。
そう思って彼を見てみると、笑顔で小さく頷いてくれた。
いいってことかしら…?
「そんなに元気なら、今度は食器くらい片付けられるだろう。」
ワルターが突然こんな事言うから、私は記憶を探ってしまったじゃない。そんなことあったかしらって?
そうしたらエルザは覚えていたのね。ニヤニヤしながらワルターを見上げた。
「あ、ワルターさん。前に片付け任せて帰っちゃったことを覚えてるんですか?以外と恨み深いんですね!」
「ワルターさんですからね。」
「ワルちんだからね。」
「ワの字じゃからな。」
エルザの言葉に答えるように、ジェイとノーマとモーゼスが声を合わせて言ったことで、ワルターの睨みがその三人に向けられたのは言うまでもない。
「おーい…」
その時、セネルが申し訳なさそうに病院に入ってきた。
頭は寝癖だらけ。
「オウ、セの字、ようやくきおったか。」
「セネセネってば、さいて〜。」
「待ち合わせをすっぽかすとはな。ひとでなし。」
笑いながら言うクロエを、セネルは寝ぼけ眼で見つめた。
それを不思議そうに見返すクロエ。
「私の顔に何かついているか?」
「いや、なんでもない。
シャーリィ、ごめん。」
「お兄ちゃんが遅れたお蔭で、いいことがあったからいいよ。」
シャーリィが言った事がクロエと仲良くなったことだと思って顔がほころぶ。
すると、ジェイに小声で「いきなりニヤニヤして気持ち悪いですよ」と言われてしまった。
「エルザ、体調はいいのか?」
「はい。皆さんのお蔭で病気も治って、元気です。」
「本当に良かったわねぇ。」
「何とお礼をいえばいいのか。」
オルコットはそう言うと深々と頭を下げた。
ウィルが恐縮して彼に言う。
「これからは多くの人を助けるため、あなたの力を使ってほしい。」
「存分に働かせてもらうよ。」
「これからはオルコットが病院に居続けてくれるわけだし、私ももっと楽になるわね。」
「さんの薬は人気なんですからね、そういうわけにもいかないですよ。」
「ほうじゃのう。の薬が無くなったらワイも寂しいのう。」
「はは。君の薬には勝てないな。」
「そんなことないわよ!」
私が頬を膨らませると、ジェイとモーゼスは一歩下がった。
もう、何て事を言ってくれるのかしら!!!
「私がさんの分まで頑張ります!」
「あ、それがいいですね。」
「よく言った!!それがいいじゃろ!」
可愛く言うエルザを盛り立てるようにジェイとモーゼスは引き攣った表情で言う。
…二人とも都合いいのだから!
「そういえば、今回も霧でしたね。」
「ああ。あの黒い霧は何なのだろう。」
「……」
クロエがチラリと私を見たけれど、何も言わなかった。
誰も私と黒い霧には触れようとしない。
ワルターも、一人腕を組んで考えている様子だった。
「う〜ん、霧……霧ねぇ。
うっ…」
グリューネが突然頭を抱えてしゃがみこむ。
私は駆け寄って彼女の肩を支えた。
小刻みに震える肩。
何か、思い出そうとしている…?
「グー姉さん?」
「…今の、わたくしかしら…。何か……昔のことが頭に思い浮かんだような……。」
「もしかして、今度こそ記憶が?頑張れ!グー姉さん!」
「ワイも応援しちょるけんのう!」
「モーゼスさんに応援されても、効果があるとは思えませんけどね。」
グリューネは私の手に自分の手を乗せて笑った。
でもその笑いはいつものほわわんとした感じが無くて…でも優しい。
彼女は唇を動かして大丈夫、と言うと立ち上がる。
「えーっと、つまり何なのかしら。」
「わかるかあ!!!」
でもすっくと立ち上がったグリューネは、やっぱりいつものグリューネだった。
「!?」
いきなり私の耳の辺りが光り出す。
でもそれに気付いたのは私ぐらいで、皆には見えてないみたい。
「…?」
その光る物体はふよふよと私の周りを漂うと、そのままグリューネの方に飛んで行った。
「このヴォルトを呼びつけたのは、主であられたか。」
「まあ、ヴォルトちゃんって言うの?会えてうれしいわぁ。」
その物体が喋りだしたので失われた精霊だと気付く。
その存在が感知出来るのは、私とグリューネだけですものね。
「また一人で話し始めたぞ。」
「姉さん、もうダメなんかいのう?」
ウィルとモーゼスが呆れて彼女を見る。
あの会話に入ったら、私もああいう目で見られてしまうわ。
「赤いのが失礼な事を言っておりますが、よろしいので?」
「う〜ん、よろしいんじゃないかしら。」
「グリューネさん、どうしちゃったんですか?」
「時々ああなるんだ。原因は私達にも分からない。」
楽しそうに話しているグリューネを不思議そうに見るエルザに、クロエは諭す様に言った。
「主よ……。以前と何やら、様子が……。
おい娘、主はどうされたのだ!?」
ああ…話掛けられてしまったわ…。これは答えるしかないわよね。
「グリューネは記憶喪失に…」
「ちゃんまでグー姉さんと同じになっちゃったよ。」
あああ…。
「失礼つかまつった。主の状態を、最初に理解すべきであった。この未成熟な世界が、何よりの証拠か。我もこのような形でしか存在できぬ。時が満ちるまで、しばしの眠りにつくといたそう。」
ヴォルトという光は、そのままグリューネの壺の中に入っていった。
「娘、主を頼むぞ。」
と言いながら…。
「まあ、壺の中にヴォルトちゃんの種が入ってるわ。どこに植えようかしら〜。」
「どこがいいでしょうね。」
私はグリューネの側に置くのが一番じゃないかと思う。
だって、あんなにグリューネのこと心配しているのだもの。私に任せるくらいに。
皆で苦笑いをしていると、外からドタドタと走る音が聞こえる。
そのままバンッというドアを開ける音と、
「あにき〜〜〜っ!」
というチャバの声が響いた。
彼は息を切らして入ってくると、私達の前で膝に手を付いて息を整える。
生き生きとした草のような深緑の髪がサラサラと揺れていた。
「チャバ!そんなに慌ててどがあしたんじゃ?」
「ここは病院だ。大声で騒ぐもんじゃない。」
「あ、すいません。でも!それどころじゃないんだ!
また、兄弟が襲われて!」
彼はそう言うと曇った瞳でモーゼスを見つめる。
私達はただ、彼らの話をを見守っていた。
**************
始まりました、モーゼス編!!!
モーゼスとギートの信頼関係。
その上での迷い、絆の強さをヒロインを混ぜて書けたらいいなって思ってます^^
2007/10/24
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