「何じゃと!?場所は!」
モーゼスは目を見開いてチャバに向き合った。
その顔は、今まで見てきたモーゼスの中でも一番恐い気がする。
そういえば…と考える。
モーゼスはいつもおちゃらけているか、家族の事を大切に真剣になっている顔しか見た事がないような…。
「霧の山脈だよ!」
「何の話だ?」
そんなモーゼスとチャバの真剣な会話にセネルが問う。
すると、モーゼスもチャバも黙り込んでしまった。
「……最近、兄弟が魔物に襲われる事件が、何件も続いてて……。」
チャバは恐る恐る告白する。
それは何だかモーゼスを気遣っているよう。
「モーゼス、本当なのか?」
「何故今まで話さなかった?」
「そ、それは…。」
今度はウィルが問い詰めるように聞く。
でもモーゼスは言葉を発しない。
「話せない理由でもあるのか?」
「兄弟を襲った魔物っていうのが、ガルフみたいなんです。」
「ガルフと言ったら、ギートちゃんと一緒ねぇ。」
ガルフという言葉に反応した仲間達。
誰もが気付いたのに言おうとしなかったはずなのに、グリューネがずばりと皆の疑問を口にする。
でも、モーゼスはやっぱり一言も発さない。
「まさか、ギートが?」
「ないない、それはないって!ギーとんすっごくおとなしいし!ね、ちゃん。」
「ええ…。」
「兄弟が襲われたのは、今回で7回目になります。」
「そんなに……?」
「何故黙っていた?」
モーゼスに詰め寄りそうな態度のウィルは、冷静に話を進めようとしている。
私達ははらはらしながらそれを見守っていた。
「黙っとったんと違う。言う必要がなかっただけじゃ。」
「ギートが疑われてるんじゃないのか?必要ないとは思えないけどな。」
真剣に受け止めるセネルが言った言葉。
でもモーゼスへの皮肉のように聞こえてもおかしくない。
モーゼスとギートは、信頼しあってるから。
私はワルターを見つめた。
彼も今日の朝に私と一緒にギートと会っているので、思うところがあるのか私を見つめ返す。
困った事になったと思う。
ギートに会った事を言うべきか、言わないべきか。
「おもろない冗談じゃのう。ギートはそがあなこたあしゃあせん。」
隣のチャバが俯く。
彼がギートを疑っている証拠だわ。
「今、ギートはどこにいるんだ?」
「それは……」
「モーゼスさんにも、所在がわからないみたいですね。」
「なんじゃ、ワレらまで、ギートを疑うんか?」
モーゼスは信じられないという表情をすると、仲間達を見回す。
しかし誰一人疑っているような顔をせずに真剣な表情をしていたのでいくらか安心したみたいだった。
「…口では言わないけど、兄弟は確実に疑ってるよ。ギートを探し出して、真相を確かめようとしてる。野生化への恐怖があるから、黙ってじっとしてられないんだ。」
「野生化?どういうことだ?」
モーゼスはウィルの問いを無視すると、チャバに向き合う。
そして彼を諭すように言う。
「ギートが家族を傷つけるわけない。そがあなことは、ワレらもようわかっちょるじゃろうが!」
しかしチャバはそんなのわかっていると言いたげに熱くなる。
チャバってこんな人なんだと思う。
いつも優しく見守っている様な人だと思っていたから。
「アニキとギートの関係は、誰よりもよくわかってるよ。けど、野生化への恐怖は消し去れないんだよ。」
「そがあに言うんじゃったら、ワイが調べちゃる。」
「俺達も一緒に行く。」
意気込むモーゼスに、セネルはすかさず言う。
他の仲間達も、私も同じように頷いた。
「セの字。」
「ギートが疑われてると言うなら、俺達が、潔白を証明すればいい。」
「ワレら……。」
「オイラも連れて行ってください!兄弟に真相を伝えるためにも、この目で見ておきたいんです。」
チャバは膝を付くとモーゼスに懇願した。
その目には本当はギートを信じたいと激しい炎が宿っている様。
「オウ、その目でよう見ちょれ。」
「霧の山脈へ行ってみましょう。」
かくして、私達は霧の山脈へと向かうことになった。
今回は新しくチャバを迎えて。
私達はモーゼスに着いて行く様に後ろを歩いた。
皆の心は少しずつ暗くなってしまっているのに、晴れ渡った空が恨めしい。
私はワルターの袖を掴むと、クイクイと引っ張る。
「なんだ?」
「話した方がいいと思う?」
小声で聞く。
もちろんギートに会ったこと。
「いや、まだ何も分かっていない状態だから話さない方がいいだろう。」
「ワルターがそう言うならそうね…。」
私達は少し小さくなったモーゼスの背中を見つめた。
すると、彼の体越しにオレンジの毛並みが見える。
それはどんどんと私達に近づいてきてモーゼスの前で止まった。
「ギート。」
はっはっはっはっ…
ギートは小刻みに胸を上下させると、切れている息を整えようとする。
彼の目には私達が並んでいる姿が映っていた。
「牙と爪に、何かついてる。あれは……」
チャバが呟く。
私達は目を凝らしてそれを見た。
「!?」
それは真っ赤な液体。
血……?
「あは、あははははは……。まさか、血ってことはないよね?」
「魔物でも退治してきたんじゃろ。」
『……』
私達は誰も何も言わずギートを見つめていた。
その赤いものがキラリと光る。
「何じゃその反応は?ワレらも冷たいのう。ギートを信じちょると違うんか。」
モーゼスは皆の反応に苛立ちを覚えている。
自分は信じているから、苛立つのかもしれない。
「もちろん、信じてはいる。ただ……」
「冷静な目で判断をしたいだけだ。こんな時だからこそ、状況は正確に把握しないとな。」
モーゼスはキッとウィルを睨むと、ギートの頭に自分の手を置いた。
「僕、思うんですけど……。」
「何じゃい、改まって。」
「やっぱりギートはガルフなんですよね。
どれだけ信頼で結ばれていても、心を通い合わせているとしても、この前提は絶対に消せません。ガルフが人と共存してるなんて、そもそも、不自然なんですよ。」
ジェイの言っていることは正しい。
ギートは私達とは違う。
でも、ギートが違うということを認めてしまうのは…根本的に生まれの違う私達と水の民も、違うものになってしまう気がした。
「いつものことじゃが、ジェー坊の話は、おもしろうないのう。
今まで何を見てきたんじゃ?ワイとギートの何を見てきたんじゃ?
つまらん理屈の通用する世界と違う。」
熱く語るモーゼスと冷ややかにそれを聞くジェイの間に、困り顔のノーマが入り込む。
彼はモーゼスを宥めると、苦笑した。
「ま〜ま〜、とにかくさ〜。調べてみればいいんじゃん。って、ちゃん?」
「おい、……」
私はギートに近寄ると、背中を撫でる。
「私も、ギートを信じているわ。モーゼスとギートを信じてる。」
「くうん・・・」
ギートの首筋に腕を回すと、ぎゅっと彼を抱きしめる。
毛並みはふさふさして心地よく、日なたのにおいがする。
血の匂いなんてしない……!
「……!
ワイとギートがきっちりと犯人の魔物を退治しちゃる。
そうすりゃ、誰も文句なかろう!行くぞ、ギート!」
モーゼスは片手でギートを促し、もう片手で私の手を握った。
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ちょっと短め。
ヒロインあんまり出てませんね^^;
2007/10/27
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