帰りは皆で無言で、私もどうしようと思ってしまって…。
こんなに、モーゼスが怒っているような、悲しんでいるようなことは殆どなくて。


いつも


「家族が一番じゃ!」


なんて言っているモーゼスが何処かに行ってしまって、仲間達皆で戸惑ってしまう。











彼の笑顔は、身近で日常的当たり前の事だったのだと今更ながら気付いた。












「あ、こらモーすけ!待ちなさいよ!」











ノーマの声を無視して、彼はのしのしと山を降りて行ってしまう。
私達はお互いに顔を見合わせて、困ったわねと溜息を吐く。













「ったく……。」

「余裕がないんでしょう。

さっきのギートの様子を見れば、嫌でも考えさせられますよ。」

「ましてやモーゼスは魔獣使い。チャバの話にあった宿命のことは、重く感じているはずだからな。」












やっぱり、私とモーゼスが居なかった時、皆はチャバから詳しい事を聞いていたのね。

どうしても、この世界にある逃げられない運命なら立ち向かうしかないかもしれないけれど、もし、どうにかなるなら…。












ちゃん?」

「え、何?」

「大丈夫?あんまりアニキとおいら達の事で悩まないでね。」












チャバは心配そうに私の顔を覗く。
それに微笑むと、ゆっくりと首を横に振った。












「大丈夫。モーゼスとギート、チャバ達の事で私が悩むのは当然なのよ。仲間ですからね。」

「……そっか。ありがとう、ちゃん。」











チャバは俯いて微笑む。

彼は優しいから、私がこれ以上首を突っ込んで大変な思いをしないようにと思っているみたい。


でも、それは違うわよね。
こういう時こそ、力にならなければ。












「これで終わりになるといいが……。」

「モーゼスちゃん、先に行っちゃったわよ?」

「俺達も行こう。」












どんどん先に行ってしまったモーゼスを追って、私達も街へと向かった。












































「ウオーン!!!」












ウェルテスに着いた途端、ギートは仲間を呼ぶように遠吠えする。
仲間を呼ぶようにという表現は的確ではないかもしれないけれど、私は遠吠えを聞いた瞬間、そう思ってしまったの。












「オウ、ギート!」











モーゼスが呼び止める間もなく、ギートは戻ってきたばかりの街から出て行ってしまう。
彼は舌打ちをすると、











「……ったく、勝手にせい!」










と悪態をついて野営地へと向かっていってしまった。













「ちょっとモーすけ!待ちなさいよ!

だ〜も〜!勝手はどっちだ!」

「今はひとりにしてやった方がいいかもしれんぞ。」












追いかけようとした私達を、ウィルが大人の落ち着きで止めてくれる。
出しかけた足を戻して、困惑顔で彼を見上げた。












「ギート、大丈夫なんでしょうか。」

「今は、様子を見るしかない。」

「下手な憶測は、事態を混乱させるだけだからな。」

「だが、後手に回るのは避けたい。起こってからでは遅いこともある。」













そんなウィルの言葉にジェイは目を瞑ると、街の入り口の方へ数歩進む。
そしてふと目を開いて仕事顔になると、紫色の瞳を光らせた。












「可能な限りの情報は、僕が集めておきましょう。」

「頼む、ジェイ。」

「モーゼスさんのためと言うのは、不服ですけどね。」












彼はそう言って背を向けて走っていった。

あんなことを言いながら、ジェイは人一倍モーゼスを心配している。
だって、モーゼスがいつも通りではないと、とてもつまんなそうな顔をしているのだもの。


それを追う様にチャバも入り口の方に歩くと、












「おいらも調べたい事があるのでここで失礼します。」












と頭を下げる。
チャバも行くなら、と私も行くと立候補した。












ちゃんはいいよ!危ないから。」

「ううん…もしかしてよ?もしかしてギートが犯人だったら、私に止められるかもしれない。」

「え?」











チャバは驚いて私を見つめた。
言葉足らずの私を補うように、ウィルが話を続ける。














「……さっきの、モーゼスが止められなかった時だな?」

「ええ。」












そう。
あの時、モーゼスがいくらギートの名前を呼んでも止められなかったのに、私は触るだけで止める事が出来た。
それは私に止められる力があるかもしれないという事だわ。












「でも……」











チャバはあくまでも私を連れて行かないよう取り計らうつもりだわ

私はちらりとウィルを見ると、お願い、とウインクをする。
するとウィルは溜息を吐いて微かに頷いた。











「ジェイはギートが犯人でも近づくような無茶はしない。

しかし、チャバは近づこうとするのではないか…?」

「!!」











ウィルは鋭く言い当てる。
きっと、チャバならギートをどうにかしようと近づいてしまうかもしれない。












にはそんな無茶の手助けをしてもらえばいい。」

「……わかり…ました。

お願いするよ、ちゃん。」

「ええ、宜しくねチャバ!」












私達は街を出るとギートの足跡を追う。
ガチャガチャと鳴る腰のナイフを押さえ、チャバは私の手を掴んだ。


彼の後姿はいつもと変わらないはずなのに、何だか急いている気がした。











「二人とも大丈夫でしょうか。」

「だいじょうぶよぉ。ちゃんもチャバちゃんもしっかりしているもの。」

「そっかな〜?」

「案外、が無茶してチャバに止められるかもしれんな。」

「ありえる〜。

あ、もしかしてワルちんにちゃんが帰れないのはあたしが伝えんの?」

「そうだろうな。」

「セネセネ変わる?」

「馬鹿言うなよ。シャーリィんときみたいにまた恨まれちゃたまったもんじゃない。」

「お兄ちゃんたら!」

「さて、俺達は帰るぞ。」

「は〜い。」

















































ホーウ、ホーウ…

リリリ…












夜の生き物が鳴く中、モーゼスは一人野営地のテントの外で座っていた。
いつもならその隣には、燃える様なオレンジ色の毛並みをもったギートが眠っているはずだが、今日はいない。












「のう、ギート……。」












彼は重い腰を上げて空を見上げる。
空には無数の星が散りばめられ、きらきらと流れる川の様に光っていた。












「ワイらは、この先もずっと一緒じゃ。」











星一つ一つを見逃さないようにその瞳に写し、瞬きする事なくじっと見つめる。
そのうちに目が乾いてきて辛く、唇を噛み締めた。













「一緒におるんじゃ。何が起ころうとも、一緒なんじゃ。」












彼は拳を握り締めるように目をぎゅっと瞑ると、顔を落として昔を思い出す。
ずっと一緒にいたギートとの思い出を。














「どこいきおった!」

「そこにおったか!待たんかこら〜!

待つんじゃ!くそが!待たんかこら〜!」
















幼い頃のあの日、まだ自分の魔獣さえも居なかった時、モーゼスはある集落でのびのびと暮らしていた。
朝も昼も夜も元気に飛び跳ねていたあの頃は、今とあまり変わらなかったかもしれないとも思う。

集落を少し離れ、大人たちに行ってはいけないと言われていた森に入った時に出会ったチビガルフ。
それがグランドガルフの子供だと知ってか知らないでか、モーゼスは惚れに惚れ込んで追い掛け回す日々が始まったのだ。


しかし幼くともグランドガルフ。
モーゼスに捕まる事はない。















「……あん?足が地面についとらん……。

ぎゃあああああっ!!ここはガケじゃった!!

うぎゃあああああ!!落ちるぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
















あまりにも夢中で追い掛け過ぎて湖に落ちた事もあったくらいだ。

しかしそんなモーゼスを笑うように、幼いグランドガルフは澄ました顔で彼の失敗を見ている。






あの時は、そんな日が続いていたのだ。














「それが強う絆になったのは、あの時じゃった……。」












モーゼスは昔を懐かしむように座ると、瞼を落とす。
そして小さく寝息を立て、幸せそうに眠りについた。


















****************

四六時中一緒にいたモーゼスとギートの絆ははかり知れないくらい強いものがあると思います。
人と違って言葉で話すということがないけれど、それがない分心の絆が強くなるっていうのがあるのではないかと思いますね^^


2007/11/26





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