さっき私がチャバに言われて走り出した場所に到着する。
当たり前だけれども、もうチャバの陰も形もなかった。
きっとガルフ達を追っていったんだわ。
ジェイをちらりと見ると、彼は無表情だった。
そして隣には遠くを見るモーゼス。
「……。」
彼は病気になってしまったのではないかいうくらいにおかしい。
行動も言動も何もかも。
それは…ギートが大変なことになっているのかも知れないけれど、モーゼスらしくどーんと胸を張らなければ。
でも、今の彼にとっては酷な事かもしれない。
列岩地帯の入口まで歩いて来ると、異様な空気に包まれた。
普段岩陰の海にある閑散としたものではなく、ねっとりと纏わり付くような空気だ。
「気持ち悪い…」
「本当です。ここ、気持ち悪い。」
シャーリィも何か感じとっているのか、私の腕に絡み付くと体を震わせた。
その体を優しく叩いて励ますと、歩を進める。
「きゃっ…」
歩き出した途端、いきなり立ち止まったモーゼスの背中にぶつかってしまう。
顔を押さえて非難しようとすると、彼はしゃがんで再び立ち上がった。
「モーゼス?」
「なんじゃ?」
「なんじゃ?じゃないわ。いきなり立ち止まらないで。」
「オウ、すまん。」
私の痛みはあっさり受け流されると、彼の手の中にあるものに視線が動く。
「……」
「何、それ…!!」
じっと覗き込むと、モーゼスが持っているものが何かの毛だということに気付く。
そして、それがギートのものだということも。
「ギートのね。」
「…そうじゃ。
…が助けたもんらが言っとったそうじゃ。
ガルフを纏めてるはギートじゃと。」
「!!」
そんなこと一言も聞いてない!
私は問うような目でモーゼスを見る。するとモーゼスはギートの毛をしまって空笑いした。
「ワレらは家族思いじゃからの。ワイの事考えてに言んかったんじゃろ。」
その笑いが悲しく思える。
モーゼスの気持ちが、痛いほど伝わって来た。
「全然いないね〜。ガルフどころか他の魔物も出てこないじゃん。」
「チャバもいないな。」
チャバに限ってはないだろうけれど、やっぱり心配になってくる。
「、そんなに気負うな。」
「クロエ…。」
「心配し過ぎてもしょうがない。ライクはきっと大丈夫だ。」
「ええ。私もそう思っているわ。」
「シャンドル、足が早い。」
クロエは微笑むと、皆より数十歩先を歩くモーゼスに声を掛けた。
彼も気を急くのか、足取りが早い。
「モーゼス、もっと歩調を合わせろ。」
「…ワレらが遅いだけじゃ。」
モーゼスはこう言うとスタスタと先に行ってしまう。
「シャンドルの気持ちはわかるが…。」
「私もあんなだった?」
「あれの十分の一くらいだな、は。」
「そう、よかった。」
私達はモーゼスに遅れを取らない様に駆け足になる。
「はあ、はあ〜。疲れた〜。」
ノーマがぜいぜいと息苦しそうに立ち止まった。
しかしモーゼスは無心に歩く。
「いい加減にしろ、モーゼス!」
そんな姿を見てウィルが怒る。
自分勝手な彼を大目に見れなくなったのね。
「ワレらが遅いだけじゃろって言うて…」
「あ〜、ウィルっちいいよ〜。
あたしが言うのも何だけど、大事な命かかってるからね。うん。
だから大丈夫〜。」
ノーマは大きく深呼吸すると、ビシッときをつけをした。
もう、何だかノーマが良い事言うから抱きしめたくなってしまう。
「ノーマ!」
「うわ!ちゃんどしたの!?
ぎょえ、グー姉さんまで!」
私が抱きしめた後にグリューネが私ごと抱きしめてくれる。
「頑張りましょう、ノーマちゃん!ちゃん!」
そしてこんな事まで言ってくれる。
「お〜う!」
「ええ!」
「うふふ〜。」
私達は変に笑い合うとお互いの手をとって歩き出したその時、モーゼスがその場にどかりと座り込んだ。
「休憩じゃ!」
あらら。
そういうつもりではなかったのだけれど。
私達はお互い顔を見合わせて、その場に座った。
「だぁ〜も〜耐えられない!」
休憩中、ノーマが急に叫び出した。
隣にいた私はその声に驚くと肩がビクリと跳ねる。
「なんなの、このくら〜い空気は〜!」
「状況が状況なのだからしょうがないだろう。」
「でもさ〜」
駄々をこねるノーマは口を尖らせた。
確かに暗い雰囲気。
モーゼスなんて酷く恐い顔になってしまっているし。
「ノーマさんは喋ってないと死んじゃうんですよね〜。」
「そうなの〜あたしってば〜…って、ちが〜う!」
ジェイのニヤニヤをその声で掻き消すと、立ち上がって地団駄踏む。
「相変わらず騒がしい奴だな。」
「しょうがないっしょ?この空気嫌なんだもん!」
「そうねぇ、お姉さんも嫌だわぁ。
だから頑張りましょ〜!」
グリューネがこの雰囲気を和らげようと腕を上げる。
大きな胸がぽよよんと揺れるけれど、モーゼスだけはそれに気付くことなく遠くを見ていた。
「グー姉さんの天然ぶりだけが救いだよ〜。」
ノーマの溜め息が雰囲気に溶けた。
どんどんと奥に進むと、ねっとりと絡み付く空気は思いものに変わってきた。
私とシャーリィは顔をしかめると嫌悪を表す。
「早くここから立ち去りたいです。」
「本当、酷いものだわ。」
鼻を摘みたいくらい苦しい。
私はシャーリィと手を取り合った。
「な〜んにもいないじゃん。」
「おかしいですね。さん、ガルフ達は本当にここに入って行ったんですか。」
「本当よ。」
「でも、肝心のチャバがいないな。」
「もしかしてもう……」
ノーマが不吉な事を言った。
すると、モーゼスが思いきり彼女を睨む。
「チャバはワイの次に強いんじゃ。そがあなことありゃせん!」
「そのわりには、殺される!と言っていましたよね。」
「……。」
ウィルの家でのモーゼスの言葉。
ジェイはそれで突っ込んだが、モーゼスは彼を睨んでダンマリだ。
「ギートにかかれば、なのでしょう?」
「……。」
モーゼスは何も言わないけれど、誰もがあの言葉を聞いた時に気付いていたことなの。
「二人ともやめないか!」
そんな二人を見かねたウィルが、間に入ってモーゼスとジェイの頭に拳骨を落とす。
その痛みを味わった後も、二人は異様な雰囲気で目線を交わしていた。
「もしかして…間違ってるとすれば、私達ということか?」
クロエが閃いたように言い、それにモーゼスが賛同する。
「クッちゃんの言う通りかもしれん!」
何のことか解らずに二人の顔を交互に見る。
するとジェイがポンと手を叩いた。
「そうか!
僕達はガルフ達を追い詰めたと思っていたけれど、本当は…」
彼が言い終わる前にガルフ達の遠吠えが聞こえたかと思うと、一匹のガルフが出て来た。
チャバと見張ったあの強そうなガルフが。
「ギーとん!?っじゃない!」
「あんなのはギートと違う!」
強そうなガルフの回りには下っ端のガルフ達。
私達は逃げる隙間もないくらい囲まれてしまった。
「おびき出されたのは俺達の方だな。」
それぞれの武器を構える。
「行くぞ!」
セネルの掛け声と共に、私達は飛び出した。
***********
あわわ、今頃チャバはどこに…。
今度はモーゼス君がイライラ(笑)
2007/12/05
88へ