「チャバ!何があったんじゃ?」
野営地に駆けつけたモーゼス達は、入り口近くに倒れているチャバを見つけた。
彼の後ろには、入り口まで体を引きずってきた跡がついている。チャバは体を張って何かを追い、入り口で力尽きたようだった。
モーゼスとシャーリィがチャバの元へ行き、他の仲間たちはグミを片手に他の子分達の元へ走る。
「僕は病院には内密に、オルコットさんを呼んで来ます。」
ジェイはこの惨状を見て、仲間達とは別にオルコットを呼びに行った。
モーゼスはチャバを無言で見下ろすと眉を寄せた。チャバはそんな彼を申し訳なさそうに見上げる。
「あ……アニキ……。それが……それが……。」
「ギートにやられたんじゃろう?」
モーゼスは膝を着くと、チャバの顔を覗き込んだ。
そして優しく問う。
「……うん、ごめん。アニキ……オイラ達……、うっ…」
「嬢ちゃん、チャバの傷を頼む!」
チャバの体を支えているシャーリィにモーゼスは言った。
シャーリィは頷くと、チャバの体を地面に横たえてブレスを使う。
チャバの胸はさらし事引き裂かれ、見るも無残な状態だった。
チャバは痛みを堪えてゆっくりと右手を上げると、目頭を覆った。
そして肩を震わせ、唇を噛み締める。
「オイラ達、役に立たなくて……。」
「チャバ、喋らんでええ。」
「アニキが哀しまなくていいよう、オイラ達だけで頑張ったけど……。」
「ワレらの気持ちはわかった。チャバ……もうええんじゃ。」
チャバは気持ちを吐き出すように大きく溜息を吐くと、うっうっと泣き出した。
「……オイラ達、駄目だった。
相手がギートだと思うと、戦う事なんて出来ないんだ。ギートを疑ってた兄弟たちもたちも、みんな戦う事が出来なかった……。」
「もうええんじゃ、ワレらはようやった。」
「みんな、ギートが好きなんだよ。アニキと一緒にいて欲しいんだ。」
チャバは目から手を退けると、赤い目でモーゼスを見つめる。
その瞳からは大粒の涙が溢れている。
「でも……ちゃんが、ギートに連れ去られた。」
「それは……!」
先に声をあげたのはシャーリィだった。彼女はしまった、と口に手を当てるとモーゼスを見上げる。
「ごめん、アニキ。アニキの大切な人を守れなかった。」
「…は、ワイらの大切なもんじゃろ?」
「アニキ……」
「すまんのう、チャバ。こがあな思いさせて。」
チャバが嘘をつく筈がない。
ギートが子分らを襲い、を連れ去ったのは事実じゃ。
ワイはどうすればいい、どうすればいいんじゃ?
「……ワイらはもう、だめなのか?ギート、どうなんじゃ?」
モーゼスは思い出す。
山賊のアジトで過ごした、ギートとの思い出を。
「ワイに歯向かうとは、ええ度胸じゃ!かかってこんかい!」
ギートとケンカした時、まだまだ自分がギートより強かった。
「ギート、すまんのう。……ワイが悪かった……。メシを横取りして、悪かった……。明日はワイのをわけちゃるけんのう……。」
仲直りした後、ギートを枕にして夢心地に呟いた謝罪の言葉を。
「バカなやつじゃのう。ずっと待っちょったんか?」
そして思い出す、ギートと初めて心が通じ合った瞬間を。
「……」
「あらかた手当ては終わった。皆命に別状はないよ。」
「ありがとう、オルコット殿。」
「いや、しかし……。」
オルコットは仲間達に背を向けるモーゼスを心配そうに見遣る。
クロエも同じようにモーゼスを見て肩を下ろした。
「傷は浅かった。殺すつもりはなかったのだと思う。
……魔物からすれば、お遊び程度のものなのだろう。」
「「「!!」」」
オルコットの言葉に皆息を飲んだが、モーゼスを気遣って誰も声を上げない。
「……」
「モーゼス、どうした?」
モーゼスはすっくと立ち上がると、仲間たちを見据えた。そして目を瞑る。
ワイは頭のデキがようないんじゃ。ギートもよく知っちょるじゃろ?
他の方法なんぞ、思いつきゃせん。
じゃから、ギート、勘弁してくれや。
「ギートを殺す。」
モーゼスは言い放った。仲間達は驚くと、信じられないという顔で彼を見る。
「いきなり何言い出すのよ!」
「……」
ノーマの怒りに、モーゼスは答えない。
「ちょっ、ちょっとマジ?」
「本当にやれるのか?」
「やれる、やれんの話はしちゃあおらん。やるんじゃ!」
モーゼスはフイとセネルから目を逸らすと、遠くを見た。
セネルはそんなモーゼスの行動が、本心を隠していることを知っている。
「シャンドルは本当にそれでいいのか?」
「誰かの手にかかるくらいじゃったら、ワイが引導を渡しちゃる。」
「だ、だけどさ、ギーとんを殺すってのは……。」
「そんな結末でいいのか?」
「セの字がワイの心配とはのう。きっと明日は雪じゃのう。」
本心を言わないモーゼスに呆れとか何よりも、怒りが来てしまった。
モーゼスが単純なのはわかっている。こういう答えを出すだろうということも予想がついていた。
だけども俺達は、そんなに頼りないのか?
「いいかげんにしろ!冗談で誤魔化すなよ!」
「バカを言うのは、時と場合を選んでください。」
ジェイも同じ気持ちでいた。彼は、呆れから来る怒りをモーゼスにぶつける。
モーゼスはジェイの前まで歩いていくと、ワナワナと体を震わせた。
そして苦しそうな顔で言う。
「じゃったらなにか?ワイにギートはやれんと、そう言えばええんか!?
誰もギートを殺さんでくれと、頭下げたらええんかっ!!
ワイだってのう、いっぱいいっぱいなんじゃ!
これでもない頭で考えた!ワイはギートを許すわけにはいかん!許すわけにはいかんのじゃ!!
ギートはやっちゃならんことをした。ワイが絶対に許せんことをしたんじゃ。
セの字に怪我をさせ、チャバ達にこの仕打ちじゃ。あげくにの連れ去って命をも知れん状態じゃ。もはや、言い訳は出来ん。
ギートが家族に手を出すんじゃったら、ワイも容赦はせん。」
モーゼスの出した答えは当たり前なものだと、誰もが思う。
しかしそれを受け入れられないほどに、モーゼスとギートの絆を深いはずだ。それが簡単に崩れてしまうなど、ありえない。
「ギートは昔からの家族だろ?ずっと一緒にいたんだろ?」
「セの字、それは違う。家族には今も昔もありゃあせん。新しいもんも、古いもんも、家族は家族なんじゃ。
…頼みがある。情けない話じゃが、ワイひとりじゃ返り討ちじゃ。
ギートを倒すんを、手伝ってくれ。」
「モーゼス、お前……。」
モーゼスはセネルに深く頭を下げて頼み込む。
セネルはそれを悲しく思うと、言葉が出なかった。
「恥をしのんで頼む。ワイに力を貸してくれ!頼めるもんが、他にゃあおらん!」
「モーゼス、顔を上げろ。」
「頼む!」
こいつはなんて、不器用な奴なんだ。
ここにいる誰も不器用で、一本気な男なんだ。
「お前の言う、家族ってのは、そんな他人行儀なのか?」
「!」
「手伝いはする。だが、俺が手伝うのは、ギートとを救うためだけだ。」
「……わかったそれだけで充分じゃ。」
「結論も出たようなので、僕はギートの所在を調べに行きますよ。」
「すまんの、ジェー坊、頼りにしちょるぞ。」
モーゼスはジェイの頭に手を乗せる。しかしジェイはスッと体を引いて、その手から逃れた。
「やめてくださいよ、気持ち悪い。」
「なんじゃと!」
「お前達、やめないかこんな時に。オルコットさんも笑ってるぞ。」
先程から心配そうに見守っていたオルコットは、チャバたちの看病をしながら笑っていた。
「いいんじゃない?いつもの調子が戻ってきたって感じ!」
「そうね〜。お姉さん、この方が嬉しいわぁ〜。」
「調べがついたら、声をかけます。さんの状況も心配ですし。」
モーゼスは少し考えた後、クカカと笑った。
仲間達は何かと思って一斉に彼を見る。
「は大丈夫じゃろ。殺すならここでチャバ達もやられとるはずじゃ。じゃが、だけは無傷で連れて行ったようじゃからな。……きっと、ギートにゃあが必要じゃったんじゃろ。」
「さんが必要……?どういう意味ですか。」
「それを今からジェー坊が調べてくるんじゃろ?」
「……そうですね。
それでは行って来ます。それまでは休んでいてください。まだまだ働いてもらわないと、困りますからね。」
ジェイは風の様に野営地を出て行った。
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モーゼスの葛藤。
助けるのも助けられるのも、家族たる証拠です。
2007/12/24
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