「、ヴァイシス殿は何番目のお兄さんの子なんだ?」
街に行く途中、クロエがこっそりと私に話し掛けてきた。
「私達の中で、結婚しているのも子供がいるのも1番上のヴァルシード兄様だけなの。だからヴァイシスは1番上の兄様の子よ。」
クロエは驚いた顔で私を見た。
そして口をパクバクさせるとヴァイシスを見る。
「では、彼は…未来のクルザンド王ではないか!」
「そうなるわね。」
「で、未来の王妃♪」
私達の話を聞いていたのか、ヴァイシスは私と腕を組んで言った。
「近親結婚はありません。」
「残念だよ。が叔母だなんて信じたくないな。いつか国に近親結婚を認めさせて…」
「あのね、ヴァイシ…」
「あのなあ!!」
その時、セネルが話に入って来た。
「……あ、ナニ?あなたはが好きなわけ?」
ヴァイシスは挑戦的に言った。
セネルは顔を真っ赤にして怒っている。
「はクルザンドでは社交会の注目の的でたくさんの貴族からプロポーズを受けるんだ。男はあなたじゃなくてもいいんだよ?」
「なっ…!」
「ヴァイシス!!」
パンッ
渇いた音が鳴る。
私がヴァイシスの頬を打った音だ。
「!!」
「あなた、まだガリガリ勉強ばかりしているのでしょう?自分中心に考える癖を直しなさい!!
……自分勝手に、私の大切な仲間を傷つけないで!」
ジロリと睨むと、彼はしゅんとなった。
「…わかった。申し訳ない、えーと…」
「セネルだ。」
「申し訳ない、セネル。俺の癖なんだ。のこととなると見境がつかなくなる。
俺の大事な叔母だから。」
「いや…。」
「ごめんなさい、セネル。」
「…別に、が謝らなくていいよ。
そうだ、未来の王がお供も付けずに遺跡船まで来て大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。供はいるだけ無駄だし、もしここで死んだらそれは運命だ。」
「ヴァイシス!!」
「大丈夫だよ、。この前弟が出来たからさ、跡継ぎに心配ない。」
「あらまあ!素晴らしいことだわ!!」
「だろう?ま、詳しいことは街に着いてから話すよ。
…今はそれどころじゃないみたいだし。」
「えっ…?」
ヴァイシスはそう言うと、クロエの横に滑るように走る。
「クロエ殿!」
「ああ。」
彼らは前方に走って行った。二人とも行動が凄く早くてびっくりしてしまう。
けれど、何故あんなに早く行動したのかすぐにわかったわ。
「キャーッ!!!」
女の子の悲鳴!
私達もあの二人を追うように走った。
「お父さん!」
「逃げろ、エルザ!」
道で魔物に襲われている親子がいる。
クロエとヴァイシスは今にも襲われそうな娘さんの方に向かった。
「ファイアーボール!」
「散沙雨!!」
向かった二人はいとも簡単に魔物を倒すと、何もなかったように娘さんに笑いかけた。
「立てるか?」
「は、はいっ」
クロエは手を貸してあげると、娘さんを立ち上がらせた。
「ありがとうございます!」
父親の方も魔物を倒し終わったようで、剣をしまいながら私達の前に来た。
「助かりました。私はオルコット。こっちは娘のエルザです。」
彼は頭を下げると、私とヴァイシスを見て目を少し開いた。
あら、よく見るとスティングルじゃない。
この娘がスティングルの娘さんなのね。
「初めまして、オルコット。無事でなによりです。」
私が知らんぷりして言うと、彼は胸を撫で下ろしたようだった。
…スティングルは、クロエと色々あったみたいだし、黙っていた方がいいわよね。
ヴァイシスも気付いてないみたいだし。
「街まで行くんですか?では、私達と一緒に行きましょう。」
「それがいい。さあ、行こう。」
「助かるよ。」
私が考え込んでいると、いつの間にか一緒に街まで行くことになっていた。
「エルザは難しい病気でね。遺跡船でしか手に入らない薬草があるんだ。」
「そうなんですか。エルザはいい父親を持ったな。」
「はい!」
エルザは嬉しそうにクロエに笑いかけた。
とてもいい娘さんだわ。
スティングルも、こんな娘さんを残してクルザンドのためには死ねないわよね。
私がくすくす笑うと、ヴァイシスがこそこそ話し掛けてきた。
「、あれってスティン…もごもごっ」
私はかれの発言にびっくりして、思わず口を塞いでしまった。
「どうしたんだ?。」
「あっ…何でもないのよ、クロエ!」
「そうか?だがヴァイシス殿が息苦しそうだぞ?」
「えっ…きゃーっ!」
ヴァイシスを見ると、紫色の顔をして口を塞がれたままだった。
私は急いで手を離す。
「愛の鞭、ひしひしと感じたよ。」
「……もっとやられたいの?」
あまりにもふざけたことを言うから私が怒ると、ヴァイシスはブンブンと首を横に振った。
「ちょっとヴァイシス、こっちに来てくれる?」
「ああ。」
街の入口が見えて早々、私はヴァイシスを引っ張って仲間達から外れた。
皆は私達を気にすることなくそのまま街に向かって歩を進めている。
その後を追いながら彼に話しかけた。
「ヴァイシス、彼が誰だか気付いたのね?」
「当たり前だろう。何故スティングルがいるんだ?」
私はその問いに困ると、目を伏せて喋る。
「…色々あってね、こういうことになったの。ヴァイシス、彼の正体を皆に言わないで。」
「の言ってることアバウトすぎるよ。でもわかった、言わない。」
「ありがとうヴァイシス。」
「いや、でもさいつかはその色々を話してよ?」
「……ええ。約束するわ。」
私達は話に夢中になっていたのか皆が立ち止まったのに気付かなかった。
そのため、私達のすぐ前を歩いていたワルターにぶつかりそうになった
「よそ見をするな」
「ごめんなさい。」
ワルターの機嫌は今だ直りそうもなかった。それよりさっきより怒ってない?
「そんなっ!私借りてきた猫みたいに大人しくしてますから!!」
「皆さん、ありがとうございました。行くぞ、エルザ。」
「はい!クロエさん、遊びに来て下さいね!」
二人は仲良く病院に向かって行った。
「さてと、俺はとりあえずミュゼット様に挨拶しに行かなきゃな。は今、どこにいるんだ?」
「宿屋よ。」
ヴァイシスは背伸びをしながら言う。
「その部屋ベッドは二つある?」
「あるけど……
…でも駄目よ。」
「駄目?なんでさ?先約がいるの?」
「ええ。」
ヴァイシスは腕を組んで考える。
「誰?交渉してみるからさ。」
……
交渉…、は無理だと思うけれど…
私はチとワルターを見た。
彼は無表情で私を見ると、皆を避けてつかつかと前に出て来る。
「?」
「、部屋に置いてくるものがあれば置いて来てやるが。」
「本当?じゃあこれを置いて来てくれる?」
ワルターに小さなバッグを渡す。
彼はチラリとヴァイシスを見ると、テルクェスを出して飛び去った。
「何アレ!」
「ワルターは水の民なのよ。」
「そんなの見ればわかるよ!!それより何なんだよ、あの挑戦的な態度はっ!!」
ヴァイシスはワルターの後ろ姿を見ながら言った。
するとセネルがぽんぽんとヴァイシスの肩を叩く。
「交渉は無理みたいだな。」
「交渉って………ええっ!!
もしかして、あの金髪男と同じ部屋なのか!?」
「そうよ。」
「なっ…ななななななんでだよ!!!
あんな影の薄いいるかいないかわかんないような男!それも無口で挑戦的で厭味な!!」
ヴァイシスはワルターの悪口を出来得るかぎり吐いた。
どれも間違ってないかもしれないと思うのは私だけ?(笑)
「ヴァイシス」
「は、あの金髪男と恋人同士なのか!!」
何を聞くのかと思えば…。
「違うわ。」
「…。でも、一緒の部屋にいるなんて許せないよ!」
ヴァイシスはそのまま狂乱状態に陥ってしまったので、セネルとシャーリィが宥めてくれる。
するとクロエがこそこそと耳元に話し掛けてきた。
「ワルターと住んでるなんてびっくりした。…本当に恋人じゃないのか?」
クロエまで…。
「違うわよ。怪我の治療とその他もろもろのために一緒の部屋なの。また今度話すわね。」
「そうか。」
クロエは残念そうにため息をついた。
…何でかしら…?
*******************
ワルター、ヴァイシスへの挑戦。
「甥なら相手にならん」とか言ってそう。
でもセネセネは妬いちゃったり♪
これからどうなっていくのやら…?
2006/09/19
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