とぼとぼと歩いてしまう自分が嫌になってくる。
足よ動け!
なんて言っても、勝手に動くわけではないし、これは自分の気持ちを盛り上げなければどうにもならないってわかってた。
モーゼスと同じくらい…いいえ、彼よりは劣るかもしれないけれど、責任を感じて自信をなくしているだろうチャバに会うのも憂鬱に感じた。
私がこんなんじゃいけない!と思うけれど、人の気持ちなんてそううまくいかないものなのよ。
道の小さな石ころが、私の足に踏まれてジャリジャリと音を奏でる。
言い方を変えれば、こんなに良い風に聞こえるのだから、チャバに会いに行くのだって、他に託つけて行けばいい。
例えば、歌を聞かせに行くとか…?
何故歌を聞かせに行くのか聞かれたら…そういう約束をしたから、と言えばいい。
「そうね、歌だわ!」
力を込めて言ってから気付くけれど、最近全く歌の練習なんてしていないからまともな声も出ないかもしれない。
結局、何に掛けても自信持って会いに行けないのだわ。
とうとう灯台下の野営地が見えて来た頃、私は腹を決めなければならなかった。
「…あ…」
「あっ、さん。
…チャバ、さんが来てくれたぞーっ!」
「え、ちゃんが!?
いでっ…」
こんな遠くにいて、まだ顔もよく見えないだろうに、モーゼスの子分の一人は私の姿を目敏く見つけチャバに報告した。
そのため、私の気持ちはいち早く決断を迫られたの。
「ちゃん、いらっしゃい。」
「あ…ええ。」
「どうしたの?」
「…
…チャバが、心配で。」
「オイラが?」
思えばチャバのような良い人に嘘なんてつけるはずなかった。
よく考えればわかったじゃない、こんな事態で歌なんて歌いに来たら変だって。
「ありがとう。
ちゃんがここに来てくれたって事は、アニキはもう大丈夫なんだね?」
「ええ。今は皆がついてる。」
私はふとチャバの指を見た。すると大きな傷ではないけれど、血が出てるじゃないの。
「チャバ、血が…」
「あ、これさっき慌てて…」
「私が来た時の「いでっ」ていうの、これでしょう?
もう、慌てん坊さんね。」
私は腰に付けていた袋をまさぐると、消毒液と包帯を出す。
「さあ、貸して。」
「う、うん。」
心の傷は治してあげられないけれど、こういう傷は治してあげられるわ。
私は意気揚々と手当にかかった。
「ちゃん、オイラはアニキの力になれるかな。」
「何言ってるの、もう十分過ぎるほど力になっていると思うわ。」
「でも…」
「今回の事はね、結局はモーゼスとギートの問題なの。だからチャバはその補佐をしてあげるしかないと思う。
チャバだけでは何も出来ないわ。」
「うん。それは痛いほどわかったよ。」
「最後には、モーゼスとギートが決めることなの。」
「うん、わかってる。わかってるんだけど…」
チャバは悔しそうに顔を歪めると、さっき怪我をした方の拳を地面に打ち付けた。
「てっ…」
「まあ、チャバったら…」
包帯に血が滲んでしまったのでまた巻き直してあげると、チャバは照れて頭を掻いた。
「ちゃんにはオイラもアニキも迷惑かけてばっかだ。」
「そんなことないわ。」
「あるよ。」
今度は包帯を巻いてある手を守る様に緩く拳を握る
彼は真面目なのね、と思った。
「ねえ、ちゃん。」
「何、チャバ。」
「歌って?」
「歌?…いいわ。」
そのつもりになろうと来たのだから、歌いますか!
「ウオーン!」
息込んで立ち上がった時、すぐ近くでガルフの遠吠えが聞こえた。
はっとして見渡すけれど、姿は見えない。
「ちゃん、こっちへ。」
チャバが素早く私の腕を掴んで走り出す。
あ、また包帯に血が…
「まさか、来るなんて…」
チャバが怯えた声で呟いた。
彼がこんなこと言うなんて、あの遠吠えの主がギートだと言っているようなものだわ。
「チャバ、私も。」
「だめだ!ちゃんに何かあったら、オイラはどうしていいかわからない!!!
だから隠れて。」
「チャバ…」
チャバは真面目で責任感が強いから…そう言うなら仕方ないと思ってしまう。
「絶対に出て来ちゃだめだよ。
何があっても!」
「何があってもって、何かあるというの!?」
「ウオーン!」
詰め寄った瞬間、先程より近い遠吠えが聞こえる。
チャバは何も答えずに私を隠すと、走っていってしまう。
どうしよう、どうすればいいの?ここに隠れていても、ガルフは鼻がいいから見つかってしまうわ。
…それなら…!!
「ぐうっ…チャバ、そっちにいっ…」
何かが引き裂かれる音が聞こえる。そして低い呻き声も聞こえる。
「ギート…」
モーゼスの子分達がギートを呼ぶ声も聞こえる。
そして、
「ギート、こんな事はだめだ!皆、皆仲良く暮らしてきたじゃないか!
あの頃に戻ろう。」
チャバが説得する声も聞こえた。
しかし、ギートの声は聞こえず、草がさらさらと揺れる音がするだけ。
「チャバ、危ない!!」
誰かがチャバに警告する。
私には見えない何処かで、彼に何かが起きようとしている。
「うわぁぁぁっ…」
チャバの叫び声が聞こえた。
そして、やっぱり何かが引き裂かれる音も。
「チャバ!!
…お、おいやめろギート……やめろ…!!!」
「ダメよ!ギート!!!」
傷を負ったモーゼスの子分にギートの爪が襲い掛かろうとした時、私は耐えられなくなって隠れていた所から止めに出てしまった。
ギートはギロリと私を見ると、体をもこちらに向ける。
「だめだ、ちゃん…逃げて…」
チャバのか細い声が聞こえて胸が締め付けられる。
この現状を見て?
これが、今まで一緒に暮らしてきた人達にする仕打ちだというの?
「ギート、これは一体何?
あなたはつい先刻もモーゼスを手に掛けたばかりなのよ。それなのに、チャバ達にもこんなことをして……許せないわ。」
どうすればいいかなんてわからなかった。
モーゼスの話ならば、ギートを殺すしか道はないのかもしれない。でも、私にはそんなことは出来ない。
ゆっくりとギートに近づいていく。
ギートは私をねめつける様に見ながら、動かなかった。
「ギート、私は…」
言いかけたその時、突然ギートが飛び上がって私にタックルしてきた。
その反動で転んだ私は、地面に頭を打ち付けてしまう。
「うっ……」
こんな時に…
なんて思いながら、意識が遠のいていく。
最後に聞こえたのは、チャバの私を呼ぶ弱々しい声だけだった。
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ヒロインがやられた!?
真相は次回で!(笑)
2007/12/22
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