魔獣使いに必ず来る試練。それが『野性化』。



野性化とは、魔獣使いとの力の均衡が取れなくなった場合、または血の味を覚え、昔の本能が思い出される時、魔獣に起こる変化現象だ。
モーゼス達魔獣使いの間では、魔獣使いの試練と言われているけれど、私には魔獣にとっても試練なのだと思った。

あんなに親しく一緒に生きて来た相棒との対立が起こるのだ。


その結果はどちらかが殺すか、殺されるか…。


もし魔獣やその使い手に試練が来た時、相手の事をどう思うのだろう?
魔獣使いの試練だと言うように、魔獣はその時にはきれいさっぱりと相手の事を忘れてしまっているのだろうか?


ううん、絶対違うと思う。ギートだって…。















「ワイとギートは大丈夫じゃ!」













クカカと笑うモーゼスの声。さっきよりも全然落ち着いて、きっと他の仲間達にはあの迷いは気付かれていないと思う。


あの鋭いジェイだって…。あら…?


ジェイはモーゼスの内心に気付いているようだった。少し心配そうな目線を残し、フイと顔を背ける。














「お前達、進むぞ。」













ウィルの一声で私達は喋り止むと、奥へと進んだ。









それからしばらくは魔物達に会わず、私達は歩を進める。
私はモーゼスが心配で彼の横にいたのだけれど、チャバに呼ばれてそこを離れた。















「どうしたの?」

「アニキの事どうかなって。」














私達はモーゼスに聞こえないようにこそこそ話す。














「大丈夫よ。」

「そっか、ありがとうちゃん。」












チャバはにっこり笑うと、モーゼスの背中を見た。
やっぱり心配そう。



本当はチャバも大丈夫じゃないってわかってる。
でも私がそういうから合わせてくれてるのよね。


ごめんなさい、チャバ…。
















「そういえばさ、ちゃんの歌なんだけど…」

「え?」













一瞬何の事か分からずに聞き返してしまったけれど、私が皆と仲違いしていた時、初めてチャバに出会って歌を歌って…、あ。















「あの時セネルが来て、チャバに歌ってあげられなかったわね。」

「そうそう。思い出してくれた?」

「ええ。じゃあ、今度是非…。と言っても最近は歌ってないから、あまり聞けたものではないのだけれど。」












そう言うと、歌ってくれるなら何でも構わないとチャバはにっこり笑ってくれた。












数時間慎重に調査しながら歩き、結局何もないまま山頂に着く。
そこは長閑で、小鳥のさえずりが聞こえた。














「これで一通り、回ったはずだが……。」

「それらしい魔物は、いませんでしたね。」












皆でもう一度周囲を見渡すけれども、やはり魔物はいなかった。
出てくるのは弱い魔物だけ。


チャバたちがこのような弱い魔物に負けるはずがない。














「あたしってばかよわいから、すんごく疲れちゃったよ。」












ノーマはぺたりと座り込んだ。
でも誰も声をかけようとしない。













「あ〜今のところは、ツッコミほしいかな?放置はちょっと切なかったり。」

「あら、ノーマちゃんは、かよわくてかわいいわよぉ。」












誰もツッコミもしないのにグリューネが声をかける。
グリューネって、本当に優しいわね。













「さすがグー姉さん。相方の鑑だね〜♪」












ノーマとグリューネが仲良く盛り上がっている向こうで、モーゼスは遠くを見ているギートに目を向けていた。
その顔はいつもの元気良い彼の欠片もない。














「どうかしましたか?

モーゼスさんに真面目な顔はまったくもって似合いませんよ。」

「……」











モーゼスは答えなかったけれど、変わりにどこからともなくやってきた魔物が叫んで答えた。














「ギーッ!!!」













その魔物は、ギートがずっと見ていた方から飛んでくる。
ギートには私達よりいち早く気配がわかるのだわ!

羽の生えた魔物は、大きな翼をバッサバッサとはためかせ私達を威嚇している。















「さてはこいつが襲撃の犯人か?」

「ガルフじゃないよ。よかったね、モーすけ!」

「ワイはなんも心配しちょらん。ギートを信じとったけんのう。」













モーゼスはちらと私を見ると、口の端をニヤリと上げる。
私もギートじゃなかったことに安心して微笑み返した。














「ギーッ!!!」














魔物は威嚇から攻撃へ変える。
私達は向きを構えた。
















「僕達は敵とみなされたようですね。」

「どのみち成敗するんじゃ!行くぞギート!!!」














モーゼスとギートは、誰よりも早く魔物に向かって行った。
















「エンシェントノヴァ!!!」

「のおっ!!!」













ノーマのブレスが魔物を捕らえる。でも近くにいたモーゼスが巻き添えをくらいそうになった。
モーゼスは槍を構えてノーマに突進すると、彼女に食いかかる。















「シャボン娘、ワレはワイに恨みでもあるんか!?」

「ないない、全然な〜い。」













ノーマは笑いながら後ずさった。
なんか悪気ありそう…。
















「アニキ!そんなことしてる場合じゃないでしょ!」

「そうじゃった、ギート!」












モーゼスはノーマから離れると再び魔物へ向かい、槍を投げる。
どこからそんなに槍が出てくるのかわからないくらい投げる。














「ガウガウ!!!」












そしてギートが魔物の後ろに回り飛びついた。
魔物はそれに怯むと、そのまま地面へと落ちる。ギートは回転して落ちた魔物の上に立つと、遠吠えを一声した。














「ヒョオオオオ!やったぞォ。」













モーゼスの歓喜の声が木霊する。
ギートはギートで得意そうに魔物の上で立っていた。














「ギート。」













モーゼスが呼ぶとギートは魔物の上から飛び降りる。
魔物は傷ついた体を起し、最後の力を振り絞って立ち上がる。













「ガウ…?」












ギートはそれに気付くと、思い切り魔物飛びついた。













「ギート!もうええ!そいつはどうせ助からん!」












しかしギートは魔物を爪で引き裂く。













「ギート、やめるんじゃ!そいつはもう死んどる!」












しかし、動かない魔物をギートは牙にかける。












「ちょ、ちょっと、ギーとんやりすぎだってば!」











ギートには何の声も聞こえていないみたいだった。
私はどうにか止められないかと思ってギートに駆け寄る。そしてその背中を一撫ですると、ギートは遠吠えして魔物を襲うのを止めた。













「うわっ、むごい……。」













ギートが襲った魔物の姿は散々なものだった。
体はぼろぼろで肉が引き千切られ、所々骨が見え隠れしていた。
ノーマとシャーリィは口に手を当てると後ろを向く。














「ギート……。」













私がもう一撫ですると、ギートは私にしか聞こえないような小さな声でくうんと鳴くと、モーゼスや仲間達に目もくれず山を降りていく。














「ギートがモーゼスさんの言葉を、無視するとは思いませんでした。そしてそんなギートを止められたのがさんだってことも。」

「今のは……たまたまじゃ。」













モーゼスは肩を震わせて俯いた。
チャバがそれを心配そうに見守っている。















「本当に……?」

「たまたまに決まっちょる!!決まっちょるんじゃ!!」













モーゼスは大声でそう言うと、ギートを追う様に山を降りていく。
彼の言葉はまるで、自分に言い聞かせている様だった。













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信頼しているから、疑いたくない


2007/11/14





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