「…っ…フウ。」
本当は気付かれてたなんて。
思ってなかったわけではない。ガルフは鼻が利く魔物だ。自分一人でも気付かれないわけはない。
「どうしよう……」
チャバは岩の上で溜め息を吐いた。
下にはたくさんのガルフ達が見上げている。
「アニキ、オイラもうだめかもしんない。」
チャバは人生を諦めた様に肩を落とした。
遡ること十数分前、チャバは一定の距離を保ってガルフをつけていた。
本当にここが本拠地なのか、確実に報告するためだ。
ジェイが心配した様に、始めは自分でカタをつけるつもりだった。
しかしとの約束と、どんどんと増えていくガルフの数に圧倒され、自分一人の力では解決出来ないことを悟る。
「ちゃんの言った通りだ。オイラ一人じゃ何にも出来ない。」
次第に自信を失っていく自分に嫌気がさしながら、チャバは重い足取りでガルフを追う。
自分の後ろにガルフがいるとも知らずに。
「そろそろ、引き上げた方がよさそうだな…。」
圧倒的数のガルフを発見すると、身の危険を感じて引く事を選ぶ。
引き返そうとしたその時、大きな…聞き覚えのある遠吠えが聞こえた。
「ウオーン!!!」
威厳あるその声は、いつもと同じ様で違うギートの声。
「!…ギート…」
チャバは振り返るのを止めて前方のガルフ集団の真ん中を見る。
そこには太陽色の毛並みを輝かせたギートがいた。
「…やっぱり、統率しているのはギートだったんだ。」
チャバは現実を突き付けられ、絶句していた。
そうだろうと疑っていたけれどもやはり、その現場を見てしまうと辛い。
「アニキ…アニキはどうするんだい?」
彼はモーゼスに問い掛けると座り込んだ。
「……」
座り込むまでは気付かなかったが、後ろから微かな息遣いが聞こえる。
それは人間のものではなく、明らかに動物のものだった。
はっはっはっ…
小刻みに息を吐く音。
そう、今までつけてきた中では他の魔物に出会ってない。
バレてる!?
チャバは後ろを見ない様に立ち上がると、カウントをし始めた。
三…
二……
一……
「今だ!」
彼は一目散に走り出した。
すると、ガルフ達は一斉に走り出しチャバを追う。
無理だ。
足で勝てるはずがない!!!
チャバは素早く岩の上の方を見て安全な場所を探る。
そこはダメだ。あそこは遠すぎる。
左右に目配せしてある場所を見つけると、崖に飛び着いた。
「ガフ…ガウウ…」
ガルフ達も体当たりするように崖に飛びつこうとするが、無理だ。
チャバがすたこらと崖を上がると、ガルフ達は悔しそうに崖の前をうろうろした。
「まさか気付かれてるとは…」
チャバは溜め息を吐いた。
しばらくガルフは崖の前をうろうろしていたが、チャバがおりてこないのがわかったのかその場に座り込んだ。
「座り込まれた…」
オイラが下りるまでずっと待ってるつもりかぁ…。
いつまでもつだろ…。
何だか色々と思い出されて虚しかった。
オイラ、まさか死を覚悟し始めてる?
ダメだダメだ。
死ぬわけにいかないもんね。
ギートを取り戻してないし、それに……
「あーーっ!!!」
チャバはあることを思い出して大声を上げた。
それに驚いたガルフ達はチャバを見上げる。
「さっき、せっかくちゃんと二人きりだったのに…」
気持ちを伝えるのを忘れた…。
チャバは先ほどよりも大きく肩を落とす。
「オイラって、なんでこう、抜けてるんだろ…。」
彼女はいつも誰かと一緒にいる。
だから二人きりはもう有り得ないことかもしれない。
それに、
「アニキもセネルさんもジェイさんもワルターさんも…きっとウィルさんも、ちゃんの事…」
好きなんだろうなあ。
口にした名前の数々、顔を思い出して色々考えているとどうも自分に勝ち目はない。
「オイラに出来ることは、
気持ちを伝えることだけだ。」
チャバはしょぼくれると、ふと自分の状況を思い出す。
「あっ…、気持ちを伝えることも難しい状況だったんだ!」
ガルフ達は彼の独り言を熱心に聞いているようだ。
内容はわからないだろうが。
「…ガルフに熱心に聞かれてもなぁ…。」
「ウオーン!!!」
「へっ!?」
その時、ギートの遠吠えがしたかと思うと自分を見張っていたガルフ達が走り去るのに気付く。
ガルフは一匹の見張りを残すことなくギートの方へ向かっていった。
「何なんだろ。」
ギートの方を見る。
すると一瞬目が合った気がした。
「えっ…」
その瞳は温かで、いつものギートな気がする。
「もしかしたら、まだ…。」
完全に野性化したわけじゃないのかもしれない!!
淡い期待を抱く。
チャバは他のガルフに気付かれないようにゆっくりと崖を降り、移動し始めたギート達に着いていった。
しかしガルフの移動は次第に早くなっていき、追いつけなくなってしまう。彼はガルフの向かった方を推測すると、一息つく。
「何があったんだ…あ…、まさかちゃんがアニキ達を連れて来たのかもしれない。
こうしちゃいられない!」
チャバは十分の休憩を取るでもなく、走り出した。
そして、着いたそこには惨劇が待っていたのだ。
「かくれんぼなんぞ、ガキんころに卒業したろうが!
出てこいや、ギート!」
しばらく走って聞こえたのはモーゼスの声。
チャバは驚くと崖下を見る。
そこにはモーゼスととその仲間達の姿。
彼らの前には先ほどと二人でつけていたガルフが横たわっている。
モーゼスが仲間達の一歩前で何かを睨み付けていると思ったら、船の残骸の隙間からギートが仲間を連れて現れた。
「ギート……」
ギートが現れた時の皆の顔は、えもいわれぬものだった。チャバはそれを見て、自分と同じくらいギートを心配しているのだと理解する。
「皆さん…アニキ…」
チャバは彼らのところへ行く道を探すと、危険を顧みずに降りていく。
ずざざと体を擦り、切り傷を付けながらも降りていく。
「ここは任せろ。ワイとギートを、信用するんじゃ。」
!!!
ダメだ、アニキ!!!
心の中で叫んでも、モーゼスに聞こえる事はない。
それどころか、チャバの場所からは彼らの声が聞こえるだけで姿は見えない。
状況がわからないのだ。
「モーゼス、危険だ。」
「危険なことなんぞ、今までもクサるほどあったわ。
ギート、いたずらにしては、ちいとばかしやりすぎたの。」
じゃり、と聞こえる足音。
モーゼスがギートの近づく音だ。
アニキ、ダメだ!!!
「っ……」
チャバは腕を岩に引っ掛けて切ってしまった。つつと赤い血が流れる。
しかし気にする暇もない。
「十分遊んだじゃろ?そろそろウチに帰ろか。」
じゃり
じゃりとどんどん近づいていくのが感じられる。
しかしチャバには何も出来ない。
やっと皆の方に出られる開けたところが見え、そこに手をついて体を回転させる。
そして、そこで見たものは……
「モーゼス、危ないわ!!!」
の声を背にしてギートに襲われるモーゼス。
チャバはこれ以上開かないだろうというくらい目を見開き、
「あっ…アニキ…」
そして崩れ落ちた。
**************
チャバでしたー(笑
2007/12/08
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