「チャバ」
「ん?」
「見て、あそこ…」
「あっ…」
ギートをつけてきたはずなのに見失ってしまい街に帰ろうか悩んでいた時、一匹のガルフが私達の前を横切った。
それはギートではなかったけれど、普通の魔物とは違った気を持っていて明らかに異様だった。
「つけてみよう。」
「ええ。」
見つからないようにと、そのガルフが見えるか見えないかのところで見張る。
「何かを探してるみたいだ。」
「ええ。一体何かしら…」
ガルフはそこら中の臭いを嗅ぐと、一吼え。
「ウオーン!」
その声は大きく、威厳があった。
もしかしたらウェルテスまで聞こえたかもしれない。
「呼んだわね。」
「うん、呼んだ。絶対呼んだね。」
今のは絶対に仲間を呼んだはず。
私達は瞬きするのも忘れて食い入る様に見る。
ガルフはそんな私達に気付くことなくしりっぺたを地面に着け、舌をはっはっと出している。
しばらくすると、様々なガルフ達が集まってきて先程のガルフの周りに座った。
「来たわ…どうする?」
「様子を見よう。どうなるかわからないし…。」
チャバはそう言うと目を細めて群れを見つめる。
とりあえずギートはあそこにいないみたい。
「何を話してるんだろ。おいらにも理解出来ればいいのに。」
「モーゼスにはわかるのかしら?」
「アニキはギートだけだよ。」
チャバはくすくす笑いながらも、気を抜くことなく見張り続ける。
しばらく見張り続けてもガルフ達が動く気配はなかった。
でも私達の勘は、絶対に何かあると言っている。だから息を潜めてその時を待つしかない。
その時、
「ガルフだ!助けてくれ〜〜!」
助けを呼ぶ声が聞こえた。
その足音はこちらへと向かって来る。
「チャバ!」
「もしかして、こっちは待ち伏せ部隊なのかも…」
チャバはいち早くサーベルを取り出した。
「とにかく助けよう!」
「ええ。」
私も弓を持つと、矢を番える。
チャバと一緒に戦うのは初めてだったけれど、カンがとても良くて戦いやすいわ。
彼は、襲われている人々を安全な崖下へ誘導すると、迫り来るガルフを次々と切り裂いた。私はその補佐にまわって精神を統一すると、息つく暇なく矢を放つ。
「ちゃん!」
一匹のガルフが崖を上り、そこから飛び降りようとした。
チャバに呼ばれた事でその事態を理解すると、崖の上にいるだろうガルフに矢を放つ。
「ぎゃんっ…」
叫び声が聞こえる。
姿は見えないけれども、ガルフが息堪えたのだろうと悟った。
「チャバ、大丈夫?」
彼に駆け寄って体中をくまなく見つめる。
かすり傷が少しあるけれど、大丈夫そうね。
「//////ちゃん、そんなに見つめないで。」
「えっ?ごめんなさい。」
「…いいんだけど、恥ずかしいよ。」
「恥ずかしい…?…ごめんなさい。」
数匹残ったガルフは、戸惑ってあの雰囲気の違うガルフを見る。
明らかに、思ってもみなかった防衛者の私達に困惑していた。
「あっ、逃げた!」
ガルフ達は私達に一斉に背を向けると、一目散に逃げ出した。
「どうしよう、この人達を街まで送り届けるのが先決だけど…」
「私が行くわ。」
「いえ、僕が行きますよ。」
突然ジェイの声が聞こえたと思うと、目の前に姿を表す。
私とチャバばびっくりすると、一歩後ずさった。
「二人とも驚き過ぎです。」
「すみません。」
「ごめんなさい。」
私達が同時に謝ると、彼はくすりと笑う。
そして街の人達を見渡すと、逃げていくガルフの方を見た。
「…さんはチャバさんと行って下さい。」
「でも…」
「あなたでは弓だけで全員を守りながら街へ行くのは無理でしょう。」
「あ…」
確かにそうだわ。
私が頷くと、ジェイはチャバを見る。
「チャバさんは一刻も早くガルフ達を追いたいですよね。」
「オイラは…」
図星だったのか、チャバはうろたえるとそのまま俯いてしまう。
「チャバ…?」
「……すいませんジェイさん。」
「いえ、いいですよ。
ということで、さんはチャバさんとガルフ達を追って下さい。」
「わかったわ。」
ジェイはそう言うと、街の人々を誘導し始めた。
「行こう、ちゃん。」
「ええ!」
私達はガルフを追って走り出す。
距離がかなり離れてしまったけれど、きっと追い付くわ。
私は弓を背に掛けるとチャバの背を追った。
「皆さんこちらです!少し歩けばダクトがありますから!」
ジェイは周囲の気配を気にしつつ、街の人一人一人を気遣って歩いていた。
ある者は怯え、立ち上がることが出来なかった。ある者はジェイの袖を掴み離さない。
「さんがいれば大丈夫でしょう…。
それにしても、チャバさんがあんなに追い詰められた顔をしているのは初めて見たな…。」
なんとかはっぱをかけて最後の街人をダクトに乗せると、ジェイは振り向いた。
二人が見えるわけではない。しかし心配で振り向かずにはいられなかったのだ。
「モーゼスさんといい、チャバさんといい、一本気のある男って奴ですかね。」
呆れた様に溜め息を吐くと、ダクトに入る。
「…悪くはないですけど。」
ジェイはふと笑った。
明け方のウェルテスは少量の霧に包まれ、まだ朝を認識していない。
街の入口に生えている美しい緑葉に露が溜まり、東の空から上がる太陽の陽射しがそれを輝かせるのは後少しというところ。
そこにガルフの群れに襲われた街人が数人と、ホッとした顔のジェイが現れた。
「着きましたね。」
ジェイは街人が全員無傷か確認し、自分の家に戻る様に促す。
「あの…」
若い男がジェイに話し掛けて来た。他の街人は困惑した表情で男を見ている。
この男が代表してジェイに何か言おうしているのを悟ると、彼は話す様促した。
「なんですか?」
「…あの山賊といつも一瞬にいるガルフを見た。
…オレンジ色の…」
「!」
「ガルフの群れを統率している様だったんだ…。」
男はそう言うと、街人の中へと戻る。
「……わかりました。情報の提供ありがとうございます。
この件に関しては、情報屋である僕とウィルさんで何とかします。なので、他言無用でお願いします。」
街人達は戸惑いながらも頷いた。そしてそれぞれ家路に急ぐ。
ジェイは彼らの後ろ姿を見ながら、どこまでこの事件を隠し通せるかを考えていた。
人の噂とは何処からか煙りが立ち回るものだ。すぐに皆の知るところとなるだろう。
「その前に解決しなければならないですね。」
ジェイはウィルの家へと急ぐ。
気掛かりなのはモーゼスの心境。
そして万が一何かに気付いたとチャバが、行動を早まらないかということだった。
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モーゼス編なのに、チャバ編みたいだ。
このまま続きます、チャバ編が(笑)
2007/11/29
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